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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
カラスの意趣返し
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カラスの意趣返し

「まあ、シャーレイの当主と少し話したことなんですが、古くからある、いえ、最近はたかが数代ほどしか伝わっていない魔術師の家が、偉ぶってしょうがないということで、一風吹かせようか、ということで話がまとまっていましてね」

 話し込んだのはつい先日。なぜか、彼のほうから私を訪ねてきたのだった。ちょうどイレーニャがサラさんのところに遊びに行っているその隙を狙ったようにふらりとこちらに寄った彼は、酒を手に、知らないはずの私の名を呼んでにやりと笑ったのだった。

「一風吹かせる?」

「ええ。人工的にでもなんでも、まともな家じゃないのに実力は抜群っていう、彼らにしてはクソみたいな生徒を魔術師学校にぶち込もうかと思っているんです。それか、私とシャーレイの旦那で新しく魔術師学校を開いて、あの陰湿なドロドロとした場所を切り開いて風を吹かせようかと」

「……いや、それは……」

「その一駒になってくれるのであれば、弟御をお預かりしますよ?」

 それはもう楽しいひと時だった。ここまで話の合う人間がいるものかと思えば、アンガースの時からの付き合いの人間だった。

 それに気づいて、私も、昼間から飲んでしまって、イレーニャに怒られたのだった。飲むと絡んでうっとおしいらしい。猫可愛がりしたようで、次の日毛並みを激しく乱したイレーニャが水浴びをそこそこにとっとと家出して、夜まで探し回ったのだ。もうしまい。

「それは……?」

「もちろん、弟君の意見を聞いてですが、もし、弟君が私の元で修練を積む覚悟がおありならば、私は預かって、魔術師に仕上げます。……魔力がない? そんなの些細な問題です。魔晶石で補えばいい話ですからね」

「……いや、金が……」

「私に任せて。ある程度感覚がつかめれば自然界に満ちる魔素を取り込んで、魔力に変換することも可能です。……そのための呪刻を施してやることはできます」

「……」

 目を見開いたレオンくんとカインくんに私はふっと笑う。

「私は魔術師のさらなる発展を願っています。それが、たかが浅い魔術師の家系によって優秀な人材を失われるのはとても痛い損失だと思っていますからね。魔力がなくても魔術の研究はできますから」

「……いっそ、魔術師科と、魔術研究科って分けてしまったら」

「そしたら、二つは別になってしまいます。魔術師が研究をするは当たり前のことですからね」

「……たしかに」

「親父研究していたか?」

「いや」

 そう。若い連中はそこを間違っているのだ。

「最近の連中はそこがなってないんです。魔術師とは本来、真理を探究するもののことです。ですが、今の魔術師たちは、研究をそっちのけで自らの虚栄心をいかに満たすかを競っている。昔はもっと、国のためになる魔術とは何か、というものを競って議論し、そして、それを作り上げて発表していたものですが」

「それが、古代魔法ですか?」

「ええ。でも、ひどいことになりました。ここまでとは言わなくとも、そうですね。今はもう、国は平和になっていますから、民の暮らしに密着したものを作り上げてもいいんじゃないですかねえ」

「あ、それ面白そう!」

「でしょう? 前に、生誕祭の装飾の光を魔晶石で作りましたが、それもなかなか好評でしたよ」

「ほう? じゃあ、ろうそくの代わりに魔晶石が光をともすっていうことも?」

「できますが、費用が掛かりすぎます。もっと手軽に。そうですね……」

「それは、また、アトリエで話してくれないか……?」

「ええ、そうですね。お暇なときにいらっしゃい。そういう相談でしたら私も喜んで受けますよ」

「ぜひ!」

 声が弾んだレオンくんに私は苦笑した。こうではなければいけないのだ。魔術師は。

「その……」

「そのことも併せて。これでも、今でもゴーレムを作ることができる人間ですから、器に魔力を込めることぐらい簡単です。それに……」

「それに?」

「私の魔力の一かけらを渡せば、魔術師としては十分な魔力量になりましょう。私は、かつて、魔力が多すぎて逆に魔力を外に出して魔晶石に込めました。その分を彼に渡せば、彼の一生分ぐらいの魔力はあると思いますよ」

 笑うと、カインさんが苦い顔をした。

「どれだけ魔力強いんですか……」

「そうですね。竜晶より少しないぐらいでしょうかね。まあ、そんな気にするものではありませんよ」

「いや、気になりますからっ!」

 そういうものかと首を傾げながら、そろそろ帰ろうと、彼らを促して、魔法騎士学校の時にバーナードとともにやった黒歴史を明かしながら、帰路へ着いた。

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