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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
ニート初出勤
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ニート初出勤

そのまんまです。しょうもない話です。自己満足です。

 朝、まだ眠るイレーニャの髪を撫ぜて、私は起きる。まだ、日は明けず薄ぼんやりと空が明るく、これでは東の空に太陽が顔を出し始めたぐらいでしょう。日課になっている水浴びをしてから体をぬぐって制服に着替える。

 そして、時計で時間を確認しつつ、彼女の朝ご飯を作ってから、装備を整えて、もう一度寝室へ出向く。

「イレーニャ」

 髪を撫ぜて揺すると、寝ぼけた顔をして起きてくれた。

「イレーニャ、行ってきます。もう朝ですから。何かあったらサラさんのところに行くんですよ?」

「ますたー? なんで?」

 寝ぼけているらしい幼い口調にそっとため息をついて、閉じかけた目が開けばいいと軽く頬をつねる。

「ほら、私、魔法騎士の一員に加われと父から辞令が来たでしょう?」

「……ほげっ!」

 ぱっと覚醒したイレーニャが体を起こす。危なくぶつかるところだった。って、慌てたからか羽が飛び出している。

「落ち着いてください。もうそろそろ出ますので、行ってきます」

「あ、はい、行ってらっしゃいませ」

 どこかかたい声に私はふっと笑ってその頭を撫ぜてから玄関から家を出て、そして、朝靄に包まれた町へ下っていったのだった。

 そして、砦の詰所を涼しい顔をして通り過ぎる。門番が目を剥いているのがとても面白い。確かに、これは面白いかもしれない。彼の脳内では、カラスがなぜコスプレしてここに入るのかといったところだろう。でも、止めないということは何かしらの話が行っているのだ。

「失礼します」

 まずは、領主に着任の挨拶だ。起きてないだろうと執務室に顔を出すと、先代と、げっそりした今代の二人がいた。

「久しぶりだね、ウィルフレッドくん」

「ええ、ご無沙汰しております、ロジャー様」

「お前、もっとシャキッとせんかい」

「だって、朝……、嫁……」

「まあ、私が言いたいことはロジャー様が言ってくださると信じて何も言いませんが、今日付けより、ここの軍師として着任いたしました。よろしくお願い申し上げます」

 騎士としての礼をとる。身に沁みついたその動きは、本職と遜色ないはずだ。

「この町のために、頑張ってくれたまえ。あと、この不肖のバカ息子も頼む……」

「この町の栄あるようにまい進していく所存にございます。して、早速ですが、一つ言上申し上げたいことが」

「なんだね?」

「この町の砲台を近くぶっ放したいのですが」

 朝からする話題ではないと思ったが、そうせざるを得ないぐらいせっぱつまった状況になっている。

「どういうことだね?」

 むろん、意味もなくこれを言うとは思っていないロジャー様の老眼鏡越しの目が鋭くきらめく。父の幼馴染だという彼は、甘っちょろい父をいつも補佐してくれていたそうだ。

 私もむろん、彼の手から離れた父のそういう甘っちょろいところを隠れてつぶしてきたのですが、それも知られていることでしょう。そういう属性が二人もこの町にいたらどうなるかわかってのこの辞令だったんでしょうか。はなはだ疑問だ。

「今の代から数えて、四つほど前、つまり、先代様のひいお爺様の代にて、脈々と受け継がれていた砲台係が消されているのですが、それが非常にまずいものでして」

「あれ邪魔だから縮小したいと思っていたところなんだが」

「お前はだまらっしゃい。非常にとは?」

「わが一族が作り上げた古代魔法で制御するものでして、それに加えて、多少は錆びつきにくいものとは言え、錆びつくと暴発したりします。記録では、人の一生に一度程度、つまりは四、五十年に一度ほど中に球を詰めて飛ばして、熱と振動でさびを落とす作業をしていたようです」

「錆錆ということかね?」

「可能性はあります。一度中を掃除した後、これは危ないので私が全て魔術で完了させましたが……」

「いつだよ!」

「あなたが嫁にうつつを抜かしている数か月の間です」

 そう、この領主、無能もいいところに加えて、戦争が終わってすぐぐらいに婚姻を結んだのだった。民たちの生活が少し混乱しているところを狙って、すぐに忘れ去られるようにと思っていたらしいが、民たちはそういう情報には耳ざとい。

 もっぱら最近酒場では、尻に敷かれた無能領主のドタバタ恋物語が詩人によって謳われているとバーナードが馬鹿笑いをしていて、彼が尻に敷いていただいているといわなければならないだろう、彼の嫁を召喚して捕獲してもらった。

「しかし、数か月といっても……」

「わたしの魔力量は人並みよりかなり多いものです。それぐらいの仕事ができるようにはなってますよ。一か月ぐらいもらえればね。あとは、ぶっ放すだけですが、隣国との兼ね合いと、王城のほうがうるさくなるでしょうから、御子の力を借りて、ハナビというものを打ち上げることを提案します」

「御子? あの、伝説の神の御子のことかい?」

「ええ。私のペットのつがいのお父様が、エルフの守り人の家系だったようで、コンタクトが取れ、なおかつ、エルフの長どの自らの手で花火玉を作ってくれると約束していただきました」

「つーか、ハナビって何だ?」

 この方は話の腰を折ることだけには長けてますねえ。

「金属と火薬を混ぜて燃やした時に色が出るのを利用した火の細工です。弾がはじけたときに引火した火薬と金属の混合物が夜空の上で火を放つことで、様々な文様を夜空に浮かべられると御子は言っていました」

「ふむ、しかし……」

「いっそ、隣国に通告して、辺境同士の交流にしてしまうのもよいかと思います」

「我らは、王城と隣国に通告などの話をまとめておけということか?」

「ええ。その通りでございます。王城ぐらい、簡単ですよね? ロジャー様は」

 付け入るスキをたくさんお持ちですからね。

 真っ黒い笑みとバーナードに言われる笑みを浮かべると、負けじと真っ黒い笑みを返してくれたロジャー様がうなずく。

「親父とカラスこええよ……」

 人畜無害なこの無能なだけが取り柄の青年は、私たちにガクブルと身を震わせていただけだった。

お父様は、すっかり失念していたことでした。(笑)

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