94.もう一人の自分
その夜、ミア(ルミアーナ)は夢をみた。
今いるこことは違う世界の自分…。
そう、日本にいる美羽の夢である。
なんだか、とても混乱しているようだ。
くるおしいような気持ちが伝わってくる。
どうしたの?向こうの私。
何だか、とても悩んでいる?
私は今、元気で幸せにやっている。
恋愛なんて夢のまた夢かと思っていたのに、この世界でなんと結婚までしてしまった。
向こうの自分にも幸せになってほしい。
ああ、でもそうか…向こうの私は美羽とルミアーナが、もともと一つの魂であることも別れた魂がそれぞれ別の世界で生まれ育ったことも、死にかけた私たちが入れ替わる事によって助かったことも何も知らないのだ。
月の石の精霊は、そう言っていた。
何もわからずに悩んでいるのなら教えてあげたい。
自分の知りうる限りの事を…。
だが、それには向こうの世界の自分、美羽が向こうの世界にある月の石に近づかないといけないのである。
「でも、月の石ってあっちの世界のどこに?」と、小さく呟いた。
『今、美羽は、かなり月の石の近くにいるぞ?』
と、枕元に置いていた月の石がほんのり光りミアの独り言に答えた。
「えっ?本当に?」ミアは横で眠るティムンや、ラフィルを起こさないように小声で話す。
心の中で念じれば良いだけなのだがミアはどうにも、それが苦手なようである。
『月本古宮神社の御神体とされている石があるだろう?』
「あ!あれ?凄い大きいよね?あれも月の石なの?光ってなかったけど?」
『入れ替わる前の美羽とルミアーナには、まだそれほどの力はなかったからな』
「それほどの…って?」
『主となれる程の力は魂が異界を越えなければ生まれない。我ら精霊と会話するのも無理だ。どんなに修行をつんでも、魔法力があったとしても我らが意図的に告げる神託めいたものを聞ける程度だ。血族のルーク王子などは魔法力も豊富だし知識もあるが、まず我らの方から交信せぬ限り精霊を呼び出すことすら叶わない』
「ああ、そういえばルーク、悔しがってたわね。自分なんて、たまに声が聞ける事がある程度だって…」
『主(ルミアーナ)には、血族であり、異界にもう一つの入れ替われる魂があった。我ら月の石に宿りし精霊は永き時、新しき主を求めていた。けれど見つけたその2つの魂は同時に死にかけていた…。我らは、この魂を消滅させまいと慌ててその魂を入れ換えたのだ…。間に合って本当に幸いだった』
「私たちが入れ替わったのは必然?偶然?」
『待ちわびた魂を見つけ奇跡的に入れ替わる機会を得た。そして必然的に入れ換えた』
『延命と共に主を得られたのも幸いだった』
「んー?つまり、私の魂がこちらに来なければ私達は、死んでたし新しい月の石は生まれなかったし、邪気を祓う光も降り積もらなかったって訳よね?」
『そうだ』
「うん、だから、やっぱり必然って、ことよね」
『その通りだ…二人の命は救われ月の石は復活しラフィリルを蝕みかけていた邪気を打ち消し国を救ったのだから』
「いまいち、そんな大層な事をした感覚はないんだけど…このまぁ…これは、これで、良いんだったらいいか…」
…と、美羽の記憶を持つルミアーナときたら、一事が万事その調子である。
「それ、あっちの私(ルミアーナの記憶をもつ美羽)にも教えてあげたいのよ、何とかならない?今の美羽も、魂が入れ替わったのだから月の石は反応してくれるのよね?」
『うむ…あちらの世界は、こちらと比べると魔法力が及びにくいが、こちらから力を送ればなんとかなるだろう。まあそれも、あちらの世界の美羽が気づかねば、どうにもならないが…』
「そっか…」とミアはため息をついた。
『今、近くにいるのだから、あちらの石に光を送ってみよう。美羽とて血族のルミアーナと魂を分かつ者、そして、もともとが、こちらのルミアーナの身体に宿っていた魂だ。お互いの心は響きあう筈だ』
そして、月の石から異界に美羽の世界に光が、放たれた…。
きらきらとした美しい光が、きらめきながら異界の美羽の元に…。




