93.ミア、ルークたちとやっと交信する! ミア視点
その日その旅立ちは、いきなりだった。
ラフィル様とティムン、私ミアの三人は、国境を難なく越えられた。
以前ダーナ様が、私をいつでも自由に通すようにと国境の警備に言ってくれたお陰である。
そのせいで、まさか私達がスタコラサッサと逃げ帰るとは夢にも思わなかっただろう。
関所長は平伏し以前の時の兵士もペコペコしながら通してくれた。
一緒にいた、旦那様とティムンの事は、護衛と小間使いと勘違いされてたっぽかったけど、そこには触れずにやり過ごした。
とりあえず関所さえ越えてしまえばこちらのものである。
とりあえず帰るときには、必ず寄ると約束していたのでポーラがいる”ドレス専門のお店、ポララ”にも立ちよった。
そこで、またポーラがお茶とお菓子でもてなしてくれていたのだが…。
月の石が、ぷるぷると騒ぎ出した。
『ルミアーナ!ルミアーナ!ルーミーアーーナーーっ!』
「え!?なに?あっ!ルーク王子?」
なんと、それはルーク王子からの通信だった。
「まぁ!ルーク!久しぶりっ」
取りだした月の石がぽうっと光り、頭の中にルークの声が聞こえる。
『ひさしぶりっ!じゃないよ!一体どれだけ呼びかけてたと思ってるの?二人が駆け落ちしてからというもの、リゼラやフォーリーと交代で日に何回もずっと呼びかけてたんだよ!もう、御力がなくなって通信も出来なくなっちゃったのかと心配したんだから!』と怒るルークの剣幕に普段は強気の私も押され気味になってしまった。
「あらら…ごめ~ん、で、でもね?こっちも色々とバタバタで大変だったのよ~…」
『バタバタなら、こっちだってだよ!とにかく早く帰っておいでよ!二人の結婚は二人が駆け落ちしたその日にもう許されてるんだからね!』
「ああ!ソレね!もう知ってるから…っていうか、見たっていうか…」
『はぁ~?何それ?えっ?まさか月の石?月の石の力で?ちょっと月の石のこと、何、超便利に使いこなしてるの?僕なんて学園で五年間も学んでやっとこさ声が聞こえる時があるって言う程度なのに~』
「あははっ!ごめんごめん?でもそんな便利に使ってないよ?月の石の事忘れてて思いだしたのつい昨日?一昨日?その前…三日前くらいよ?立ち寄った服屋さんに忘れてきちゃってて忘れてたのよね。あはは」
『…って、ひどいな、それ!よけいひどいよ!なんでそんな薄情なルミアーナが、”月の石の主”なんだ!僕だって血族なのに、あああ~くそうっ!』
「あはは、すみません~」と、笑いでごまかしながらも、本気で何だか申し訳ない気がした。
何せ、ルークは学園の魔法学科でずっと勉強してきて私なんかより、ずっと魔力についても魔石や月の石の歴史にも詳しいのに…本当に神様って不公平?
って、神様じゃなくて精霊か…。
しかし、また一体、月の石もなんで自分なんかを選んだのかと思った。
「ええと、とにかく今もう、そっちに向かってるから!あ!それと、私達、十歳の男の子を引きとったから!ティムンって言うの!よろしくねっ」
『はぁ~?何それ?人間の話?犬や猫じゃないんだよね?』
「そうよ!もちろん!だから、私の弟か子供にするの!お父様、お母様にも言っといてね?ああ!そう、ルークも会った事のある子よ。覚えてる?あのお菓子屋さんで会った…」
『ああ~!覚えてる覚えてる!小さいのにやたらしっかりした?お菓子を二個ルミアーナから買っていった子?』
「そうそう」
『なんでまた、そんなことに?』
「まぁ、その辺はゆっくり帰ってから話すから、」
『ああ、もう、何でもいいや!すっかり二人の結婚式の準備は整ってるよ!パレードのための道まで整備されてるくらいだからね!』
「うふふ!楽しみね」
『気を付けて帰っておいで?明日には王都に着くくらいかい?』
「そうね、子連れだし、今晩は途中で宿をとるわ。明日の昼には着くと思う」
『わかった!じゃあ、式はその後だな。皆に言っておくよ。皆泣いて喜ぶな!ダルタスにも気を付けて帰って来いって言ってくれよ!』
「は~い!」と、元気よく交信を終えた。
くるっと皆を振り返る。
ポーラもティムンもラフィルもぽかんと呆気にとられている。
「っだって~!うふふ、楽しみねっ?」
「って、何が?」とティムンが私に聞いた。
「あ、そうか…皆には聞こえないんだっけ?月の石からの声って…」
そう、三人には私がなにやら、ぽわぽわ光る石にむかって一人で騒いでいるだけに見えるらしい。
ちょっと怖い光景である。
ポーラなど、ちょっと引き気味である。
「それで?ルークと喋ってるってのだけは何となく分かったがな?何が楽しみなんだ?」とラフィル様が面白そうに尋ねてきた。
「私達の結婚式の準備は整ってるし、パレードのための道まで整備されてるらしいわ!うふふ」
「はぁ?それはまた…」と、ラフィル様がちょっと呆れた様にいうと、
「極端ですねぇ?お二人は反対されたから駆け落ちされたんですものねぇ?」とポーラが眼鏡を上げ下げしながら言葉を繋いだ。
「全くだ!ゲンキンなものだな」とラフィル様は照れ気味に言うがやはり少し嬉しそうである。
もちろん私も嬉しい!
「ティムンの事も言っておいたし、お父様お母様ならきっと良いようにして迎えてくださるわ!」
「ミア姉さまの?お父様とお母様?僕、大丈夫かな?」
「あら、絶対に大丈夫よ。私のお父様お母様はとても優しくて素晴らしいのよ。きっとティムンの事も喜んで迎えてくれるわ!楽しみね?」とそれはそれは優しい笑顔をティムンにむけた。
その後、立て続けにリゼラやフォーリーから泣きながらの通信を受けて私達はなかなか、出立できず、ポーラの店を出れたのはそれから二時間ほどたった後だった。
二人とももう、心の底から私の事を心配してくれていたようで元気な様子を聞くことができ涙をこらえきれなかったようなのだ。
そうしてみると月の石の事もリゼラやフォーリーの事まで途中、本気で忘れていた私ってば確かに、薄情だったかもしれない…。
だがしかし、それが、悲しいかな恋の副作用と言うものなのである。
何せ駆け落ちして浮かれまくっていたのだから。
そこはそれ!許してやってほしいのである。
そうして、途中の宿に着いたころには、もうとっぷりと日が暮れて星が空高く輝く頃となった。
晴れて母国での結婚式である。
夢と希望に胸膨らませる!
ああ!何てったって幸せな予感しかない!そう心から思えたのだった!




