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目覚めれば異世界!ところ変われば~【Kindle本で1巻発売中】  作者: 秋吉 美寿(あきよし みこと)
ところ変われば、花嫁?
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89.ティムンと家族

 楽しい食事が終わるとミアとティムンは二人で食器を片付け、ラフィルはティムンのベッドを組み始めた。

 意外にも大工仕事も器用にこなすラフィルである。


 そして片付けが終わると、ミアはティムンに「薪拾いに行くから森を散策しましょう」と言いだした。


 これには、ティムンは仰天してしまった。

 昨日、”祟られ熊”に自分は飲みこまれて死にかけたばかりである。

 子供の自分と女性の姉さまだけで森を散策なんて危ないしラフィルさんの大工仕事が終わるまで待った方がいいんじゃないかと不安げに言ってしまったのも仕方がないだろう。

 しかし、そんなティムンにミアは、

「あら、そんなに遠くに行かなきゃ大丈夫よ」とけろっとした顔で言う。


「ついでにダーナさんにも会いたいから、()()()()()教会にも行きましょう?」


 おいおいおいおい…教会の近くの森で…まさに、そこで、僕は魔物に出くわしたんですけど?と突っ込みたくなるティムンだった。


「心配しなくても、出没していた魔物はラフィル様が退治してくれたじゃない?」とミアが言うが、ああいうのは1匹みつけたら10匹はいるものである。


「”祟られ熊”はいなくても”祟られ兎”や”祟られ蛇”がいるかもしれないじゃないですか?危ないですって!」とティムンが言うと


「あら、大丈夫よ。ねぇ?ラフィル様?」とミアがラフィルに同意を求めた。


「ああ、いいぞ?どうせ買い出しもあるんだろう?だが、フードはしっかり被って月の石は肌身離さず持っていくんだぞ?」とラフィルが意外にもあっさりと二人での外出を許した。


 ティムンは顔隠すくらいでいいんかいっ?と更に突っ込みをいれたくなった。

 日焼け予防じゃないんだよっ!とか思ってしまった。


 正直、昨日の今日で怖くもある。

 ティムンにしてみれば、暫くは家の中で引きこもって暮らしていたいくらいだ。


 ラフィルはそんなティムンの気持ちを悟ってか、テイムンに笑いながら声をかけた。


「恐がらなくてもミアが一緒なら大丈夫だ!ミアは強いんだぞ?昨日、ミアにアルフォンゾ皇子が投げ飛ばされたのを見てなかったのか?邪気もミアには近づけないだろうし、そこんじょそこらの狩人や兵士より強いんだからな」


「なっ!何を!僕は男ですよ!こっ…怖くなんてないです!でも、ミア姉さまは女の人でお姫様なんだから!」


 ティムンは、本当は怖かったが強がってみせた。

 そう!自分は小さくっても男なのである。


 しかし、ラフィルさんの言い草はどうだろう?

 いくら何でもこんな華奢なミア姉さまが、そんな狩人や兵士より強いだなんて。

 アルフォンゾ様を投げとっばしたと言っても突き飛ばしたくらいだろう?

 多分、そうに違いない。

 突き飛ばされたのだってたまたまアルフォンゾ様が油断していたからだろう?と思う。


 正直、たまたま視線を別の方に向けていた為、その瞬間は見ていなかったティムンはそう思った。

 まさかミア姉さまのよう華奢で可憐な女性がラフィルさんほどではないにしても、アルフォンゾ様のような背の高い男の人を投げ飛ばせるなんて夢にも思えなかった。


「まぁ!私を心配してくれたの?ありがとう!ティムン」と、ミアがティムンをぎゅっと抱きしめた。


「ぼ…僕は…怖くなんて!」真っ赤になって照れながらティムンは強がった。


「そうよね?さすがに男の子ね!頼りになるわぁ!私どうしてもダーナさんに会いたいのよ。昨日、月の石を取りに行った時のお礼もしたいし!ね?一緒に行ってくれるかしら?私は()()()()()行きたいのよ」とミアは両の手を組んで大きくて綺麗な瞳をうるうるさせながらおねだりのポーズをしてみせた!


 ティムンは思った。

 うぐぐぅっっ!こんなのずるいです!

 女神さまである(少なくともティムンはそう信じている)ミア姉さまのこんなおねだりポーズに逆らえる人間が一体この世界のどこにいるっていうんですか?と。


 ティムンは本当は外に出るのさえ未だ恐かったが何とか頑張る事にした。


 そしてミアとティムンは道々、落ちている小枝を薪代わりに拾い集めながら教会まで何とかたどり着いた。

 途中、ハラハラドキドキのティムンをよそにミアは鼻歌交じりにそれはそれは楽しそうに薪を拾う。

 背中に大きな籠を背負ってぽいぽい放り込みながらドンドン歩いて行った。





 --さらにティムンは思った。---


 さすがは、ミア姉さまだ!女神さまなだけは、あります!

 あんなに沢山の薪を籠に放り込みながらもすごいスピードでずんずんずんと歩いて!

 手ぶらの僕の方がちょっとゼイゼイいってしまうくらいのハイペースです。


 ようやく、教会の前に着くと僕ははっとしました。


 ミア姉さまについて行くのに必死で怖いの忘れていたな…と。


 ミア姉さまは、ぽぽいっと籠を教会の隅において僕の手を引いて中へ入りました。

 僕はもう十歳なので小さい子ではないのですが、ミア姉さまが手を繋いでくれるのは何だかとても嬉しいのです。

 僕は、怖かったけど姉様について来て良かったなと思いました。

 そう思ったらもう、外へ出るのも何だか平気な気持ちに変わっていました。


 ばんっと勢いよく教会のドアを開け放ちミア姉さまは中にずかずかと速足で入ります。


 あれれ?なんだか、姉さまはご機嫌斜めです?


 最初は鼻歌とか歌ってご機嫌だったのに?


 そういや途中から鼻歌も歌わなくなって、どんどん速足になったような?とティムンは不安になった。


「神父様!ダーナ様!いらっしゃいますか?」とミアは聖堂の方に向かい、少し怒ったような声をかけた。


「まぁっ!ミア!やっぱり今日もきてくれたのねぇ?嬉しいわ?」


「おお、おお!よう来られましたのぉ?」と二人は嬉しそうに出迎える。


「ダーナ様、私、昨日申し上げましたわよね?どうか、()()()()()()くれぐれも()()()()()をなさらないように釘をさしておいてくださいませ!と!」


「家からこちらに来る途中ずっとつけていらっしゃるようで、非常に鬱陶しいんですの!」と苦情をダーナと神父に言った。


「ええっ?」とティムンが驚いた。

 ティムンは、まさかアルフォンゾ様がつけて来ていたなんて全く気づかなかったのである。


「あっちゃあ!あん…のバカ!」とダーナが吐く。


「むぅう、馬鹿者めが」と老神父も呻いた。


「自室に籠るとかいって殊勝なことを自分から言うから拘束しないでやったのに!」とダーナが忌々し気に言った。


「まぁ、ティムンの事が気になって謝りたいとかでしたら、話を聞かなくもないですけど、それならそれで、きちんと旦那様のいるところで声をかけるなりして頂きたいものですわ!黙ってつけてくるなんてストーカーではないですか?」


「え?何?す?すと?か?」


「ああ、ストーカーという言葉はこの国にはないのですね?あの…この国の王子様に対して大変申し上げにくいんですけれど…要するに()()()()()()だと申し上げてますの!」となかなか、強気な発言である。


 そこまで言うと、隠れてつけていたアルフォンゾ皇子が姿を現わした。


「それは、あんまりです!姫君!私は貴方の身を案じて!」とアルフォンゾ皇子が言った。


「姿を現わしましたわね?私が?ですの?あなたの小間使いだったティムンを案じて…ではなく?」と聞いた。


「あ、い…いや、そう!もちろんティムンの事も案じていたとも!もちろんだ!」と狼狽えて言うアルフォンゾに周りは思った。


 ティムンの事など完璧に忘れてたな…と…。


 かっと頭に血が上ったミアは、怒気の孕んだ声で言った。


「もう、結構!アルフォンゾ皇子のお気持ちはわかりましたわ!ティムンは私が引き取ります。よろしいですわね?ティムン!貴方は私の弟になるの!よいわね?それが無理なら養子縁組してラフィル様と私の子供にします!」


「え?え?え?」とティムンはもの凄く驚いたが、もちろん異論はない。


 むしろ夢のような話である。


 今朝もそんな夢のような妄想を抱いたばかりである。

 しかも申し訳なく感じていたアルフォンゾ様がこんな感じなのであれば、申し訳ないと感じる事もなさそうであると、ちょっと複雑ではあるものの、むしろほっとした。

 だが、そんな事本当に叶うものなのか?と返事もできずにいる。


「まて!話を聞いてくれ!貴女は間違いなく騙されている!私は貴女をお守りするために貴女をつけていたのだ!」とアルフォンゾがミアに懇願するように言う。


「よすのじゃ!何を馬鹿なことを!ミア殿の婿殿はそんな男では…」と老神父(実はアルフォンゾ皇子の祖父)が、言いかけると


「爺さんは、黙っててくれ!あんな男を信じるなんて耄碌(もうろく)したものだ!」とアルフォンゾ皇子は老神父を…自分の祖父をなじった。


「ばか!なんてことを!」とダーナが青ざめる。


 退いたとはいえ、前皇王に対して第三皇子ごときが言ってよい言葉ではない!


 今までの愛着のこもった”爺さん”呼びとは違う”侮蔑”の言葉である。


「…」老神父、前皇王エストラーダ・ジャ・カイナールは一瞬、押し黙った。


 そして、ミアに向き返り頭を下げた。


「ミア殿…いや…ルミアーナ姫。本当に申し訳ない。この国の皇子がこんな馬鹿で恥ずかしいかぎりじゃ。祖父として私からも詫びよう」と頭を下げた。


「えっ!祖父?では、神父様は…?」


「左様、(さき)の皇王エストラーダ・ジャ・カイナールと申しますのじゃ。ルミアーナ姫」


「爺さん!何を勝手なことを!正体までばらして!」


「馬鹿者!この姫はラフィリル王国の公爵令嬢ルミアーナ・アークフィル姫じゃ!血族にして、かの”月の石の主”!お前ごときが姫に選ばれた訳でもないのに!何を血迷っている!」と一喝した。


 さすがに、前皇王の本気の恫喝はもの凄い迫力である。


 美羽の記憶にある道場主だった父にも負けない迫力に、一瞬ミアも驚いた 。


「バカが、本気で爺さん怒らせおって…」とダーナが小さく吐いた。


「し…しかし!あんな男よりは()()である私の方が!」


「まだ、言うか!彼は、ラフィリル王国が英雄、三将軍の一人!ダルタス・ラフィリアード公爵にして鬼将軍と呼ばれし男じゃ!王位継承権とて五位以内だ!国のさしたる役にも立たず、税金で物見遊山三昧でほほんと暮らしてきたお前とは格が違う!」とさらに、恫喝した。


「なっ!あ!あの男が?まさか?」


「お前は、姫の為に、皇子という身分も税金で何不自由なく暮らす暮らしもすべてを姫の為に捨て去ることが出来るとでも言うのか?」とすごんだ。


 この言葉にミアは内心パチパチと前皇王に拍手を送った。

 ソレよ!()()!よくぞ申して下さいました!という感じである!


 しかし、アルフォンゾも食い下がる。


「わ!私にだってできます!少なくとも私は魔物の出るような森を子供と二人だけで歩かせたり、薪拾いをさせたりなどさせません!それに、あんなに重そうな籠を女性の身で抱えて!朝食の支度までさせていたんですよ!下働きの端女がするような事を姫が!姫はあの男に姫は働かされているのです!」とアルフォンゾが言った。


 これにはミアも黙っていられない!


「食事の支度まで覗き見てたなんて…完璧なストーカーね…」と小さくつぶやくとすうっと息を吸い込んだ。


「聞き捨てなりませんわね!薪拾いは体を鍛えるのにちょうど良いとおもったからですわよ!一石二鳥と()()()()()勝手にやってるんですの!それに、そもそも私とティムンが二人で森をぬけてきたのは、敢えて選んでその道を通ってきたのです!怖い目にあったからと言って閉じこもっていてはトラウマは大きくなるばかりですわ!鉄は熱いうちに打たねばならないのです!昨日の事も今日乗り越えてしまえばトラウマにはならない!そう考えたからこそラフィル様と相談して、ティムンと私だけできたのです!それに、ティムン一人助けられなかった貴方が私の後をつけたところで何の役に立つというのです?目の前に立ちはだかり私たちの代わりに喰われてくれるとでも?」と、手厳しい言葉を投げつけた。


「し、しかし、食事の支度など…」


「失礼ですわ!料理は淑女の嗜みでしてよ?私、お料理は趣味ですの!ついでに言うと、私、ラフィル様に何か家事を言いつけられた事など一度もございませんからっっ!あの方は全部、ご自分でやってしまおうとされていたのを、私が横取りさせて頂いただけですわっ!だってそうでしょう?そんな楽しい事私だってラフィル様の為にしたかったんですものっ!」と、息継ぎもせずに一気にまくし立てた。


 酸欠で、ちょっとだけぜーはーいっているのは致し方ないと思われる。


 日本で育った勝気な美羽の記憶と性格が全開の戦闘モードである。


 そして端っこの方で小さくなりながら、その攻防を眺めつつティムンは、そうだったのか…と納得していた。

 ラフィルさんやミア姉さまは僕の為にわざわざ、危ないのにあの魔物が出た道をわざと通らせたんだ…。

 確かに僕、もう外に出るの怖くなくなってるし…と思って地味に感動していた。


「そ…そんな…」とがっくりとアルフォンゾ皇子が項垂れた。


 言うだけ言うとすっきりしたミアは、くるっと振り返り神父とダーナに向き直った。


「…と、いう訳で、これ以上付きまとうようでしたら私、我慢なりませんのでダーナ様何とかしてくださいませ」とダーナに詰め寄った。


「ひぃぃぃぃ~、わ!わかった、わかったからミア!あなた!目が座ってるからっ!こわっ!」と言い、ぼんっと、老婆から綺麗なお姉さんにもどると、ぱちんっと指をならし、アルフォンゾを魔法で拘束した。


「こ、このお詫びは皇家からも…」と、前皇王エストラーダ・ジャ・カイナールが申し出たが、ミアはそれを丁寧に断った。


「お気遣い頂きありがとうございます。けれど、ご存じの通り駆け落ち中の身なれば、ご遠慮させてくださいませ。どうしてもとおっしゃるなら、どうかティムンの事、本当に私共が引き取りたいと思いますのでよしなにしてくださいませ。たった一日過ごしただけですが情が移ってしまいました。元の(あるじ)が、あのご様子では到底返す訳には参りません。幸い私の夫は懐の広いお方ですから私もこの子も受け止めて下さいます」と頭を下げた。


 ティムンは実は貴族の出だが家族が事故で死んで天涯孤独だった。

 血筋だけは良くとも後ろ盾がある訳でもなく遺産もなかった。

 それ故、不憫に思ったアルフォンゾが皇家で小間使いとして雇ってあげていたのである。


 そしてティムンに向き直りミアは言った。

 子供のティムンに向かって頭を下げて手を握り懇願した。

「ごめんなさいね?大人の勝手かもしれないけれど貴方はもう皇子様のところに返してあげられないわ。どうか私達の家族として一緒にきてちょうだい?」


「家族?ですか?」


「そうよ!私達と家族に!嫌かしら?」と真っすぐな眼差しでティムンに話しかける。


「召使じゃなくて?」


「そうよ?私達あんな小さな小屋で召使なんて必要ないでしょう?」


「ぼ、僕…よ、宜しくお願いしま…」

 最後の方は涙で言葉にならなかった。


 ティムンは(自分は男の子なのに涙なんて!)と、そう思ったけれど涙はぼろぼろと溢れて止まらなかった。

 嬉しくても涙って出るんだと、そう思った。


 そして、ミアとティムンは、ダーナと一緒に買い出しをした後、小屋に戻った。

 ラフィルは二人を笑顔で迎えた。


「ああ、やっぱり、そうなったか?ベッドは出来てるぞ」と笑って言った。

 そう、ラフィルには、分かっていたのである。

 ミアが、怯えるティムンをわざと連れだしトラウマを消そうとしたことも、昨日から付け回してくるアルフォンゾの文句をダーナに言いに行ったであろう事も、ティムンを絶対アルフォンゾに返さないだろうことも!


 ラフィルは二人に言った。

「おかえり!」と!


 そうして三人は家族になった。


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