88.ティムンの回想
昨日、僕は魔物に食べられた…筈…だった。
あるかなしかの意識の中で所々に聞こえた大人の男の人の怒鳴る声!
「やかましい!こいつがいらないなら、この子供は俺とミアで面倒見る!いいから助けろっ!」
この子供って僕の事???
アルフォンゾ様の声じゃない?
誰が?
すぐにまた意識が途絶えて次に目が覚めた時にはとっても綺麗な女神さまが僕を膝にのせ抱きかかえていて…
ふんわりと優しい花のような香りがした。
僕はてっきり自分が死んじゃって天国にきちゃったんだと思ったんだよね。
でも、こんな綺麗な女神様に抱っこされてほほえみかけられて、僕、魔物に食べられちゃったけどまぁ、良いっか!とか思っちゃった。
それで、よく事情は分からなかったけど、僕を助けたのは見た目はちょっと(大分)怖いお兄さん?おじさん?だけどラフィルさんていう頬に傷のある男の人だった。
その男の人は、なんと女神さまの旦那様で、僕はそのラフィルさんと女神さまに手を引っ張られて、あれよあれよという間に二人のお家?森の中の小さな丸太小屋に連れてこられちゃった。
見た目は怖いけどラフィルさんの事は、信じられるし強くて恰好いいと思う。
聞けばアルフォンゾ様と神父様はもう僕が助からないだろうって諦めてたんだという。
でも、それは仕方ないと思うんだよね。
僕、自分でももう助からない!っというかもう死んだんだと思ってたもん。
それにアルフォンゾ様は普段は割と優しい良いご主人様だったし…。
僕は別にアルフォンゾ様がいいなら小間使いとして戻っても全然いいと思ってたんだけど…。
でも、女神さまも旦那さんのラフィルさんも「諦めが早すぎる!信じられないっ!」って怒ってる。
ちょっとは反省させるためにもせめて、あと何日かはここに居なさいって…。
主人としての自覚が足りないとか何とか言ってぷんぷん怒っている。
僕に頭を下げて迎えにこないようなら渡さないとまで言ってくれちゃっている。
だけど僕からしたら見ず知らずの僕の為にそこまで怒ってくれちゃう女神さまやラフィルさんのほうが信じらんないよ。
あ、見ず知らずっていう訳じゃないか?一度だけ会ってる。
以前、アルフォンゾ様がお忍びでラフィリル王国の王城近くまで行った時にお供で行った時に、僕、どうしても自分のお金で何かを買ってみたくてお城の近くにあったお菓子屋さんに入ったんだよね。
そこのお菓子は皆どれも美味しそうでますます欲しくなってアルフォンゾ様にも食べさせたくなって一つでも良いから売ってくれって言っても店員はダメだって…
そんなとき、声をかけてくれた見習い騎士の人が、姿を変えた女神さまだったんだよね。
その時だって僕の為にわざと、お菓子をわけっこしてくれたんだよ。
それこそ本当に見ず知らずの僕にだよ。
持って帰ったお菓子をアルフォンゾ様と分けようとしたらアルフォンゾ様に後から、包んでいたレースのハンカチだけでも百ピアはするものだぞと聞いて慌てたんだけどどこの誰とも分からないし返すこともできなかったんだよね。
あり得なさ過ぎて何だか胸が熱くなった。
何だか嬉しいのに涙がでてきたんだ。
僕に生きてほしいと望んでくれた人がいた事が嬉しかったんだと思う。
僕の為に怒ってくれた人がいた事が嬉しかったんだと思う。
僕、本当に…本当に嬉しかった。
今まで生きてきて本当に一番うれしかった。
女神様は自分は人間だと言うけど、それは嘘だと思う。
こんな綺麗な人間いる訳ないもの。
見た目だけじゃなくて心も綺麗なんだ!
だって、あんなに優しいんだもの。
しかも、魔物に侵された僕の体を浄化してくれたって!
そんな事、普通の人間に出来る訳ないじゃないか?
僕はそんなに賢い訳ではないけど馬鹿でもないから分かるんだ!
少なくともこんな丸太小屋にいるべき方達じゃないことぐらい、高貴な方々の下で小間使いをしてきた自分にはわかる。
そう!
きっと人間界をお忍びで見て回ってるんだ!
でも女神さまは、自分は人間だと言い張るので僕は空気を読んで、だまされてあげる事にした。
だから、僕は女神さまの事を言われた通り”ミア姉様”と呼ぶことにした。
ミア様って呼ぼうとしたら、召使じゃないんだから呼び捨てで構わないという。
さすがにそれは、何だか恐れ多くてできないって言ったら、じゃあ、お姉さんって呼んでくれと言うので、そう呼ぶことにした。
なんだか庶民的な?女神さまで僕は、ミア姉様の事がもっともっと好きになった。
ラフィルさんとミア姉さまと三人で食べたご飯は美味しくて楽しくて幸せの味がした。
どうしよう、僕、アルフォンゾ様の事も大好きなんだけど、アルフォンゾ様が迎えに来なくてもいいかなって…ちょっとだけ…ううん?…大分?…(ごめんなさい、アルフォンゾ様)…実は…すごく思ってしまったんだよね。えへへ。




