85.血迷えるアルフォンゾ皇子
アルフォンゾ皇子は大いに悩んでいた。
いや、迷走していた。
(血迷っていたとも言う)
ああ!一体全体、何がどうなっているのだ?
訳がわからないにもほどがあるというものである。
血族の姫…しかも月の石の主とされるあの美しい姫があんな野蛮な男と結婚したなどと…。
あの爺さんも爺さんである。
(あの小さな教会の老神父の事である)
何故、結婚など認めたのだ?
爺さんの目は節穴か?
どう見ても極悪非道な男が無垢な姫をたぶらかして浚ってきたに違いないではないか?
『爺さん』などと呼んでいるが、あの小さな教会の老神父は実は、前の皇王エストラーダ・ジャ・カイナール…つまり、自分にとっては実の祖父であり現皇王の父である。
長き戦いに終止符をうち、隣国のラフィリルと和平条約を結んでからすぐに自分の役目は終わったと皇王の座を息子に譲り小さな教会を建て隠遁して暮らしている。
世間的には他所からやってきた老神父としてひっそりと余生を穏やかに楽しんでいるという訳である。
口では『爺さん』などと呼んでいても実は尊敬していたのに今回の事はどうにも解せない!
何故、あんな粗暴な男と見るからに美しくも清らかな姫をむざむざ散らすような真似を!
(冷静に考えれば自分を投げ飛ばしたのはミアなのだから、むしろ粗暴なのはラフィルよりミアの方なのだが見た目に目が眩んでいるのでアルフォンゾ皇子には冷静な判断が出来ていない状態だ)
何故、結婚式など執り行ったりしたのだ?
あの男に脅されたのか?
(あの男呼ばわりしている男に自分や自分の小間使いティムンが助けられた事も無かった事になっている。命の恩人にあまりの言い様である)
普段の呼び方はともかく尊敬していた祖父が脅しに負けたのだとしたら軽蔑する!
彼女は、私が救わなくては!
私なら…!
そう、皇国の皇子の私ならば、あんな狩人風情よりも、よほど、相応しいではないか!
(…むしろ、ミアと関わらなければ国を出ることもなかったラフィルは本来、ラフィリル王国の公爵で将軍であるがアルフォンゾ皇子はそんな事は知らないし、もうラフィルが”悪”と思いこんでいる。何かとても可哀想な思われ様のラフィル…ダルタス将軍なのだった)
彼女は…あの姫君は、きっと洗脳されているんだ。
あの悪魔のような男に…。
(恋とは本当に恐ろしい物である。それなりに賢かった筈だった皇国の第三皇子アルフォンゾ・ジャ・カイナールは、明らかに血迷っていた!)
『必ず、姫は私が救う!』
そう心に誓うアルフォンゾ皇子であった。(ああ、痛々しい!)




