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目覚めれば異世界!ところ変われば~【Kindle本で1巻発売中】  作者: 秋吉 美寿(あきよし みこと)
ところ変われば、花嫁?
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81.皇国の”魔法使い”ダーナ・ハース・ノア

 ここ、ジャニカ皇国にも隣国ラフィリル王国のことは、ちょくちょく噂が流れてくる。

 皇室お抱えの魔法使いの私ダーナ・ハースノアとしては自国はもちろん近隣の国々の事にも精通し動向を見守っている。


 最近の気になる事柄と言えば何といっても隣国ラフィリル王国の『目覚めてからの”眠り姫”』の噂話である。


 ラフィリル王国とは7年ほど前までは敵国だったとは言え、今は交易も進み互いになくてはならない友好国になった。


 しかし今だに過去の戦いで家族を失った者達は恨みが忘れられずこの関係に背を向けるものもいる。

 そんな彼らに邪気は憑りつき各地に根付いた黒魔石は負の気を栄養にして育つ…。

 その勢いが激しくなったのは、隣国の公爵令嬢ルミアーナ・アークフィル姫が毒によって眠りについてからだった…。


 隣国の邪気が勢いを増し、王都ラフィールの方角、神殿からものすごい邪気が溢れてきていたのを、何故ラフィリル王国の神官達はは気づかぬのかと気をもんでいた。


 …それが、つい先日まるで無かったものかのように祓われたのである。


 隣国の方に意識を放って見えたのは美しい少女の顔と雪のように降り積もる浄化の光。


 この世界の始まりの地と言われるラフィリルの”月の石”の”御力(みちから)”とおぼしきものを感じて驚いた。


 ”月の石”それはいわゆるこの世界を創りし始祖の七人と呼ばれる魔法使いの血族以外の魔法使いの力を吸い取ると言われる。


 そこに向かって意識を向けていた私の魔法力も吸い取られて驚いたが、翌日には魔力は戻っていた。

 まあ、吸いとられた魔法が浄化に使われたのだとしたら、それはそれで良かったとも思えた。

 それよりなによりまだ月の石が現存していた事に驚いた。

 もはや、歴史の中に埋もれた伝説の石だと思っていたのである。


 確か、密偵からの報告では、五つだけあった月の石も眠り姫の延命の為、そのうちの大きな四つの月の石が公爵家に下げ渡されていたと聞いていた。

 だが、眠り姫は目覚める気配すらなかったし、私が意識を飛ばしてみたところで、聖なる力も感じとれなかった。

 きっともう、その四つの石にも(いにしえ)の力は枯れ果てていたのだろうと思っていた。

 始祖の魔法使い達が滅んで、何百年もたっているのだから…。 

 もはや化石よね?


 …とは、言え形だけでも残っているのなら、それだけでもう国宝級のお宝である。


 それを公爵令嬢に渡した神殿にも驚いた。

 あるいは、そうしたことに何か意味があったのだろうか?とも考えた。


 石の復活?


 いや、確かに一年もかかったとは言え、眠り姫は目覚めたと言うし石の力も僅かなりとも残っていたのだろう…。


 しかし、一体、何があったのかとやきもきしていたら、何と当の本人!眠り姫がなんと噂の婚約者ダルタス将軍と駆け落ちしてきた。

 そりゃあもう、ぶったまげたわぁ。


 将軍はラフィル、眠り姫はミアと名乗っていたけど…私にはすぐに分かったわ!

 何といっても私はジャニカ()()()()()()()使()()ダーナ・ハースノアなのだから!


 街に行くときは誰も気に留めないような貧しい老婆に身をやつして出かけるのが日課だったし、昔なじみの神父の所に行って街の様子を聞くのもそのひとつだった。


 ちなみに老神父は私の正体を知っている。

 彼もまた、隠居しているものの本来の身分はかなり高い人物である。

 余生は気楽に小さな教会で…と個人的に作った教会なのである。


 いわゆる秘密基地みたいなものである。

 そうとは知らず、あの二人は入ってきたのだ。


 噂では、鬼畜で鬼悪魔のダルタス将軍が、いたいけな眠り姫の美しさに心を奪われ、あろうことかラフィリルの王太子から奪い、嫌がる眠り姫は一度は逃げおおせたが、執拗な監視の目と命を狙われ続けた心労で再び鬼畜将軍の手に落ちたとか何とか…まぁ、噂話なんぞ話半分どころか十分の一くらいで聞いとくもんだわね。


 そうは思ってもまさか眠り姫が将軍の事を純粋に好きだなんてパターンはものっすごっく想定外だったわぁ~。


 あのダルタス将軍を見る眼差し!うるんだ瞳にこぼれるような笑顔…。

 思わず老婆に化けていた魔法も解けそうなくらいぶったまげたわよ!ほんとに…。


 さらに、驚いたのはダルタス将軍があの眠り姫を見る眼差しよね…あれは、もう見てるこっちが赤面ものだったわ。

 もう、愛しくてたまらないようなあの感じ…なんかちょっとイイんじゃない?とか思っちゃったわよ。


 歴戦の戦士、ラフィリルの鬼将軍が…。

 国も家督も捨てて駆け落ちとはねぇ~?

 何か裏があるのかと思ったけど、あれはホントに眠り姫に完璧に参っちゃってるわ…。


 可愛いとこあるじゃない?鬼じゃなくて一応、人間の男だったのね?

 しっかし鬼畜とまでは言わないけど、あの鬼将軍にあんな優しい顔をさせるだなんて…。


 ミア!恐ろしいこ!


 ちょっぴり、意地悪してやろうかと善良な老婆を装って新居に森の中の丸太小屋を勧めたら、あの娘と来たら本気で喜んでさ!

 こっちが驚いたわ。

 でも、嬉しかったわねぇ。

 うん、こんな公爵令嬢もいるんだと、感動しちゃったわよ!


 しかも私は小汚い恰好で老婆に化けてたのに、あの子は、それはそれは自然に当たり前のように目上の者を敬うように接してきて…皇家の方々にも見習わせたいくらいだったわ。

 貴族の連中だって私があの格好の時にすれ違った所で気づきもしなければ、目の前で私が倒れても無視するだろう。


 あの姿の私が何か声をかけたところで嫌そうな顔をされるのが落ちである。

 下手すれば無礼打ちされようと言うものだ。


 ところが、あの姫君ときたら雑草で作ったブーケにも心からの礼を言い、喜んで満面の笑顔をみせた。

 あれは、ほんとの心からの笑顔だった。


 いや、もうほんと!あの笑顔には参ったわ~。

 美少女の笑顔って私のような大人の女にもきゅんとくるのね~?

 下手な凶器より危ないわ~。


 心臓わし掴みにされたかと思った!本当に!

 あんな貴族のお姫様がいるなんて、驚きと喜びを感じると共に彼女の事がもっと知りたいと思ったわ。


 なぜ二人が結婚を反対されたのかも気になるし、あの月の石の力の復活にも関連あるのではと私の勘が告げている!

 何より可愛いあの娘が気に入ってしまったのよね。

 今日もあの娘は来るかしら?


 私を老婆と信じて疑わないところも可愛らしい。

 さて、いつ正体を現わそう。

 楽しみだわ。


 今日も朝から教会に行ってみよう。

 あの娘が来そうな予感がするから…。

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