80.ミアと魔法使いのお姉さん?
ミアは、うきうきとラフィルと結婚式を挙げたあの教会出向いた。
協会の中に入り、顔が半分ほど隠れてしまうようなフードのついた上掛けをとると先日の老婆がミアに気づき駆け寄ってきてくれた。
「まぁまぁ、早速、会いに来てくれるなんて何てうれしいんだろうねぇ」と老婆は喜んだ。
「おはようございます。おばあさん!早速、ご相談したいことがありまして…来ちゃいました」とミアがにっこりほほ笑むと老婆もニコニコと答える。
「まぁまぁ、こんな小さな教会のお参りに来ているだけのみずぼらしい私を頼ってくれるなんてねぇ」
「あら?みすぼらしいなんて、とんでもない!おばあさんは、とても品がありますし教えてくださる事も為になりとても助かりましたもの!それにこの教会も大きすぎないのが良いのですわ!私、この教会でラフィル様と結婚式を挙げられて本当に幸せですの」と心から嬉しそうにミアがいう。
「これはこれは、誰かと思えば昨日の可愛らしい花嫁さんではないですか?そんな風にこの教会の事を褒めて下さるのはお嬢さんくらいですよ」と老神父がふぉっふぉっふぉっと笑いながら声をかけてきた。
「あら、神父様!昨日はありがとうございます。おばあさんに教えていただいた小屋も片付いて今日は旦那様は魔物狩りのお仕事を請け負う為の手続きをしに役所に行っておりますの。ですから私、その間におばあさんに相談したい事があってきたのですわ」
「おお、賢い娘さんだ…この婆さんに頼るのは良い判断じゃよ。意外と頼りになるからの。おっと、もう奥さんだったね。若くてあまりにも可愛らしいご様子なのでついつい娘さんなどと…失礼しましたな?」
「意外は余計だわよ。神父様」と老婆がちろっと老神父を軽くにらむ。
「あら、神父様。おばあさん。どうぞ、私のことはミアとお呼びくださいな」
「いやいや、さすがに呼び捨てはのう…しかし奥さんというのも確かにイメージが違うのう…では、ミアさんとお呼びしようかの?」
「ふふっ、別に構いませんのに」
「じゃあ、私は女同士だし、遠慮なくミア呼ばせてもらうわねぇ?」
「ええ、おばあさん。その方が仲良しみたいで嬉しいです!」
「それで?何の相談かしら?」
「ええ、それなんですが実は国境の向こうにあるドレス専門のポララというお店に忘れ物をしてきてしまいまして…私たちラフィリルからこちらのジャニカに来る行商の皆さんと一緒に来たんですけど、あちらに行くための…その…手形がありませんの」
「まぁ、やっぱり、駆け落ちして来たというし、ここいらでは見かけない顔だから隣国のラフィリルからではないかと思っていたのよ。今では和平条約が結ばれているとは言ってもまだ国境には関所があるし通行手形がないと出入りはできないものね?なるほど、行商の一行に紛れて入国したのね?」
「はい…お恥ずかしい話ですが、不正入国…という事になります。でも、その忘れ物というのがとても、大切なもので取りに戻りたいのですが、どうしたものかと…」
「そう、それじゃあ、私と一緒に行きましょう?」
「えっ?おばあさんと?おばあさんは手形を持ってらっしゃるのですか?」
「ええ、実は私にはちょっとしたコネがあるのよ?それにポララなら私も知っているお店ですよ」と老婆が言った。
「おやおや、気難し屋の婆さんが、ずいぶんとまたミアさんには親切じゃのう?よほど気に入ったと見える」
「ふん、そうさね。このミアは気に入ったわ。あの大きな教会よりもこの小さな教会が良いと言い、大きな屋敷よりあの森の小屋を素敵といえるこの子は本当に面白い可愛い子だわねぇ。とりあえず力になれる事があればなりたいと思ってしまうわねぇ」と頷きながら老婆が言った。
「ほぉ、珍しい事もあるもんだ。ミアさん、この婆さんは、実はちょっとした訳アリの変わり者何だがね?約束は守る人間だから心配はないよ?行くならここの教会の馬車を貸してあげよう。」
「まぁ、神父様ありがとうございます。でも、どうしましょう。私、馬には乗れるのですけど荷馬車は扱った事がなくて…」
「ははは、それなら大丈夫じゃよ。この婆さんは馬車も御せるからのぅ」と言ってまた、ふぉっふぉっふぉっと笑った。
「まぁああ!素晴らしいですわ!おばあさん!何でもできますのね!おばあさんを尊敬しますわ!」とミアが感嘆の声をあげた。
「ふふふっ。まぁ、お任せなさいな!馬車でなら往復しても昼過ぎには帰って来れるから。早速、行ってみましょうかね?」
「えっ!本当に?でも、どうしましょう?昼過ぎにまた旦那様がこの教会に立ち寄ってくれる事に…」
ミアが少し考えあぐねていると、老神父が、ポンと手を合わせた。
「ああ、旦那さんが来たら待っているように伝えてあげよう。顔は覚えているから大丈夫じゃよ」
「え、でも…」
「さぁさぁ、善は急げよ!行きましょう」と老婆は、老婆らしからぬ馬鹿力でぐいぐいとミアの手を引っ張った。
(お、おおぅ、おばあさん、なんか思いのほか力強くてびっくりだよ!)と思うミアだった。
新婚の旦那様を待たせるのはどうかと思うけれど、確かに善は急げというし…ん?こっちの世界でもそんな言い回しをするのか?などと呑気な事を考えつつ
(ま、まぁ、早く行って、早く帰ればいいっか?)と思い、なされるがままに老婆に引きずられていった。
***
老婆が荷馬車で御者をしてくれて二人はポララに向かっていた。
そしてミアはとても感心していた。
へぇ~?神父様が太鼓判を押していただけあって頼もしい~!
見た目は結構な、お歳なのに馬の扱いがとっても上手だし、荷馬車なのに全然ガタガタしないのである。
まるでタイヤのついたミニバスにでも乗っている感覚ではないですか。
「まぁ、おばあさん。とっても荷馬車の扱いがお上手ですのね?私、正直、直接馬に乗るのは大丈夫なんですが、馬車に乗るのは苦手だったんですの…でもおばあさんが御者をしてくださってるからでしょうね?王家の馬車よりずっと乗り心地が良いですわ!」
「え?王家?」と老婆が一瞬、聞き咎める。
おおっと、口がすべっちゃった!まずいわ!
「あ!いえいえ、王様の馬車でもこんなに乗り心地は良くないだろうな~って事ですわ!勿論、想像です!」と、慌てて言いなおす。
「ああ~、なるほどねぇ」と老婆は答えた。
ご、ごまかせたかしら?と焦るミアである。
そうこうしているうちに、関所にさしかかった。
何名かの商人らしき一行が前に並んでいて、検問の兵士がこちらにもやってきた。
ミアは顔を隠すようにフードを深くかぶる。
「おい、婆さん。手形は?」と若い兵士が声をかけてきた。
「おや、新人の兵士さんだね?私の手形はこれだよ…」と袖を持ち上げて腕にはめているブレスレットを見せた。
「はぁ~?ブレスレットなんかにゃ用はないよ?手形はどうした手形は?」と言う。
な?何々?おばあさん、手形もってなかったの?あ、コネがあるって言ってたものね?知り合いの兵士さんに来てもらわないとまずいんじゃあ?とミアが焦っていると、奥の方から上官らしき人がやってきた。
「何だ何だ?どうした?」
「あ!関所長!この婆さん腕輪なんて見せてこれが手形だとかぬかすんですよ!」
「腕輪だと?」と関所長と呼ばれる人が慌てて近寄り老婆の腕をみた。
「そう、これだよ…関所長、あんたなら分かるねぇ?」と老婆が、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
おおう?何か分からないけど、おばあさんカッコいい!とその成り行きを見守った。
「ははぁ~!」といきなりその腕輪を見て関所長が、頭を地面にこすりつけるように平伏し礼をとった。
ジャニカ皇国の礼の取り方は、まるで日本の時代劇のようだ。
どうみても、いわゆる”土下座”をやっているようにしか見えない。
しかし、なかなか日本でも日中、しかも外で見る事はなかっただろう…珍しいものを見てしまった。
「これは!ダーナ・ハースノア様でございましたか!今日はまた、その随分とまたその変わった装いで…」と言いながら先ほど老婆に横柄な態度をとった若い兵士の頭をこづきながら、一緒にひれ伏させる。
「ふふん、今日は孫娘とラフィリルの服屋に買い物できたのよ!」と楽しそうに言うと関所長が汗をふきだしながら答えてちらっとこっちを見る。
「またまた~、そんなご冗談を…」という。
「あら、本当よ、この子は私の孫娘!わかった?今後この子がここを通りたいって言ったら、しのごの言わずに快く通してあげてよね!」といきなり、ミアのフードを持ち上げた。
「きゃっ、おばあさん!何を!」とミアが驚く。
「関所の者達に顔を覚えてもらわないとね?何、ミアの顔は一目見たら忘れられないからね」とウィンクした。
「わ、私、あんまり目立ちたくないのですが~」と抵抗したがもう素顔を周りにさらされた後だった。
三十代後半ぐらいであろう関所長と若い兵士はカキンと固まっている。
「さもあろう、さもありなん!こんな美少女見たことなかろう!かっかっかっ!」とお婆さんは、ものすごいドヤ顔で笑いながら言い放った。
なんか、水戸の○門様のようである。
ふと、決してナルシストな訳ではない!訳ではない…と思うが、まだ美羽の記憶しかなかった頃、この世界で目覚めて自分の姿を初めて見た時、妖精のプリンセスかと思ったことを思い出した。
そう、確か、毛穴はどこへ行ったのか?皮膚呼吸できるのか?と思ったほど綺麗だとおもった。
まさか鏡に映った自分の姿とは夢にも思わず…。
…なので、彼らの気持ちは(しつこいようだがナルシストな訳ではない!)よっく分かる!
ルークに魔法かけてもらわないとあんまり出歩いてはダメだったのよ…私…とほほ…と思って項垂れるミアだった。
綺麗すぎるのも大変よね…あ~、私何だか、あっちの世界にいる私、美羽とすご~く語り合いたいわ!と思うミアだった。
「かっ!かしこまりました!ミア様!ダーナ・ハースノア様のお身内として次回より手形などなくともお通しさせて頂きます!」とまた土下座した。
「なんすか?あの婆さんだれなんすか?」と若い兵士が頭を押さえれれながらも小声で関所長に尋ねる!
おお!ナイス!空気読まないその質問!ナイスだわ!私には聞けなかったよ!ありがとう、君!と心の中で若い兵士の質問に答える関所長の返しに耳をすませる!
「ば!ばか!あの腕輪!お姿は老婆にかえてらっしゃるが、皇室魔法使いのダーナ・ハースノア様だよっ!」
「ええっ!皇室魔法使いって!あの!ダーナ様ですか?」
「そうだよ、馬鹿!とにかく黙ってろ!」と若い兵士は頭を小突かれた。
「あ、あの?おばあさん?ダーナ…様?これは一体?」
「おやおや、聞こえちゃったかねぇ?でも、まぁあんたなら相手の見目や形で態度を変えたりしないだろうから、まぁ、いいかねぇ?」と言いブレスレットに触れてなにか呪文のようなものを唱えた。
ぼわんっと煙にまかれたかと思うとなんと、ぼんきゅぼんっのナイスバディのお姉さまが現れた。
紺色の艶のある髪に切れ長の黒曜石のような瞳と真っ赤な唇の美女である。
「何ですか~っ!このお姉さまは~っ!」と思わず叫んでしまった。
変身したら服装までかわっちゃってますよ!はい!いわゆる、ほんっとうの『変身っ!』てやつですね!
ミニスカートのセーラー服でないのがちょつぴり残念ですが、その黒のドレスは前は膝丈で後ろに裾が長くなっているデザインで、黒のタイツがセクシー!それでもって、ヒールのブーツである。
もちろん、黒のマントは欠かせませんって感じだっっ!
首元の飾り紐は金の繻子があしらわれ、ブレスレットには、皇家の紋章らしきものが刻印されている。
さすが皇室魔法使い???という品格らしき?ものが出ている感じなのだ。
「うふふ!そう、皇室お抱えの魔法使いダーナ・ハースノアとは私の事よ~」と正体を明かした。
いいなぁ~私も、どうせなら服まで変身してみたいなぁ~?と呑気な事を一瞬、考えたが…やばいじゃん!皇室の魔法使いって!私、不正入国者じゃんっ!と焦りまくった。
「あ、あの、それで私の事は?…えっと…すみません皇室関係のお方とは…ど、どうかご内密に…なんて?」と、ダーナ・ハースノア様?の顔色をうかがうように言ったらその、もとおばあさんは、ケタケタと笑い出した。
「あ~、大丈夫大丈夫!神父も言ってたでしょう?私はミアの事が気に入ったのよ!隣国も今では和平条約で結ばれてる友好国だし何も怪しんでないから!もちろん、悪いようにはしやしないわよ。ちゃんと忘れ物を取りに行くのも付き合ってあげるから心配しなさんな」と言った。
「あ…ありがとう…ございます?」と、疑問形でお礼を言いつつ、ああ~、また何かやらかしたような気がする~と思うミアだった。
やはり、一人でついていかないでラフィルを待つべきだった~と後悔するが後の祭りだったようである。
何だか波乱の未来を予感がするミアだった。




