75.ダルタス(ラフィル)耐える!
”ドレス専門店ポララ”のポーラが紹介してくれた宿屋は、何というか、とってもとっても可愛らしいペンションのような宿屋だった。
(駆け落ち中の二人に何かと気遣いのあるセレクトをしたポーラである)
素敵!と内心、ミアのテンションもあがる。
お互い”ミア”と”ラフィル”と呼び合う事にしたのも追手から逃れる為なのだが、愛称呼びしているみたいで、余計に甘い雰囲気が盛り上がるという効果も出ていた。
テンションマックスでラブラブな二人である。
お泊り…す…好きな人との初めてのお泊り!と、緊張と期待に胸が膨らむミア。
美羽時代、浮いた話ひとつないとっても残念な青春を送っていた自分が!
まさかこんなファンタジーな世界で、夢のようにきらきらふわふわなお姫様になれて、しかも超絶男らしくて逞しい理想通りの人ラフィル(ダルタス将軍)との駆け落ち…である。
"かけおち!"ハードル高っ!私、大丈夫?大丈夫なの?とミアは落ち着かなかった。
ひ…ひょっとして今日、大人の階段上っちゃう事にぃ~?とミアの心臓は、ドキドキバクバクである。
けど、正直、そういう事には、あんまり詳しくはないのだ。
そっちの知識は保健体育で習ったぐらいしかない。
細かい事は想像を超えてしまうので、いざ!と言う時はとにかく大人のラフィル様にお任せしよう!
分からないなりに?覚悟を決めてラフィルとの一夜に挑むことにしたミアだった。
一方、ラフィルの方はと言えば、正直、もうミアと今日にでもどこぞの教会に飛び込んで結婚してしまうつもりだった。
(もう、さっさと自分のモノにしてしまわないと不安でしょうがないのである)
しかしミアは両親やリゼラやフォーリー、ルーク王子にまで式に出席してほしいという。
自分とすぐに結ばれるのは、まだ怖いのだろうか?
ルミアーナは、多分、口づけさえも自分が初めてであろう清らかで無垢な乙女である。
自分達の身分なら本来、一年以上の婚約期間を経ての結婚が通例なのだ。
しかし、そんなに悠長なことは言ってられない!
”歩くびっくり箱”なミアの事である。
ぐずぐずしていたら、またとんでもない事に巻き込まれたり誤解をして自分から離れて行ってしまうのではとラフィルは疑っている。
しかし、結婚式も挙げぬ内から彼女の純潔を奪うわけにもいかない!
何といってもミアは、公爵令嬢で血族の姫なのだ!
多少、変わったところのある姫だが、本来なら王太子妃となり、さらに行く末は王妃にと望まれていたような高貴な姫である。
彼女の名誉は守らねば…と考えている。
今夜は自分にとっては拷問だな…キス位はよいだろうか?抱き締めるのも有りかな?それくらいは良いだろうか?婚約してるんだし良いだろう!等と自問自答している。
そんなふうに二人のテンションは微妙~にずれていたものの、お互いを求めあっているのは間違いなかった。
ダルタスは、神殿までもが自分たちの結婚を拒むのならもう、公爵という地位すら捨てるつもりで出てきている。
ラフィルはそんなアレコレを考えながらも受付をすませ宿帳に記入をする。
そして宿屋の主人は二人を部屋まで案内し、
「この部屋は、窓からの夜景がきれいなんですよ。星がよく見えましてね。夕食までには、まだ時間がありますんで、ごゆっくりどうぞ…」と言って下がった。
二人は部屋に入るとばたんと戸を閉め、ラフィルはカギを内側からかけた。
その鍵をかけるガチャリという音にミアはびくんっと緊張する。
「ミア…」
「はっ!ははは、はいっ!」
「後悔…していないか?」
「え?」
「その…、さらうように連れてきてしまった」というか実際のところ攫ってしまっていた。
「わ…私は嬉しかったです…」
「本当に?」
うつむき加減でぽっと分かるほどに赤くなるミアが異常なまでに可愛いらしい。
「わたし…あの…ネルデア様の所でずっとダル…ラフィル様に会いたくて…ラフィル様の事…愛人がいるだなんて疑ってしまって…本当に悲しくなってしまって…誤解だったってあとで分かったんですけど…あの…本当にごめんなさい。それで…」
しどろもどろになりながら、家出の言い訳をするミアの頬に手をかけラフィルは口づけた。
「ミア…可愛い…」
「え…え…?」顔から火が出そうですぅーとばかりにミアの雪の様に真っ白な肌が耳まで真っ赤に染まる。
ラフィルは、そのミアの初な反応に、余計に煽られてしまう。
ううっ!こ…これは、かなりの拷問だな…と愛するミアの為に必死に自分を押さえようとするのだった。
戦地で矢を受けて麻酔もなしにそれを抜いて傷口を火であぶった時の方が全然簡単に我慢できたなあと遠い日を振り返りながらもミアの名誉を重んじて耐えるラフィルだった。




