74.国王、怒られる
王妃を筆頭に、この国の要である三将軍中の二人アルフ将軍とカーク将軍、そして残る三将軍の一人、ダルタス将軍の生母ネルデア、ルミアーナの母ルミネが、すごい形相で王宮内の円卓の間に乗り込んできた。
「陛下!これは一体全体どういうことですの?ルミアーナに結婚させまいとしていると伺いましたが!」
ずずっと王妃が国王に鬼気迫る勢いで問うた。
「妃よ…口を挟むでない…。これは国の未来に関わることなのだ。其方はネルデアの所にいたせいでよく物事を理解しておらんのだ」と国王が言った。
『『『『 何をおっしゃる国王陛下!ネルデア邸では、この王城では見る事の出来なかったルーク王子とダルタス将軍の活躍も、ルミアーナがパラパラボロボロと月の石を生み出す様も目の当たりにしていましたけど』』』』
と、皆が突っ込みをいれたくて仕方ないのを我慢していた。
「んまぁ、ルミアーナが月の石を生み出すことも分かっていましてよ?陛下がルミアーナのその力を無くさせたくなくて結婚をやめさせようとした事も!」
「では口をだすな!ルミアーナの力はこの国全体を…いや、この世界をも救う事ができるのだ!」と威厳ある口調で言い切った。
ふぅっ…とため息をついた王妃は呆れた様に王に言った。
(こめかみに青筋を浮かせて王妃が低い声で…)
「貴方がそれほど愚かだとは思いませんでしたわ」
「なんだと?」
「そう!ルミアーナは今、現存する全ての月の石の主ですのよ?」
「だからこそ、その力を残すべく…」
「ルミアーナの気持ちを無視してですの?ルミアーナを護る月の石がルミアーナを悲しませるものに加護を与えるとでも?」
ここまで言って理解できなければ馬鹿である。
王妃とともに来た面々はうんうんと頷く。
老師もはっとして青くなる。
「国王陛下!もしやダルタス様とのご結婚の話はルミアーナ様も望まれての事でしたか?」と老師が聞く。
国王が答えるまでもなくルミアーナの母ルミネが答える。
「当然ですわ!娘はダルタス将軍の事を心から慕っていますもの!」
「なっ!何という事だ!それでは、私達は姫君が望まぬことを…うぉぉ」と、老師が両手で頭を抱えて唸った。
「?!老師様は、ルミアーナがダルタスの事を好きじゃないと思っておられたのですか?」とルークが聞くと、
「うむ、こう申しては何だがダルタス将軍がルミアーナ嬢のような深窓の姫君に慕われるとは想像できなんだ。てっきり政略結婚か何かかと思い、その位ならば、むしろダルタス将軍に姫を諦めてもらったほうが姫も心安らかでいられるかと…」
あちゃ~である。
息子のダルタスが強面なのは母親のネルデアもわかっていたので非常に微妙な顔をした。
でも、まぁそういう誤解があったのなら賢い筈の老師が国王の早まった言動を止めもしなかった理由がわかるというものだった。
そして、ここに来て初めて国王は自分の過ちに気づいた。
(もしかして、まずかったのか?)と!
そしてカーク将軍がトドメをさした。
「ルミアーナ嬢を怒らせたら、この世界の月の石すべてがこの国を見放すのは間違いない事実ですな…。例え令嬢がそれを命じなくても月の石は自らの意思でこの地を、そしてこの世界をも見限るでしょうな」と言ったのだ。
「う…そ、そんな…」と国王がひるんだ。
「陛下!とっとと、ルミアーナとダルタスの結婚をお許しなさいませっ!二人は既にかけおちしてしまいましたわよ!もうこの国を出たかもしれませんわね!」とぷんすか怒りながら国王を一喝した。
王妃は一歩も引かないどころかもの凄く攻撃的だった。
周りの皆は王妃のいう事に頷くばかりだ。
国王は、ようやく自分に全く分がない事を悟り、力無く項垂れ過ちを認めると、二人の結婚を祝福するとその場にいた全員に宣言したのだった。




