71.事件の終息…そしてまさかの婚約破棄再び?
結局、ルミアーナの命を狙ったのは何者か…。
今日も王城にある円卓の間で、「ルミアーナ暗殺未遂事件からの神殿の政権奪取未遂事件についての報告会議」が行われていた。
この時の参加者は国王を筆頭に、王太子、ルーク王子、ダルタス将軍、アークフィル公爵、ディムトリア老師、そしてウルバとテスである。
ルークとダルタスは、今回の一連の事件を邪気に捕らわれ、すんなり操られた「小物達による小物達の為の小物達の政権奪取未遂であると報告した。
ディムトリア老師の話も総合したところ、今回の真の黒幕…元凶…事の起こりは、始祖である七人の魔法使いの残した”月の石”の加護が薄れていき反対に人々の邪気を増幅する黒の魔法石…黒魔石が増殖したことが起因とされる現象だと分かった。
多少なりとも魔法力のある人間の闇に黒魔石は憑りつく。
力の大小はあっても、むしろそういう魔法力のある人間しか神殿には仕えていない。
そこに黒魔石は巣食ったのだ。
黒魔石も月の石も元は同じ魔法石の結晶である。
違いは、糧とするものが、”怨念こもった邪気”なのか”聖なる祝福”なのかである。
そしてその黒魔石は、正しい者が発見しようものなら、この世で最も危険な魔石として、邪気を祓えないまでもその邪悪な魔力を封印する為に神殿や教会に送られるのである。
黒魔石は聖水にひたされ、邪悪な魔がもれださないように封印されるのが常であるが、月の石が生まれなくなってから長き時代の中、黒魔石だけが少しづつ増えていき力が強まり、とうとうある日押さえ切れなくなってしまったのである。
何しろ、黒魔石は見つかるごとに神殿にもちこまれていたため、わずかに残る五個の主を持たない月の石だけでは押さえきれなくなってしまっていたのだった。
(その内の四個の大きな月の石はルミアーナの延命の為、ラフィリアード公爵家に下賜され、最後の小さい月の石はルミアーナが目覚めたその後の助け手となるようにとルークに託されたものだった)
そして現存した月の石は主として血族の姫であり、その条件を最も満たした穢れなき公爵令嬢ルミアーナを主にと望んだのである。
黒魔石にとって、主になりうる姫は邪魔ものであった。
『取り払うべき存在』だったのである。
そして、ルミアーナの命を奪うべく石は神殿にいる人間を操りだしたのである。
黒魔石は囁いた。
『古の力を手にしたくはないか?』
国の未来を左右するとも言われるこの力…月の石の持つこの力を得たければ、石の主となり得る者ルミアーナを消せ!ルミアーナが死ねば新たな主を石は受け入れるだろう…と囁いたのだ。
さすればこの世の支配者…至高の存在になれよう…と…。
高潔な七人の神官達と神殿長ディムトリア老師は、その囁きを撥ね付け、月の石に選ばれし正当な主、ルミアーナを救おうと真っ向から黒魔石に刃向かったがために魔物にかえられたのだった。
その虚言にのせられ流された愚かししい人間達は、見た目こそそのままではあるが石に操られ黒魔石の傀儡になり果て操られている事にすら気づいていなかった…というのが、老師や神官達の見解だった。
実際、あの神官長を名乗っていたモブルも、黒魔石が砕けルミアーナの月の石の光の粒に触れた途端にぱったりと倒れた。
そして再び目が覚めた時には記憶の半分が無かったという状態だった。
王城から向かったテスら兵達の仕事がどれだけらくちんだったことか。その日、倒れている人間達を回収して牢に放り込んだ。しかし囚人たちは覚めてみれば皆一様にこの一年余りの記憶がない。
しゃべってみても、多少お調子者だったり現金だったりするだけの普通の人間だったのだ。
(月の石の光によって浄化された彼らは念のため数日様子をみて、問題なさそうなら解き放たれ神殿預かりとなることが決まった。)
黒魔石という邪気をふりまく存在が無ければ…それを浄化する月の石が同じだけ現存していれば…
こんな事態にはならなかったのだろう。
これは、世界の負の力(黒魔石)と正の力(月の石)の均衡が崩れたために起きた事件で…。
いわゆる黒魔石による天災と呼んでも差し支えのないものであった。
関係者各位の報告も終わり、今後の方針となったときダルタスは、立ち上がった。
「事件はともかく解決致しました。今後の方針は、どうぞ王家と神殿の皆様方で…私は下がらせて頂きます。」
「まて、其方、どこへ行くのじゃ?」と王が訪ねる。
ルークや王太子は(そんなの決まってるよな…?)と目をみあわせる。
「あ~、こほん」とダルタスがバツが悪そうにひとつ咳ばらいをして王に言う。
「婚約者と婚約者の母君…ああ、王妃様もですね。お迎えにあがろうと」と、ダルタスが伝えるとアークフィル公爵は満面の笑みでうんうんと頷いた。
ようやく尊敬崇拝するダルタス将軍と愛娘ルミアーナが結ばれるのである。
数々の障害をようやく乗り越えて…そう考えると感慨深いものがある。
王太子とテスは(おお~この国の王妃を後回しにしたよ…王妃様も…なんだね?)と思いながら少し笑った。
「その事じゃが、ダルタスよ…其方達の結婚…認める訳には行かなくなった」と王が真面目な顔をして言い出した。
「は?」
これには、周りも一斉に驚いた。
「「「「「えええええええええっ!?」」」」」
「一体なんでまた!?」とアークフィル公爵が王に尋ねる。
「皆、落ち着け!私とて二人を祝福したいのだ!…ただ…その…」王は言いにくそうに口ごもる。
「国王陛下!私の事をお考えなら私はもうあきらめております。今はルミアーナ嬢の幸せが一番だと…」とアクルス王太子も進言する。
「まて!アクルスよ!そういう事ではないのだ」
「だったら、どう言う事だとおっしゃるのでしょうか?」と明らかに怒気と苛立ちを含んだ声でダルタスが尋ねる。
「ルミアーナの力はこの王都を救った!しかし、あくまでもまだ王都だけの事じゃ!この国全体が救われた訳ではない!ルミアーナの月の石を生み出す力はまだまだ必要なのだ!」
「それが、どうしたというのです?それで何故、私との結婚が許されなくなるのです?」
「其方と…ではない!誰ともルミアーナとの結婚は認められぬと言っておるのだ!」
「はぁあああ?」とダルタスがあきれた声を出す。
何を言いだしやがったんだ?この、おっさんは?と言わんばかりの「はぁあああ?」である。
父親のアークフィル公爵だって「はぁあああ?」である。人の娘の結婚を何だとおもっているのか?…である。
間にディムトリア老師が口を挟んだ。
「ふむ。王は、ルミアーナ嬢のご結婚でその御力が消えてしまわれる事を危惧されていらっしゃるのですな?」と…。
「なっ!それはどう言う」と、もうダルタスは発狂しそうである。
何をいっているんだ!この国王と老師は!とダルタスとアークフィル公爵は思った。
ルミアーナ自身の幸せはどうなるんだ!何を勝手なことを言ってやがる!…とダルタスが心の中で叫んだ。
ルークは、ダルタスの強い心の声が聞こえてきて自分もダルタスの思う事が正しいと思った。
(全くだ…国王が言わんとしている事はわからなくはないが、国の事情で彼女の幸せを奪うなんて許されるものではないし、月の石だとて彼女の不幸は望むまいに…)と憤った。
「どうなのです?その?老師様、ルミアーナの力は、穢れ無き乙女でないといけないとか何とか…縛りがある物なのですか?」とルークが尋ねる。
皆が一斉に老師に目を向け答えをまつ。
「いや…それは、私にも…わからない…」
ディムトリア老師は力なく答え皆はがっくりと肩をおとした。




