70.見てましたから
ネルデア邸から(正確にはネルデア邸の一角、武闘場の外!であるが)月の石の精霊の力で、光の玉に映るハイビジョン映像でダルタスとルーク王子の様子を見守っていた面々は、もうまるでその場にいるかのような臨場感を感じていた。
まさにライブ映像!
落とし穴に落ちそうになったルークをみては息をのみ、ダルタスがそれを助けると「「「ほぉ~」」」と胸をなでおろす…。
長い呪文の間は間違えないでと祈りながらもはらはらと見守り、成功するとまたやっと息をつく。
リリィと子供たちが人間に戻った時には感涙し喜び合い、老師がルミアーナを救うために最後の月の石を託したことを知るとそれにまた涙し…老師が魔物になっていた姿を目にした時には悲鳴をあげ悲しみ…ルークが倒れた老師を助け起こした時には皆、また涙した。
そしてルミアーナガ涙するたびにその場で大量の月の石がパラパラパラパラと量産され、ちょっとした砂場の小山ができるくらいの”月の石”ならぬ”月の小石の山”ができていた。
さすがにルミアーナ自身もリゼラやフォーリーも、どぉするのこんなに?と思っていたが…
「ところで、ルーク?月の石…さっきの老師のいた部屋に全部まいちまったんだけど…おまえ、まだもってるのか?」と呑気にもダルタスがルークに言った時には皆、拍子ぬけしたものだ。
月の石ならさっきからパラパラパラパラ耳元にやかましいくらいに出来てくる。
好きなだけ持っていけという感じである。
これだけ大量になってくるともはや貴重だという感覚さえ麻痺してくるというものである。
「えっ!何言ってんの?ダルタスも見てたでしょ?道々、浄化の為に石を置いてきたでしょうが!」とルークが剣呑に言う。
「って、じゃあ扉開けた後の浄化って?」とダルタスが聞いてきた。
「はぁ~、僕の石だけでは全員の浄化ができるかどうか…」とルークが、また懐からルミアーナからもらった最初の通信用の月の石を取り出すと石からまたルミアーナからの通信が、まるで見ていたかのようなタイミングでルークに届いた。
そう、まさに見ていたのよ!
「合点承知!なのですよ!」と、ルミアーナが張り切る!
「ルーク!石がいるならすぐ送るわよっ!何なら扉開けたとたんにばさっと送るから!」とルミアーナは叫んだ!
そして精霊に最初に送ったようにたまりまくった”月の小石”をばさっと送ってもらったのである!
それも、絶妙なタイミング!まるで光の粒がなだれ込むような勢いで!である。
そのあとは、歓喜!狂喜!歓喜!である。
老師も神官たちも人間に戻り、ライブ映像でそれを実感したルミアーナ達は感極まり、ルミアーナの気持ちも昂ると月の石からは精霊の光が飛び出し広がった。
そして空からぱんっと弾けた音がしたと思ったら雪のような白い光がふわふわと国中に降り注いだのである。
今まさに映る景色にも、それを見ているネルデア邸にも…それは降り注いだ。
そしてネルデア達も、神殿の皆も、王都ラフィールの屋敷にいるドリーゼもブラントも…皆、都中の者達がその柔らかい小さな小さな光に大きな大きな安らぎを感じたのだった。




