66.すべては運命の導きのままに
ルミアーナは呆けていた。
長い長い時間呆けていた。
あまりにも長い間ルミアーナが呆けているのでリゼラとフォーリーは心配になり、ルミネ達(母君とネルデアと王妃)に報告した。
三人が慌てて様子を見に来ると、やはり、ルミアーナはひたすら呆けていた。
「あらあら、ルミィ?どうしたの~?」
「あら、ほんと、この娘ったらどうしたのかしら?ルミアーナ?ルミアーナ~?」
「大変、目を開けたまま、意識がないのではなくって?」
と、ネルデア様、お母様、王妃様が、ルミアーナの様子があまりにも呆けているので、ほっぺをつついたり、つねったり、ゆすったりしてみた。
「はっ!」とルミアーナが気づき母ルミネに向き直った。
「ああ!何でしょうか?お母様方?」、
「お母様方?…ではないわ…ルミアーナ一体どうしちゃったの?気持ちここにあらずね?」と母が言う。
「ああ、お母様すみません。ちょっと考え事を…」
「まぁ?一体何をそんなに?ああ!そうか、やっぱり、自分のお葬式なんてされたら嫌よね?私達は反対したのよ?」と王妃がルミアーナに申し訳なさそうに言った。
「そうね。確かにいい気はしないでしょうけど、ダルタス様もこれ以上ルミアーナが狙われないようにっておっしゃってたわよ?あなたを別にないがしろにした訳では…」と母も、ちょっとばかり的外れの慰めの言葉をかけてくる。
「ルミィ、どうか許してやってね?ダルタスは、犯人を泳がせるのを狙ってのことだと思うし…」と、ダルタスの母のネルデアまでもがルミアーナに気を使う。
「ああ、い、いえ…そう、そうですね。大丈夫です。ダルタス様に怒ったりしてませんので…ちょっと、月の石の事とか考えていただけで…すみません。ちょっと、疲れてしまいましたのでお部屋に下がらせて頂いてもよろしいですか?」
「まぁ、そうなの?じゃあ、夕食前には、フォーリーを呼びにやるから部屋からでてらっしゃいよ?」と母が声をかけルミアーナは頷き部屋にさがった。
心配するリゼラやフォーリーも下がらせ部屋で一人になったルミアーナはばふんとベッドに倒れ込みまた、ぼ~っと考えた。
そう、ルミアーナは考えていたのだ。
月の石の言った言葉を…。
この世界の始まりの場所、ラフィリアを救うのだと…。
聖母って何?マドンナ???
なんじゃ?そりゃ?
この世界の始まりの場所?…ここラフィリアが?何?何か世界が危ないの???
そしてこの国を救う?…なにその救世主的なフレーズは…。
いきなり宗教かっての!
それとも何か?
美少女戦士セー○ームー○とか、みたいに変身して戦うとかか?そうなのか?
(じゃあ、ひょっとして月の石とかで華麗に変身できたりとか???)とか考えていると月の石から返事が返ってきた。
『いや、ないから!』
(あ…話しかけたつもりなかったのに、答えがかえってきちゃった。そっか…ないのか)とルミアーナが思うと
『アニメじやないから』
と返される。
(おお!アニメも知ってるのか?月の石よ!)
『我も生まれたばかりだが、他の月の石から同調して知識を受け取ることが出来ているからな…ちなみに美羽の世界にも月の石は在るので、そこそこの知識はある』
(ええっ?そうなんだ!じゃあ、あっちの世界での私とも話したりしてるの?)
『いや、あちらでは月の石はしゃべらない。魔法自体が存在していないので、こちらの世界との接点として存在しているだけだが月の石同士の同調などはできる』
(?誰かが持って利用したりする訳じゃないんだね?)
『美しい石なのでアクセサリーやオブジェ…お守りに使われていて、そこから映る世界を見知っている…そう、ご神体として祭られている神社もあるな…』
(なるほど…じゃあ、向こうの私は何でこうなったか分からずじまいなのね…?)
『其方自身が望むなら美羽が石の前に立ったり手にすることがあれば、通信することも可能だ…。石に近づくという偶然待ちにはなるがな…』
(え?そうなの?そんなチャンスが来たら、話してみたい!家族の事も気になるし、こちらの事も教えてあげたいわ!)
『わかった、美羽はルミアーナと繋がっているから今でも月の石に呼応する事が可能だ。美羽にはルミアーナの記憶があるから月の石を見れば、手にするだろう…石を手にした瞬間があれば、瞬時に知らせよう』
(すごいね?何でもいう事きいてくれちゃうんだ?)
『何でもではないが、この世界を救う力を持つ主は特別な存在だからな』
(ああ!それよ!それ!それが、よくわからないのだけれど、どういう意味?私にも分かるように説明してよ)
『神殿に魔物が生まれてしまったのだ…』
(何それ?怖いんですけど…私、幽霊とかお化けとか妖怪の類はちょっと…)
『…似たようなものかもしれない』
(うわぁ、嫌だぁ~)
『いや、ルミアーナは直接魔物を倒さなくてもよい』
(あ!そうなの?)と、ちょっとだけルミアーナは安心した。
生きている人間(悪者に限る)とか獰猛な獣相手の方がよほど恐くない。
『現存している月の石が減り、月の石になり損なった魔法石が変異した黒魔石が邪気を増幅して月の石を喰らい、更なる邪気で神殿を取り囲んでいる』
(え?神殿が黒幕なの?だって私は神殿にある月の石と七人の神官たちの祈りによって救われたのでしょう?)
『七人の神官達はもう闇に飲まれている…。主が一年も眠り続けたのはそのせいでもある。神殿の大神殿長だけがかろうじて正常な意識を残していたので月の石をあえて主の所へ延命を理由に王家を通してアークフィル公爵家に託したのだ』
『月の石は主を選ぶ!月の石は、神殿にある時より既に主は公爵令嬢ルミアーナだと選んでいたのだ。』
『血族の末裔の穢れ無き乙女に!』
『神殿での祈りの最中、月の石は輝き神託は神殿長と神官たちに響き渡った。それは、ルミアーナが最初に命を狙われるの前の出来事であり、そのせいで何度も命を狙われたのだ』
『主の決まった石は主が闇にのまれない限り黒魔石に喰われる事はない。闇に喰われずにすんだ月の石は神殿長がルミアーナの所に託した四個の石とルミアーナが目覚めた後に渡すようにとルークに渡した最後の一個だけだったのだ』
『そしてその石は先日のルミアーナの葬儀の後、神殿に返された…石が黒魔石に喰われないことが分かればルミアーナが生きていることは、知れてしまう。もうそろそろ魔に侵された神官たちが石が変化しないことに気が付く頃だろう』
(何それ!ちょっとヤバいんじゃあ…?)
『そう、ルミアーナが死ねば黒魔石は月の石を喰らう事ができるのだ』
(ええっ?それが、私の命が狙われた理由なの?)
『黒魔石は神官達に囁くのだ…おまえこそが月の石の主にふさわしい…と…今の主が死ねば、次の主はお前だ…と』
『神殿長もとうとう最後の意識を捕らわれ魔物と化した…。黒魔石のせいで…黒魔石に意識を囚われたのだ』
(なんで?なんで月の石は減っちゃって黒魔石がふえちゃったの?)
『始祖の魔法使い達が滅んでから長い時が立ちすぎたせいだ…。主を持たない月の石は長く持たない。精霊が月の石に宿れなくなるのだ』
『祝福から生まれた月の石は長い年月から力が衰えて繰り返された国と国との争いの中、邪気は集まり、その浄化の度に月の石は砕け減っていった』
『さらに長い年月の中、魔石が魔法石となり魔法石から月の石に結晶化し、育とうとする時に人々の祈りや祝福ではなく人々の苦しみや恨みが邪気となって吸収されて月の石ではなく黒魔石となり果てたのだ』
(うわぁ)
『そして、最後の月の石が神殿からなくなり、邪気はおさえがきかなくなり、感受性が強く魔法石の影響をうけやすい高位の神官達から巣食っていったのだ』
(ダルタス様やルーク様に知らせなくっちゃ…)
『いや、それには及ばない。もう、気づいたようだ。今夜、神殿に向かう予定だ』
(え!危ないんじゃあ?)
『王子と将軍はそれを見つけて倒す事は出来るが根源を消し去ることはできないだろう…器となった人間に情けをかければ逆に闇に飲まれる心配もある』
『だが主よ、其方さえ無事なら新たなる清浄な”月の石”を生み出すことが出来る…新たな騎士と王子を携えれば、この世界は救えるから大丈夫だ』
(はぁ?何言ってるの?ダルタス様とルーク王子は?)
『助けたければ、まだ間に合うが…?潜入するのはまだこれからだ…』
「助けたいにきまってるでしょう?」とルミアーナが叫んだ!
『では黒魔石を砕くなら月の石から祝福を受けた剣が必要だ』
月の石に言われ咄嗟にカーク将軍の剣が思い浮かんだ!
そして思い当たる事柄
転生、姫、騎士、王子(魔法使い)、月の石、剣…これらはその魔物を倒すためのキーワード?
(まさか、それが、家出を止めなかった月の石の…ここに来て将軍たちに出会えた理由なの?)
『すべては運命の導きのままに』と石が短く答えた。
(…っ!)
「もうっ!まどろっこしいのよ!最初から言ってよね!」と叫んだが、最初から聞いて素直に石のいうままに動いた自信はない。
自分は何もかも月の石の思い通りに操られていた気がする…だからと言って愛するダルタスや親友のルーク王子を見捨てられる筈もない!
とにかくルミアーナは石を懐に入れて、将軍たちのいる訓練場へ走った。
月の石の祝福を受けし剣を手に入れる為に…。




