60.余談:ルークの考え事
その日、しめやかに公爵令嬢ルミアーナの葬儀が行われた。
なんと国王や王太子。第二王子のルークまでもが参列しており、うっすら涙まで浮かべている。
(嘘泣きだけどね)
近衛騎士団ウルバ隊の面々(当直の者以外)はもちろんのこと、正規軍のダルタス将軍直属の兵達も参列していた。
(むろん、ルミアーナが本当は生きている事は、ごくごく一部しか知らない。)
近衛騎士団ウルバ隊の面々は静かに涙を流し、ミウに弓を教え共に走りを競ったテスなどは人目も憚らず号泣している。
また、正規軍の中でも、訓練の見学で訪れたルミアーナ姫を見知ったものは皆、口々にその美しさ人柄の素晴らしさを称えながら悲しんだり寂しがったり、この理不尽な出来事に怒ったりしている。
『敵を騙すにはまず、味方から』なのは、この世界でも使われる戦法のようである。
そして婚約者のダルタスもまた参列し、不機嫌な鬼のように恐ろしい形相で片隅から葬儀を見守っていた。
事件の犯人への怒りがそんな顔をさせているのだろう。
今日ばかりは仕方ない。
当然だ…と皆、納得する。
(いや、もともと、そんな顔なんだけどね?)
ルーク王子がそっと裏手にまわり周りに誰もいない事を確かめると、涙をふきふき、とうとう堪えきれずに
「ぶほはっ!」と噴き出す。
「ダ、ダルタスがダルタスが、ダルタスが、す…拗ねてるぅ~っ!ぶわっはっは!」と笑い出した。
そう、ダルタスは、拗ねているのである。
ルミアーナには、会えないことが、一番ではあるが、どうも僕に嫉妬しているっぽい。
あのダルタスがである。
自分から見たらダルタスは憧れで決して手の届かない存在だったのに、ルミアーナの事となるとサッパリなダルタスである。
翻弄されすぎて可哀想というか哀れというか………何か、色々、通り越して『面白い』…と、思ってしまう自分は意外と悪い奴だろうか?
まぁ、確かにルミアーナは自分から見てもかなりの”びっくり箱”な娘だもんな…とも思う。
ルミアーナが、月の石に選ばれた姫である事や、月の石を生み出せる事をダルタスは知らなかった。
僕がたまたま、先に知ってしまっただけの事なのだが、それすらダルタスにとっては面白くないのだ。
かと言ってルミアーナ自身だって知らなかったことだから、隠していた訳でもないし、誰も責められない。
けれど、ダルタスはルミアーナの事は何だって自分が一番に知りたいし自分が一番に頼られたいのである。
そんな気持ちが強すぎて、心の声が聞こえてしまうルークにはダダ漏れなのである。
聞きたくなくても聞こえてしまうぐらいに強い思いなので耳のとじようがない有様である。
あんな屈強な男が、こんなにメロメロになっちゃうなんて恋って怖いな?
まぁ、ダルタスが拗ねるのも嫉妬するのも全く分からないではない。
まず、僕は月の石を使って連絡も取れるが今のところダルタスには使えない…。
(血族でもなければ月の石に認められた訳でもないからなぁ)
ダルタス…悔しそうだったな~さすがになんか可哀想だった。
悔しさ紛れにダルタスが言ったであろう「ルミアーナにしばらく帰ってくるなと伝えろ」という言葉そのまんまを伝えちゃったけど、ルミアーナの方も、拗ねてなきゃいいんだけど…と基本的に二人の事を応援しているルークは思った。
ダルタスも僕の魔法を練り込んだ石を持てば…とも思うけど、月の石がそれを認めるかっていうのが問題だよな。
とりあえず、父上や兄上なら血族だから石を通せば会話できるかもだけど…。
やはりダルタスは血族じゃないから難しいよな…と、考え込む。
それに何より月の石がダルタスをルミアーナの”守り手”として認めるかどうかも怪しい。
リゼラやフォーリーは、純粋に『従者』としてだからこそ、認められたのである。
連絡に便利だしルークとしては、ダルタスにも持ってもらいたいけど、そうするとまたルミアーナに月の石を作ってもらわないと無理だしな?とも思う。
公爵邸にあるルミアーナのベッドに据え付けられた手のひら大の月の石は今日、神殿に返却される予定だし…。
大きすぎて持ち歩くには重いし手頃じゃないし…と思う。
しかし、そんなにほいほい作れるもんなのかな?いや、作れたんだけどさ…。
フォーリーや、リゼラの分を作った時もルミアーナは自分に驚いただけで、けろっとしてたけど…。
学校で色々学んだ僕でも、まだまだ、月の石の事は謎だらけである。
ルミアーナもいっそ、学園に入って魔法学を習うのはどうだろう?
そうすれば、ルミアーナ自身で魔法を練り込んだ石をダルタスに与えられるんじやないかな?
いや、でもまてよ?
学校で習った訳でもなく月の石を生み出せちゃうルミアーナなら、その位、石に直接頼めばできちゃうんじゃないの???
あ~、でも、離れたところで迄いちゃいちゃされるのも何だか鬱陶しいかな?
それに、月の石が、ルミアーナの保護者的感覚の者だとしたら、ルミアーナに惚れている生身の男の事など「どこの馬の骨とも分からん奴、血族でもない者に大事な姫はやれん!」とかなんとか言って交際すらさせてくれなくなったりとか?
どこの親父だよ…と思いながら、自分の妄想に笑ってしまう。
あははっ………でも…。
まさかね?
う~ん…やっぱり今のまんまでいいか?…変に月の石を刺激しないようにしよう…。
基本的に二人にはくっついて幸せになってほしいと思うルークなのだった。




