52.困ったときは、とりあえず目先の事から
ひとしきり、反省と後悔を繰り返しダルタスに合わす顔がないと泣きながら二人に打ち明けると、二人からは思いもかけない言葉が返ってきた。
リゼラなどは、さほど驚いた様子も見せずしれっという。
「やはり、そうでしたか?おかしいなとは思いました。先程も、月の石を使ってルーク王子とお話しした時やはりドリーゼ様は勘違いしていたようだ…と、仰ってましたしねぇ。ドリーゼ様の企みなら、それはそれでルミアーナ様が家出でもすれば将軍もドリーゼ様との別居も考えるにでは?と思って、特に反対もせずついて参りましたが」
『何ですと?』
おいぃ、あの時、リゼラだって結構な勢いで、ドリーゼ様にくってかかっていたではないか!?とルミアーナは、叫びそうになる。
「そうですよね~!大体あれほど姫様大好きオーラ全開で他に愛人なんてありえませんものね~」と、フォーリーまでもが、追い打ちをかけるが如く言った。
ルミアーナは『フォーリー!?おまえもかっ!』と心の中で叫ぶ!
「二人とも酷いっ!どうして直ぐに言ってくれなかったの?」と、ルミアーナが言うと…、
「あら、あの時のご様子では、聞く耳もってらっしゃらなそうでしたし…ねぇ?」とリゼラはフォーリーに目配せをする。
「そう…ですね。真相はともかくそういう誤解を招くような経緯があったのなら、それだけで許せませんし!いつだって私たち姫様の従者ですもの。姫様の気のすむようにどこまでだってついていきますとも!」と姫様命!な、フォーリーはさも、当たり前の事のように言った。
「ちょっ…!怖いよ!ソレ!私が間違ってたら怒っていいから!何だったら張り倒してもいいからっ!」とルミアーナは、本気で訴えた。
「「無理ですっ!」」と二人が同時に声を大にしていった。
「そりゃ、ルミアーナ様が、命にかかわるような危険を冒そうとしているとか、人外なほどの悪事に加担しようとしているとかだったら体をはってでもお止めしますけどね?ねぇ、フォーリー」
「そうですよね!リゼラ様、私もそう思いますわ。でもうちの姫様はそんな事、絶対しませんもの。姫様は目覚める前、命を狙われる恐怖から誰も信じることが出来ず外に出ることも、ほほ笑むことすらなくなって…まるで感情のない人形のようでしたわ。私、姫様が毒におかされて眠りについてしまったときに神様に誓いましたの!もし姫様が目覚めることがあったなら、姫様の為にどんな無理でも聞いてさしあげようと!」
う、うわぁ…。
思いがけず、自分の自覚のたりなさが、周りをとんでもないことに巻き込みかねない状況に気づいて青くなった。
そして既に、巻き込んでしまっている事実に気付いて思わず目をそむけたいルミアーナであった。
二人はとにかく自分に忠実でどんなに自分が間違ってても(命にかかわったり極悪に走らなければだが)味方してくれちゃうらしいのだ…。
それが良い事なのか悪い事なのか…いや、決して良くはないと思うのだ…。
だからこそ、これからの自分を律しなければと思った。
恋に浮かれて周りを巻き込んで…そんな自分ではいけない…。
……と、反省はしたものの、今更どの面さげてダルタスに会えるだろう…とも思って困り果てる。
どんなに困っても実は答えは簡単!素直に謝って許してもらうだけなのだが…。
どうやらルミアーナは初恋を妙な具合にこじらせてしまっているようである。
素直になれない。
「どうしますか?すぐにでも戻りますか?ダルタス将軍ならきっとすぐに許してくださいますよ?」
「そうですとも姫様に夢中なんですから」と二人は簡単に言うが、ルミアーナはふるふると首を横にふる。
「二人には話してなかったのだけど、ここに来たのは目的があっての事なの…。ネルデア様がダルタス様やドリーゼ様の事をどう思っていらっしゃるのか…ダルタス様とお会いしたくないのか…。お気持ちを確かめて出来る事ならダルタス様とだけでも自由にお会いになれるようになれないかと思って…」
「まぁ、それでは愛人騒動で家出というのは案外よい口実だったのかもしれません。いきなり失踪ではドリーゼ様も納得しませんし」と、ルミアーナを慰めるつもりでかリゼラが言うとフォーリーも、うんうんと頷いた。
『いや、良くはないだろ!』と思わず心の中で突っ込むルミアーナだったが、眉をへにょりと寄せて二人をちょっとだけ恨めし気に見るにとどめた。
そして、とりあえず明日の二将軍から受けるであろう騎士見習いへの指導の為にも無理やり眠らなければと、思うルミアーナだった。
でも、一人になるとダルタスの事ばかり考えしまって眠れそうにもない。
「一人じゃ眠れない…二人とも…一緒に寝てくれない?」と潤んだ瞳の上目遣いでルミアーナが言うと、フォーリーとリゼラは激しく動揺した。
はうぅっ!何なのこれ!
かっ…可愛いっ!可愛すぎますっっ!姫様っ!
と、二人は目を見開いた。
ルミアーナは、自業自得とはいえ、ダルタスに会えないことが寂しくて寂しくてたまらないのである。
二人はそのルミアーナの可愛らしさに悶絶しそうになるが、必死で平静を装う。
「仕方ありませんね。本当は従者が姫様と同じベッドで眠る等と許される事ではありませんが…」
「そ、そうですね!明日は将軍様がたとの立ち合いもございますし、寝不足はいけませんね」
…と、言いつつも内心きゅんきゅうんしながら二人は(大喜びで)ルミアーナを挟んで川の字で眠りについたのだった。
とりあえず、明日の二将軍との立ち合いを頑張る事にしたルミアーナだった。




