50.切なくて
ネルデラの屋敷に招かれたミウ達三人だったが、
そこには何と南東を守護するアルフ将軍だけでなく、西北を守護するカーク・ディムトリア将軍までもが滞在していた。
何でも三人は騎士時代からの友人でネルデアの旦那様(ダルタスの父)とは幼馴染だったという事で、王都での会議などがある度に、この二将軍は揃ってネルデラの館に滞在しているそうだ。
未亡人の館に歳の近い男性が泊まるなんて変な噂も立ちそうなものだが、この二将軍はネルデラの名誉を慮り滞在するときは必ず供も引き連れた上で揃って滞在するらしくその心配はないようだ。
第一、この二将軍相手にめったな噂を立てようものなら首がとぶというものである。
「ネ…ネルデラ様ってすごい方達と懇意にされてらっしゃるのね?」と、ミウはリゼラやフォーリー達と驚きあった。
だがしかし、侍女のフォーリーは思った。
よくよく考えてみれば、ルミアーナ様だって国王夫妻はメロメロだし!ダルタス将軍の婚約者だし!王太子殿下には片思いされちゃってるし、ルーク王子とだって仲良しだし…もしかしたら、もっと凄いのでは?と。
ちなみに、カーク将軍はアルフ将軍よりずっと紳士的で大人な様で、リゼラ、ミウ、フォーリーの三人を見て、
「これはこれは、また随分と可愛らしいお客様達だね?」とネルデラに言った。
「うふふ、そうでしょう?私を訪ねてきてくれたのよ?リゼラは近衛騎士だけどミウは騎士見習いなのですって…。まだ、小さいですものね?うふふ。そうだわ、アルフ、カークどうせまだ二~三日逗留するんだったら、ちょっと見てあげてはどう?」とにこやかに言う。
「げ」と思わずミウが変な声をあげた。
いや、本来、いつものミウならば、望むところなのだが、いかんせん本来の目的はダルタスの母上様に会ってみて、今後の事を考えてみるところにあった。
ちなみに、そのダルタスとは今、微妙な感じである。
なんだかんだと精神的に疲れちゃっているのである。
よくよく考えると確かに、月の石はドリーゼ様は嘘をついていないと言っていたけれど、何か誤解しただけかもしれないではないかと今更ながらに気付いてしまい、悶々としてしまっていたからである。
ミウは、ダルタスの話を聞かず思いつくままに家出しちゃった事を後悔しはじめていたのである。
そんなミウの様子を見てデリカシーが欠け気味のアルフ将軍は怖気づいたのかと勘違いしていってくる。
「なんだ?なんだ?自信がないのか?まぁ、そんなヒョロヒョロしてたら力もでんだろう?もっと食え!」
ちょっとだけむっとしたが、食事を勧めてくる辺りは案外、本人は優しくしているつもりなのかもしれないとミウは思った。
けれども正直、あまり食欲もない。
「まぁ、ミウ、心配なの?三将軍のうちの二人に見てもらえるなんて早々なくってよ?胸をかしてもらうつもりで、当たって砕けてみなさいな?」とネルデラが優しく声をかける。
多分男の恰好をしているミウは十二~三歳くらいにしか見えないのだろう。
すごく小さい子扱いされている気がする。
「弟は足も速いですし、騎士団の中では特に体技が得意です。舐めてかかると将軍様がたでも投げ飛ばされますよ?」とリゼラがいうとアルフがぶほっとのみかけのワインを吹いた。
「ぶあっはっはっ、この小さい小僧が、我らを投げ飛ばすってか?」と大笑いした。
リゼラはほほほっと合わせてお愛想笑いを返したが内心は真剣である。
(笑ってろ、おっさん!目にもの見せてくれるわ!)という感じでなのである。
その日、ミウは気もそぞろで会話もろくに出来なかったが、将軍たちやネルデアは天下の将軍達に対して萎縮しているんだな?とちょっと微笑ましく思っていた。
翌日の訓練の時までは…の話にはなるが…。
その夜、それぞれに続きの客間に通されたが、たった一日、ダルタス将軍に会えなかっただけなのに、あまりに寂しそうなミウの様子にリゼラのベッドでミウを真ん中に三人で眠りについた。
「ダルタス様…」と寝言でも涙を流すミウだった。




