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目覚めれば異世界!ところ変われば~【Kindle本で1巻発売中】  作者: 秋吉 美寿(あきよし みこと)
ところ変われば、騎士見習い?
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47.魔法使いの王子様は、沈黙し手助けする。

 ダルタスの屋敷を後にしたルミアーナ、リゼラ、フォーリーの行動は実に素早かった。

 とにかく、ルミアーナがいなくなってダルタスがどう動くのか、どう思うのか、気持ちを図りたいと言ったルミアーナに賛同したのである。


 まず、リゼラはルークを城近くのカフェに呼び出し、事の次第を説明し協力を求めた。


 まさか公爵令嬢ルミアーナの恰好のままでは家出もへったくれもない。

 普通に歩いているだけで、()()()()()目立ってしょうがないのである。

 ものの一日もたたないうちに噂は広まり城か屋敷に連れ戻される結果になるのはわかりきっている。


 従って、まずは、ルークの魔法でまたミウにしてもらうことが必須だ。

 金色の髪も碧い瞳も濃い黒に近いような茶褐色に肌も透き通るような白い肌から日に焼けたような小麦色に…。


 顔形がいっしょでも色合いがちがえば随分違う印象になる。

 これで男の子の恰好をすればもう、公爵令嬢のルミアーナだと気づく者はいないだろう。


 そうして、ルークとルミアーナをカフェに待たせている間に、リゼラは騎士団勤務で貯まっていた有給休暇申請をだして手早く旅支度を終わらせた。

 以前より、隊長から貯まりすぎた有休を早く取ってしまうよう散々と言われていたので申請も直ぐに通った。


 一方のフォーリーはというと、一旦、屋敷に戻りルミアーナと自分の荷物を手早く整える。

 数日は戻らないであろうから、そこそこ大きめの鞄に色々と詰め込んでいく。

 それを訝しむ周りの者には、王城にいるルミアーナ様に言いつかったものを取りに来たのだと説明し、足早に待ち合わせ場所に戻ったのだった。


 さて、ルークが聞いた事の次第についてだが、ダルタスにはルミアーナ以外にも愛人がいて、どちらも選べないと抜かしているとの事であるがルークには何か腑に落ちない感じである。


 ありゃりゃ?なんか、またややこしくなってるけど、ダルタスにルミアーナ以外の恋人って?ありえなくない?いや、しかし月の石もお婆様は嘘をついてないと言っていたというし…?むむむ?と考えを巡らした。


 精霊が嘘をつくとも勘違いするとも思えないしなぁ?とルークは悩んだ。


 ブラントのおかしな勘違いみたいなことがドリーゼの中でも起こっているのでは?とズバリご名答な考がよぎるものの口にするのは躊躇われた。


 本来であれば公爵令嬢である(しかも命を狙われたことがある)ルミアーナの家出など止めるべきなのだろうが、月の石がそれを指摘しないのは、ひょっとしたら何か『別の意味』があるのではないか?と思いたったからだ。

 なので『月の石の精霊至上主義』のルークは手を貸すことにした。


 カフェの一室を借りたルミアーナは服を騎士見習いの時の動きやすいズボンとブラウスに着替える。

 そして、騎士見習いのローブを頭からかぶり走りやすいブーツをはいたところで、ルークが魔法をかけた。

 いかにも健康そうで可愛いくも美しい騎士見習い(※性別不詳)のできあがりである。


 …っていうか、ルミアーナってば、いつの間に月の石と(輝く色とかで雰囲気、話しているっぽいとかじゃなく)言葉まで交わせるようになってんの?

 それってもう言語を使っての会話だよね?


 魔法学を学んだ訳でもない彼女が、精霊と言葉を交わせるようになったなどと、(まさ)に血のなせる業だとしか思えない。

 心を読むという特殊な能力をもち、魔法力を持った上で魔法学を学んできた自分であれば可能かもしれないことだが、魔法に関して全くの素人のルミアーナにそんなことが出来たというのは中々に衝撃の出来事だ。

 ぜひ、自分も試してみたい。


 ルークは、びっくり箱のようなルミアーナにこらえきれない程の興味をそそられるのだった。


 「良いかい?ミウ」(ルークとリゼラは、ミウの姿の時はルミアーナの事はミウと呼ぶ癖がついている)


ルークは、ルミアーナの持つまだ生まれたての月の石に自分の魔力を込め、鎖に取り付けてルミアーナの首にかけた。


「僕もついて行きたいところだけれど、君と共に僕まで失踪したとなると単なる家出ではすまなくなる。例えば君と僕が駆け落ちしただのとあらぬ誤解を受けて大変な醜聞をまねきかねない」


 ダルタスは怒り狂い、国王夫妻が狂喜乱舞するのが目に見えている。


 それはそれで面白いかもしれないとルークは思ったがルミアーナの名誉にかかわるので、そこは断腸の思いで我慢して城に残ることにした。(紳士で誠実なルークだった)


 家出中の旅の安全でいえば、まず国一番の女性騎士リゼラがいるし、ミウだって相当な腕前なのは兄である王太子アクルスとの御前試合で確認済みである。

 唯一、危ないとしたら侍女のフォーリーである。

 まぁ、彼女の事もリゼラとミウがいれば大丈夫だろう…と思う。

 けれど不測の事態というのは、いつ何時起きるともしれない!用心に越したことはないのである。


「ミウ、家出中に君たちがより安全でいられる”特別なお守り”を作りたいんだけど協力してくれるかい?」


「もちろんよ!どうするの?」


「僕が手をつないで魔力で大地に潜んでいる魔法石を集めるから、その石をギュッと固めるイメージを想像してくれる?もう三つばかり月の石を生み出してもらいたいんだよ。ちょっといい考えがあるんだ」


「え?そんなのわかんないわよ?外でお茶してた時、すっごい怒ってたら急にパラパラと石が集まって来て固まった感じだったから何がどうなってこうなったかなんて分かんなかったし…」


「あ~うん。すごいよね~。それで月の石が生まれちゃうなんて…。多分、精霊たちがルミアーナを慰めようとして石に宿ったんだろうね~?まぁとりあえず、僕の魔法で誘導するからミウはとにかくリゼラやフォーリーや僕ら全員をを繋ぐための月の石を思い浮かべて祈ってくれる?」と言い、ルークはまるで恋人つなぎのように右手をミウの左手にからませた。


「わかった。やってみる!」とミウは祈りを込める。

 どうか、精霊たちよ!私たちを護る力をリゼラやフォーリー、ルークにも与えて!と強く願った。


 ルークが何やら呪文らしきものを唱える。

「大地にしみわたりし祖始の力よ精霊の導きよ、その力、汝の愛しき血族を守護が為、我ら守り手の三人に形となりて分け与えたまえ」


 すると、地面がざわざわと震えだす。

 そして、またドリーゼとのお茶会の時のように小さな小さな米粒大の魔法石が光を放ちながらわらわらとルークとミウの側に集まりだした。

 そしてそれは、三つの光となってそれぞれルークとリゼラ、フォーリーの手の中に飛び込んできた。


 ルークの手には淡く青く輝く一センチほどの石が…。


 リゼラの手にも光こそ放ってはいないものの同じ位の大きさのルビーのように赤い丸い石が、フォーリーにも同じくらいの大きさの水色の石が手に収まった。


「これは…私やフォーリーが持っていても意味がないのでは?血族ではないのですから」とリゼラが言うと


「この石は血族であるミウを護る者たちへ精霊たちから守り手(ぼくら)に下されたものだからね。それに、ミウの祈りと僕の魔力も込めたものだから、ミウを守護する為の力は”守り手”として石に認められた君達にも僅かながらも御力(みちから)を引き出せるはずだよ。」


「ええ?例えばどんな?」とミウが面白そうに聞く。


「そうだね、例えば、ミウに何かあったりミウと離れてしまったときに連絡がとりたければこの石を握りしめて念じればいい。やってみるよ?」とルークが自分の石を握りしめ石に思いを念じる。


『どうだい?聞こえるかい?今、三人に語りかけてるよ?』


 するとリゼラやフォーリーの石も二人が血族ではないにも関わらず、ぽうっと控えめな柔らかい光を放った。

 そして、三人の頭の中に同時に声が聞こえた!


「えええっ!便利っ!」とフォーリーが思わず叫ぶ!


『これは、遠くにいても思いをこめれば届ける事ができるからね』

 と、ルークが続いて皆に伝える。


 このルーク特有魔法を込めて組み合わせた月の石は実に画期的なアイテムと言えよう。

 こんなものが、あると知れたら色々まずいんじゃなかろうか?

 王家でも普段は月の石なんて使ってないよね?ミウがそう思っていると、


 案の定、ルークは言った。

『この石の事は誰にも内緒だよ?』


『分かりました!誰にも言いません』と、フォーリーが答えた。


『すごいわ!遠くにいても、ルーク王子殿下にも報告やご相談ができますね!』 と、リゼラが言う。


『キャー、すごいすごいっ!』 と、ミウは喜んだ。


 まるで、携帯電話のようである。

 いちいち番号を入力しないでよい分、携帯よりすごいではないかと感心した。


「さて!これで、日々、様子を僕に報告できるよね?慣れたらもっとスムーズに普通に話せるようになると思うよ。ところで行先は決まってるの?せっかく全員、月の石まで装備したんだから、ちゃんと僕にも日に三回は報告をいれてよね?」と、言った。


「うん、わかった。約束する!ルークにはちゃんと相談も報告もするね?とりあえず、ダルタス様にも内緒でネルデア様の所に行ってみようと思うの。今の姿で()()として…」


「なるほど、そうだね。いいんじゃない?お婆様の気持ちが和らいできている今ならもしかしたら、叔母様とダルタスが会えるようになることもあるかもだし。とりあえずダルタスから姿を隠したいだけなら好きな所へ行って好きな事をするといいよ」


「ああ、ありがとう!ルークって本当に私の気持ちわかってくれて嬉しいっ!」ミウはルークに抱きついた。


「ははは。こんなとこ見られたらダルタスに殺されるな」と、ルークは笑いながらミウの頭をポンポンと撫でる。


 そうして三人はルークと別れ、とりあえず街はずれにあるというダルタスの生母ネルデアの屋敷をめざす事にしたのだった。

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