29.ルーク王子の秘密
ルークは、この国の王子ではあるが世継と定められたアクルス王太子ほど話題に上ることはなく、どちらかというと地味な存在だった。
と、いうか本人が出来るだけ目立たないようにしていた…と言うのが正解だろう。
頭脳明晰な上に魔力まである彼が実力をひけらかせば、良からぬ貴族がルークを世継ぎにと言いだし、世継ぎ争いに発展しかねないことをルーク王子には分かっていたのだ。
それと言うのもルークには生まれつき人の感情の流れを読み取る能力が備わっていたからである。
よほど強い思いや明確に言葉になっているものに限られるが意識を集中するばそれを読めてしまうのである。
特に意識を向けなければスルーする事もできるので、今ではすっかり自分からは他人に関わらないようにする癖がついてしまっていた。
何でもかんでも聞こえてくるのはしんどいものである。
この事は、両親さえ知らない。
生まれつき大きな魔力を持っているという事がわかったルーク王子はわずか二歳の頃から神殿預かりとなった。
そして、その身の内に秘めた『膨大な魔力』が暴発しないようコントロールが出来るようになるまで大神殿の奥深くで神官達によって守り育てられたのである。
(むろん息子を愛する国王夫妻は頻繁に息子の顔を見に王太子も連れて大神殿には顔をだしていたのだが…)
その中でも心が読めてしまう事を知っているのは自分を指導してくれた大神殿神官長デュムランだけである。
両親がいきなり自分を呼びつけてルミアーナとあわせた時、やたら浮き足だった様子だったので、つい二人の感情を読み取ってしまったのだが、何と言うか二人して頭がお花畑な状態だった。
美しくて可愛らしい公爵令嬢のルミアーナにメロメロで、どうやら彼女と自分を添わせて娘と呼びたいらしい。
馬鹿馬鹿しいとは思ったけれど兄がやらかした愚行を知り、謝りたい気持ちもあったので取りあえず会ってみた。
すると彼女は、今まで出会った事のないような何だか、とても変わった女の子だった。
放つオーラが、あきらかに周りの誰とも似通っていない。
まるで、オパールのような輝きだ。
それは乳白色でありながら光に照らされて淡い虹色に輝いていた。
珍しく興味がわいて、つい心を覗いてみると我が従兄の事が好きで好きでたまらないという感情が大半を占めていて驚いた。
何の駆け引きもなく、只々ひたすらに『好き』という想いに呆気に取られてしまった。
そして、残りの感情も本当に面白いものだった。
何だかよくわからないが彼女は、記憶の中に『違う世界』を持っているようである。
そして公爵令嬢とは思えないほど自立心が旺盛で自分の敵は自分で倒そうとしているようだ。
ちなみに今のところの彼女の敵は我が兄アクルス王太子である。
本気で立ち会いをして、ぶちのめす気らしい。(ウケる!)
面白すぎて目がはなせない。
こんなに他人に興味がそそられたのは生まれて初めてである。
しかしながら両親には悪いけれど期待には応えられそうにはない。
あれだけ自分以外の誰かさんが好きで好きでしょうがない気持ちを全開で見てしまっては、いくら綺麗で可愛らしい姫でも彼女とどうにかなろうなどとは欠片も思えない。
もともと見た目至上主義というわけでもないので見た目の美醜にはまどわされないというのもある。
もちろん中身が嫌いと言うわけでもないけれど。
むしろ好ましいとは思っているが、そういう種類の感情ではないというだけだ。
なんと言うか…大好きではあるのだが恋だの何だのという様な感情とは、ほど遠いのである。
ルミアーナの方も自分に対してまるで同性の友人か兄妹のようになついてくれているようだ。
王族だからとか、そういった感情は一切ないのが大変好ましいし…というか珍しい。
自分とルミアーナは、良い意味で男女間のあれこれが、お互いに「なし」のようなのだ。
むしろ、ルークにしてみれば、ダルタスとルミアーナ!この不器用な二人を応援したい気持ちなのである。
ダルタスのことも、正直言うと実兄のアクルス以上に信頼しているし憧れてもいる。
彼とルミアーナならお似合いだと思った。
しかしながら、男女の仲だけは周りがどうこう言ってもなかなか上手くいくものではない。
もちろん、手放しで応援はするものの、はてさてどうしたものか?と思いつつ、とにかく自分は二人の味方でいようと思うルーク王子だった。




