310.ツェン・モーラ・ダート侯爵の恋 08.欲張りな恋の成就--Fin--
半時もたった頃だろうか?
ツェンとフォーリーは、皆のいる部屋に戻って報告をした。
「…という訳で、彼女は、ルミアーナ様にお仕えしたいので、ダート侯爵家の女主人になるのは無理だと…」とツェンが先ほどのフォーリーとのやり取りを説明した。
「へ?なんで?結婚してからもうちに侯爵夫人として遊びに来ればいいじゃない?侍女って言ったって私にとっては姉のような人だもの私も遊びに行くし」とルミアーナが言う。
「姫様、ありがたいお言葉ですが、お忘れですか?ツェン様の領地は騎馬の名手のツェン様が早駆けで来ても丸一日以上かかるのですよ?そうそうはこれなくなります」フォーリーが悲しそうにそう言うとルミアーナはきょとんとした。
「何言ってるの?貴女こそ忘れたの?フォーリーにはオリーの月の石を持たせているでしょう?」とルミアーナが悪戯っぽく笑いながら言った。
「え?あっっ!」とフォーリーが真っ赤になって声をあげる。
すると精霊のオリーが、すかさずフォーリーの手をとった。
「そうよ、気づいた?フォーリー、私は貴女のもつ月の石に宿っているのだから、毎朝目覚めたら言われなくても主の所に行くのだし、その時、フォーリーが望むなら一緒に連れていきますわよ。そうね、こんな風に!」とフォーリーの肩をつかむと一瞬パッと姿を消し、テーブルを挟んで、ほんの一メートルほどの距離だがルミアーナの側五センチほどの場所に転移した。
「「おおおっ」」とダルタスやツェンが感心したような声をあげる。
「フォーリーが、どうしても私に仕えたいと言うのならダート侯爵夫人として私の話し相手、そうね相談役として通ってちょうだい。そうすれば私も子供達も大好きな貴女に毎日会えるのですもの!嬉しいわ!」とルミアーナが極上の笑顔をむける。
「なんと、それでは、私は一人寂しく領地で過ごさなくても朝と夜は妻と共にいる事ができるのですね?」とツェンが感嘆する。
「結婚したら一緒にいるのが当然でしょ?それに、結婚も仕事もしたいなら両方すればいいのよ。どっちかしかダメなんて誰が決めたの?そんなの馬鹿ばかしい!どっちもしたいならどっちもすれば良いだけの事よ!」とルミアーナは言い放つ。
「そうだな、ルミアーナは月の石の主だけど公爵夫人でもあるし、最近ではミウとして騎士達に体術指南もこなして、週三程教会に子供達の勉強を見に行くこともしているし…それと比べれば大丈夫なんじゃないか?」とダルタスも呑気そうに言った。
「はわわわわわ!」とフォーリーは奇天烈な声をあげる。
簡単に言うけれど、この国ラフィリルで兼業主婦だなどという概念はあまりない。
ましてや貴族で…。
しかし、主人のルミアーナは別格である。
”月の石の主”で公爵夫人で、騎士としての一面も持つ。
そんな規格外の姫様に仕えるのだから自分も規格外で良いのだろうか?と段々、そんな気になってくるフォーリーだった。
そして、乗り気のルミアーナが、全ての手配を進め、あれよあれよという間に婚約が決まってしまった。
そして翌日、ツェンとフォーリーは、まずツェンの実家であるモーラ伯爵家へ結婚の報告に行くと「でかした!」と伯爵には大喜びされた。それから、ダート侯爵家へ行くと執事のジェロームを始め召使たちは涙ながらに二人の婚約を祝ったという。
優し気で美しいフォーリーに召使たちは歓喜し、ダート領はお祭り騒ぎである。
そしてツェンやツェンの家族、ダート侯爵家の召使たちの切望により婚約の期間をほとんど設けず、わずか一か月後の挙式となったのだった。
そして今日もフォーリーは、旦那様を見送ると精霊オリーと共にラフィリアード公爵家に出仕する。
自分の命より大切な主人ルミアーナやその子供達のもとへ…。
そして、夜にはまた、愛しい旦那ツェンのもとへ帰るのだった。
ツェンはもちろん、フォーリーも仲の良い主人夫婦を見守るジェロームら召使も、それはそれは幸せな気持ちに包まれた。
あれもこれもと追いかけて手に入れる。
そんなルミアーナの侍女フォーリーの恋は叶い、侯爵夫人でありながルミアーナの専属コンパニオンという立場も手にした。
お節介な主人たちや精霊たちに囲まれたフォーリーの欲張りな恋は成就し、大団円を迎えたのだった。
-------------Fin-------------
この回で番外編も最終回です。
長らくお付きあい頂きありがとうございました。
数年後の別のお話ですが、こちらも宜しければお読み頂ければ嬉しいです。↓
「はじまりは初恋の終わりから~」
純真無垢な公爵令嬢のお話です。
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