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目覚めれば異世界!ところ変われば~【Kindle本で1巻発売中】  作者: 秋吉 美寿(あきよし みこと)
番外編
218/228

307.ツェン・モーラ・ダート侯爵の恋 05.プロポーズの行方

 ラフィリアード公爵家ご自慢の湯殿は、地下の鍾乳洞を天然のままにしつらえた源泉かけ流しの温泉である。

 ダルタスもルミアーナも、事の外この温泉は気にいっている。


 突然、訪れたツェンをラフィリアード家の皆は温かく迎えた。

 そしてダルタスとツェンは今、湯殿である。


「なるほど、わかった!俺はフォーリー本人さえ良ければ賛成だしルミアーナも、お前が相手なら反対はしないと思うぞ」


「えっ?ダルタス、ほ、本当に?」鍾乳洞の湯殿の中、嬉しそうなツェンの声が響き渡る。


「ああ!ただ本人は、いつも”死ぬまでルミアーナに仕える”みたいな事をよく言っていたからなぁ~。とりあえずルミアーナには言っておくし、応援するからフォーリーに気持ちを伝えろ」


「か、可能性はあるだろうか?」


「なんだなんだ?弱気だな?おまえ、騎士学科の頃からクンテと二人して随分モテてじゃないか?」


「そんなの昔の話だろ?あんなのはミーハーな女子が騒いでただけじゃないかフォーリーさんは、あんな軽薄な女子たちとは違うんだから!」


「む!そ…そうか…そうだな。確かに、うちのフォーリーは気だてもいいし穏やかだしな。それにフォーリーはルミアーナの侍女とは言えアークフィル家でも大事にされてきたし、箱入り娘みたいなものだな」


「そ、そうだろう!?穏やかで優しくて…彼女の笑顔は可愛くて癒されるんだ!何より守ってあげたくなるって言うか…」


「うんうん。そうだな、俺もルミアーナに初めて会った時、そう思ったものだ。見かけに反してルミアーナは異常に強かったが…。その点、フォーリーは正真正銘の、か弱い女子だから本当に守ってやらないとだな」


「そ!そうだろ?勿論さ!彼女の事は僕が守ってみせる!」


 と、まぁそんな風に取りあえずこの屋敷の主人ダルタスにはフォーリーへの求婚の許可はもらえた。

 『善は急げ!』とばかりに二人は風呂を出るとまずルミアーナを部屋に呼び、突然の訪問の事情を説明した。


「まぁああ!ではツェン様はうちのフォーリーの事をお好きなのですね?」


「は、はい!彼女に結婚の申し込みのご許可を頂きたくお願いにあがりました」


「まぁ、勿論それは大丈夫よ!ダルタス様の信頼厚いお友達だし、ツェン様だったらきっとフォーリーの事を大事にしてくれそうですもの!フォーリーさえ良ければこんなに良いお話はないと思うわ!ただ…」


「ただ?何です?」ルミアーナの言葉にツェンが不安そうに尋ねた。


「フォーリーには、今、既に求婚してきている殿方が何名かいらっしゃるのです」


「ええっ!それは本当ですか?ルミアーナ様」


「え?そうだったか?でも、断ったと言ってなかったか?」とダルタスが言う。


「ええ、フォーリーは、コモレンティ伯爵様の求婚もデハルト侯爵様の求婚もティレイアーム子爵様の求婚も瞬殺で断っておりますわ」


「さ、三名も?」


「断ったのなら問題ないのではないのか?」


「いいえ、ダルタス様。それにツェン様!申し込みの数だけならば何年も前から数えたら十や二十は軽くこえております!とても賛成できないような身の程しらずな申し込みまで含めたら、それこそ数知れずですわ。でもまぁ、そういうものはフォーリーの耳に入る前にリュートやオリーに処分してもらっておりますの。先ほど名前をあげた方々は、お人柄も問題なく尚且つ断られても諦めず何度も申し込みをお続けになっている骨のある方々ですわ」


「「な、なんと!」」


「なんと!フォーリー、モテモテではないか!」とダルタスが言うとルミアーナとツェンが同時にダルタスに顔を向けた。


「「当然ではないですか!」」


 ツェンとルミアーナが、ハモるように言い顔を見合わせた。


「ダルタス様、フォーリーは私の素敵なお姉さまなのですのよ!とても優しくて綺麗な癒し系美女のお姉さまなのです!フォーリーを一目見た殿方が望まれるのも無理のない話ですわ!もちろん、生半可な者には渡しませんけれど!」とルミアーナが気合いを入れて言い切る。


 うんうんと頷くツェンである。


 しかし、ツェンは頷きながらも焦っていた。


 ルミアーナ様が認めるような紳士が三人もいて、そのお三方も諦めてはいないものの瞬殺で断られているというのだ…。

 自分が今さらしゃしゃり出てどうにかなるものなのだろうか?


 いや、しかし自分も今では侯爵の身分である。

 領地経営も上々で王家やダルタス将軍からもかなりの高評価を頂いている。

 お三方に負けるものかと気合を入れなおす。


「ツェン様、私は基本的にフォーリーが望めば反対は致しません。決めるのはフォーリーですわ!よろしいですわね?まずは、フォーリーに当たって砕けろですわ!」

 そういって、びしっとツェンを指さし、叱咤激励するルミアーナだった。


「はいっ」とツェンは背筋をのばし答える。

 抑えきれぬ恋を自覚したツェンに、もはや迷いはなかった。


 そして、ほどなく談話室にフォーリーも呼ばれて、ダルタスやルミアーナの見守る中、ツェンはフォーリーの前にひざまづいた。


 そして懇願した。


「フォーリー・ポリネット殿!貴女を愛しています。どうか、このわたしツェン・モーラ・ダートの花嫁になってください。貴女を一生、大切にするとお誓い致します」


 しかし、突然の婚姻の申込みにフォーリーは驚き、その場で固まってしまったのだった。


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