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目覚めれば異世界!ところ変われば~【Kindle本で1巻発売中】  作者: 秋吉 美寿(あきよし みこと)
番外編
217/228

306.ツェン・モーラ・ダート侯爵の恋 04.フォーリーの気持ち

 雪の降る寒い日に、あの方…ツェン様は再び訪れた。


 半年に一度くらい、お仕事でお城に来られたついでに、いつもこちらのお屋敷に旧友であるダルタス将軍…(ルミアーナ)様の旦那様に会いに来られるのである。


 つい二か月ほど前に来られたばかりなのに、如何されたのでしょうか?

 まぁ、そんな事、侍女の私には何の関係もない事なのですけれど…。

 ツェン様は、侯爵様でいらっしゃるのに、侍女でしかない私のようなものにまでお気遣いの出来る紳士です。


 いつも、ほんの二言三言程度ですが、ねぎらいのお言葉をかけて下さるのです。


「いつも美味しいお茶とお菓子をありがとう」と言って、珍しいお菓子をお土産に下さったり…。

 そうそう、慈善バザーで花を買わされてしまったとかで、それはそれは見事なバラの花を下さった事もある。


 最初は、うっかり、()()()しそうになりましたが、ツェン様は本当に優しい真の紳士なのだとわかりました。


 三年前から、ずっと変わらずお優しい。


 さすがは、姫様の旦那様の親友なのです。

 身分が下の者にまで誠実で、身分を傘に着ず、穏やかで爽やかで、それでいてチャラチャラしていなくて!


 ほんの一時でも、自分の事をす…す…

 好き?…なのかも…なんて勘違いしそうになってしまった自分が恥ずかしいったら!きゃっ!

 …こほん…なのですわ。


 ツェン様に悪気はないのでしょうが、罪なお方です。


 ツェン様は、節度ある紳士的な態度と距離で接して下さいます。

 けれどあの優しい声で、しかも、少し照れたような表情で贈り物などされたら、私でなくとも普通に()()()してしまうと、思うのです。


 そのうち、思い込みの激しいタチの悪いどこぞの貴族令嬢につけこまれたりしないか、心配です。

 あ、いえいえ、幸せなご縁があれば、勿論、お喜び申し上げますが…。


 お喜び…そう…お慶び申しあげ…ああ、無理かも…。

 でも、構いませんわよね?


 私ごとき侍女からの祝福などツェン様には不要でしょうし…。

 私の想い等、ツェン様が知る筈もないですし…。


 私、身も心も生涯、姫様をお支えし続けると決めてますし!

 恋とか結婚とか、全くもって関係ないですし!


 あ、何か、ちょっと卑屈な感じですわ。

 いけませんわ!


 このお屋敷には何といってもリュート様やオリー様という精霊様までいらっしゃいますもの。


 私のこんな気持ちも読まれてしまいます。

 ああ、でも精霊様は、主である姫様の事以外には割りと無頓着というか、無関心なのが救いですが。

 やはり、この手の事がバレバレなのは、恥ずかしいです。


 特にオリー様の宿る月の石は姫様から通信用にと私が持たされていますから、いつも『オリー様のお家』を持ち歩いて居るようなものと言うか…、おそれ多い事ですが、たかが人間で、たかが侍女の私にまで親しくお声を頂けるのです。


 血族でもなく魔法力もない私がこの国の神にも等しき精霊様の声が聞けるなど普通ならあり得ません!


 けれど、主である姫様から名前をもらった精霊様は、人の姿になることが出来るというのです。

(姫様、すごすぎですわ!?)

 精霊様も人の姿で現れた時は、普通の人と同じようにお話しになるので、私のようなものでもお声を頂ける訳なのですが…恐れ多い事です。

 だって私は本当に本当に普通の人間なのですもの。

 ありがたい事ですが、時々、怖くなります。

 そのうち何かの拍子にとんでもない無礼でもしでかして罰があたるのではないでしょうか…。


「また、何か変な方向に考えが、傾いているわね?」


「え?あ!オリー様!び、びっくりしました」


 早速、精霊のオリー様が、いきなり姿を現わしました。

 ほんとに、いつも、いきなりなのですよ。はぁ。


「うふふ、もう三年以上の付き合いだと言うのに、相変わらずねぇ。我のことは、呼び捨てで良いと言ってるのに、お互いルミアーナ様に仕える者どうしなのに」


「また、その様なこと!めっそうもございませんわ!精霊様とたかが侍女の私ごときでは、身分どころか種族すら違いますのに!」


(あるじ)も人間だわ」


「ルミアーナ様は、人間でも別格です!精霊様を、人間界に留め置き惹き付けるほどの魔力を身の内にお持ちなのですから、ある意味、人とお呼びして良いものなのか悩む処なぐらいですから」と、私が言うとオリー様は、ぷっと吹き出された。


 おぉ!精霊様を笑わせましたよ!(ワタクシ)…!

 私ってば、本気ですごいかもです。


 ちなみに、元来、精霊様は、あまり笑ったりすることはありませんでした。

 その…失礼ながら、精霊の皆様方は私が知る限りですが、表情が乏しいのです。


 しかし、人の姿でいることの多いリュート様やオリー様は、最近、表情が豊かになり、笑ったり怒ったり拗ねたり、最近ものすごく人間くさいです。

 …とは言え、やはり普通の人間よりは笑わない筈なんですが、何かウケてますね?はて?


「フォーリーの、"たかが私ごとき"は、もう口癖ですね?フォーリーは、"たかが"でも"ごとき"でも、ありません」


 そんな、お優しい言葉すらおそれ多い私は、つい、またいつもの口癖を言ってしまいます。


「まあ、オリー様、私()()()に、もったいない!」


 それを聞いたオリー様は、私の事を困った子供を見る目で笑いながら小さなため息をつかれます。

 オリー様、本物の"人"のようですわ!さすがです!


 そんな心の呟きさえ、精霊のオリー様にはバレバレです。


 他の召し使い達は、心を読まれてしまうのが嫌みたいで精霊様の前では、萎縮していまっているようですが、私はむしろ、二心がない気持ちが伝わるし、想いを上手く伝えるのが苦手な私には丁度いいっていうか…。


 と、うっかり余計な事を思い巡らしてしまうとオリー様が今度は盛大に笑い出しました。


 おぉ!私、ほんとに凄いです。

 精霊様を二度も笑わせましたよ!


「ぶわっはっはっは!」


 オリー様?綺麗なお顔に、その笑い方はいただけませんわ!

 ひぃひぃと、過呼吸を起こしそうになって笑うオリー様の背中を私は慌てて擦ります。


「オリー様!息もしてくださりませ!人の姿で息を止めたら死んじゃうかもしれません!」


「ぎゃははははは!」

 と、オリー様は、さらに笑います。

 もはや、精霊様のイメージが丸潰れです。


 どうしましょう、私、精霊様を笑わせ殺してしまうかもしれません!と、オロオロしていると、今度はリュート様まで、私の目の前に現れました!


 本当に精霊様方は神出鬼没です。

 私はすっかり慣れましたが普通の人ならビックリして卒倒してしまわれる事でしょう。


「ふむ、精霊をこれほど笑わせられる事ができるのは主かフォーリー、其方くらいだろうな?オリーそろそろ落ち着け」


「リ…リュート、ぷぷっ…そうですわね、人の姿では息をしないと死んでしまいますものね…ぷぷぷっ」


 オリー様ってば、ちょっと失礼?かもですが、精霊様の言う事ですからまぁ、良い事にしましょう。

 普通の人だったらお説教ですよ?オリー様…と思ってしまう私です。

(いや、心の声も届いてるんですけどね)


「ふふん、オリーよ、今からもっと面白いものが見られるぞ?フォーリー、ツェンは、今、ダルタスと風呂に入ってるが、お前の事を相談しに来たみたいだぞ?」


 何やら悪そううな表情で笑うリュート様!

(リュート様の黒い笑顔だけは昔からですね!)


 …って!私の事で相談って何?

 私、何か失礼でもした?


 以前来られた時になにか気づかずにやらかした???


 とたんに私は血の気が引いたのでした。


 わ…私は、一体全体、何をやらかしたのでしょう?

 心の中で叫びおののき、悲鳴をあげる私に何故か精霊様方は意味ありげな笑みを向けます。


 何、もう、ほんとに怖いデス!


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