305.ツェン・モーラ・ダート侯爵の恋 03 ラフィリアード家では
その夜は特に冷え込み、空からはちらほらと雪が舞っていた。
夜通し降り続ければ、明日の朝には白銀の世界が広がっていることだろう。
温泉の街でも知られる王都ラフィールは、所々から湯気が立ち上ぼり独特の風情がある。
ラフィリアード家では晩餐のあと、家族でゆったりと過ごしていた。
双子の子供たちは昼間はしゃぎすぎたのだろう。
お腹一杯になったかと思うと、もう、うつらうつらとしていた。
「お部屋に参りましょう?」と、フォーリーが、優しく言うとこの優しい侍女が大好きな双子たちが頷く。
「フォーリーと…お母様もいっしょ?」
「「いっしょに、ねゆのぉ~」」と、二人がぐずった。
「はいはい、お母様も、一緒にいくから良い子でベッドにはいりましょうね?」とルミアーナが笑う。
「リミア、いいこ、すりゅ~」
「ジーンも~」
「二人とも良い子ね」
ルミアーナが、微笑むと、子供たちは本当に幸せそうに頷きルミアーナに抱きついた。
二人はルミアーナと、フォーリーに抱かれてすぐ隣の子供部屋にいき、ベッドに入るやいなや、もはや限界だったのかすやすやと寝息をたてた。
「「あらあら…」」
ルミアーナとフォーリーが顔を見合わせてくすりとほほ笑み合う。
「いつも、こうなら、らくちんね!やっぱり昼間は、うんと体を動かすに限るわね」
「今日は昼間、ティムン様も、こちらに来られてジーン様もリミア様も大はしゃぎでしたものね」
「二人とも本当にティムンが大好きなのよね」
「それは、そうですわね!ティムン様もお二人に夢中のようでしたし。本当に可愛くてしょうがないみたいで」
「うふふ、見ていて微笑ましいわよね。ダルタス様も、どこの馬の骨ともわからん奴にリミアを嫁がせるくらいなら、ティムンの方が良いに決まってる!ティムンを婚約者にしたのは正解だったと、しみじみリュートと語り合っていたものね」
「ほんとに、リュート様もうんうんと頷かれていて、最近ではリュート様、ものすごく人間味あふれる感じですよね?」
「あら、フォーリーもそう思う?なんか、双子たちの事もまるで自分の子か?っていう位、可愛がってるしね~」
「仕方ありませんわ、うちの若様姫様の可愛さと来たら、半端ありませんから!精霊様だってメロメロですとも」
「あらあら、フォーリーったら、貴女もそうとうね」
「え?あら!ほんとですわね」
うふふ、おほほと笑い合いながら、ダルタスやリュートの元に戻る。
今日もラフィリアード家では平和で優しい時間が流れていた。
***
窓の外の雪に目をやりながら、リュートがふと呟いた。
「ふむ、ツェンが来るな…何やら、えらい勢いでこちらに向かって来ているようだ」
リュートが、そう言う。
最近、リュートは、しゃべり方がダルタスと似てきた。
ダルタスの居ないときなど、まるでリュートがこの館の主では無かろうかと思う様な貫禄である。
「えっっ?ツェン様が?」と何故かフォーリーがぽっと顔を赤らめ驚く。
「あら、今回は早いわね?いつも半年ごとくらいにきていたのに…、旦那様から何も聞いてないし、どうかしたのかしら?」と、ルミアーナが不思議がる。
「そ、そうですね、た、たしか前回は、二ヶ月ほど前にお越しになりました」と、フォーリーが答える。
「この時期は、王城での出仕もない筈だし何だろうな?領地で何かあったのかな?」とダルタスがいうと、精霊リュートがくっくっと笑った。
「いや、何か、そんな感じでもなさそうだ。何か随分と必死そうだが…まぁ、もう半時もすれば着くだろう」と、やたら人間み溢れる笑みをこぼす。
(なにか、おもしろいことになりそうだ)
「リュートがいると来客がわかって便利ねぇ~。そうだ、ダルタス様!外はこの雪ですもの、さぞかし冷えきって来られるでしょうね?ラフィリアード家自慢の湯殿にでもつかってもらいましょうか?」
「ああ、それは、いい考えだな、何か相談事でもあるのかもしれん。今夜は遅いし、客間も準備してやってくれるか?」とダルタスが言うと、ルミアーナとフォーリーが頷く。
「「かしこまりました」」
二人は召使たちに指示を出して湯殿と客間をしつらえさせ軽い夜食の用意もした。
そうして、その夜、準備万端でツェンを迎えるラフィリアード家の人々であった。




