302..ティムンの学園生活03 我が道は誰が為!(本人視点
僕はアークフィル公爵家の養子になってからすぐ学園に入った。
ここラフィリルでは、ほとんどの貴族の子供は十歳になると王立のラフィリル学園に入学し、親元を離れて六年間を過ごすからだ。
親元を離れる…と、言っても、夏休みとか冬休みはあるし、帰ろうと思えば毎週でも休みの度に帰れる訳だが…。
僕は長い休み以外は家には帰らなかった。何故ならば、この国の将軍ダルタス義兄上様の母上、ネルデア様のところへ毎週通っていたからだ。
ネルデア邸は丁度、学院と実家との間位の位置にある。
昔、女騎士だったネルデア様は希望する騎士見習い達に鍛練の場をとネルデア邸の離れと庭に設置されている訓練所を開放して下さっているのだ。
ルミアーナ姉様の弟(息子の嫁の弟)なら、自分の息子と一緒だと、とても良くして下さる。
僕は、その好意に甘えて学園外での鍛練の場所をお借りしているという訳だ。
僕が、他の騎士見習いの方々と手合わせをしているときなども助言を下さる。
その助言はさすが元女騎士!僕の直さなければいけない所を的確について下さる。
僕が騎士学科でトップでいられるのは、ここでの修練の賜物だろう!
更には、ほぼ毎週、姉さまが双子の子供たちと来ていて子供たちをネルデア様に預ける少しの時間だが僕の鍛錬に付き合ってくださるのだ。
え?なんで、姉さまにって?
うん、普通は姉さまが騎士の卵である僕の鍛錬に付き合うなんておかしいよね?
でも、姉さまは色々と普通の姉さまじゃないからなぁ…。
なんと武術の達人なのである!
その、花のような見た目に反して物凄く強い!
月の石の主にして公爵夫人ルミアーナ・ラフィリアード。
それが、僕の姉様。
僕の姉様!…と、いっても実家のアークフィル公爵家に引き取られて弟になったというのが本当のところだ。
かつて僕は、隣国のジャニカ皇国の第三皇子の小間使いだったのだが、お供をしているときに魔物に襲われ飲み込まれてしまったのだ。
そのとき助けて下さったのが駆け落ちしておしのび?の姿だったダルタス将軍とルミアーナ姉様だ。
その上二人は、たまたま助けた僕を本気で自分たちの子供として連れ帰ろうとしていて…。
僕はもちろん、そんな大それたことは思ってもいなくて、ただ一緒にいたいと思ってついていった。
駆け落ちの果てに結婚を許されたというラフィリルへの帰り道で、僕は二人の身分を初めて知ったのだ。
そりゃあもう、びっくりしたものさ!
最初に出会ったときに、義兄上様はラフィル、姉様はミアと名乗っていた。
僕は、義兄上様のことは、ハンターだと思っていたし、姉様のことは…人の姿になって表れた女神様だと思っていたっけ…。
まぁ、実際、月の石の主で、精霊たちを従えているんだから当たらずとも遠からずだよね?
この国ラフィリルでは精霊信仰が強い。
そんな中、月の石に宿りし精霊たちはすべて姉様を主と呼び従う!
血族の中でも唯一の『選ばれし姫』なのだから!
そんな姉様は、僕の中で現在最も尊敬する人だ!
そして最愛というか、一番愛しいのはその子供たちだ!
僕は、恥ずかしながらメロメロである!
とにかくとにかくとにかく、もぅ可愛らしいのだ!
ジーンとリミア
漆黒の髪と深い碧の瞳のジーン
蜂蜜色の髪と琥珀の瞳のリミア
母親譲りの美貌が、わずか二歳にして、ありありとしている。
こんなにも綺麗で無垢な子供達!
一人で歩き出すようになれば、どれほど危ないだろう?
今はまだ、どこに行くにも最強の母親(姉様)が一緒だからいいけれど!
しかも、双子の片割れリミアは、僕の婚約者でもある!
これは、父上や母上。ダルタス兄上やルミアーナ姉様が決めた事で、そこに僕の意志はなかった。
けれど僕は、それをとても嬉しく思っている。
まだ、初恋も知らない僕だけど、リミアやジーンの事は世界で一番大事なのだ!
叔父の立場でしかも婚約者の立場であれば、将来的にもずっとこの天使達を見守っていける!
あ!もちろん、リミアが望むなら僕は婚約をとりけして叔父として彼女を見守り続けるつもりだ!僕はリミアを縛りつけるつもりなどないのだから!
この婚約は、彼女が政略的な陰謀に巻き込まれない為のものであることくらい僕は心得ているのだ。
僕は二人の側にいられれば、それで幸せなのだ!
この幸せの為、ぼくは誰よりも強く!誰よりも賢く!誰よりも優しくあらねば!
天使達が親から離れだしたら、僕が陰日向なく見守っていきたい!
騎士学科を卒業後は、二人の護衛騎士にしてもらうのだ!
僕は、その為ならば、どんな修行も耐えて見せる!
ルミアーナ姉様による鬼のようなスパルタ特訓にも喜んで挑んでみせるとも!
***
そう、騎士学科どころか学園でトップの成績を誇るティムン…教師たちの間では将来の将軍候補かと言われているティムの目標は、けっこうささやかだった。
そして、優秀すぎるが故に、彼にそのささやか過ぎる目標は逆に厳しそうなのだが、本人はその事を知る由もなかった。




