300.ティムンの学園生活01~ローガ・ザンガ先生視点
俺は、ローガ・ザンガ!
ラフィリル王立学園の騎士学科の教諭だ。
今、最も将来が楽しみだと思える生徒!それが、公爵家嫡男、ティムン・アークフィルだ。
彼が、学園の騎士学科に入って来たのは、三年前である。
入学してすぐに大地震がおき、ラフィールとシムに黒魔石が関与したと思われる未曾有の大魔災害が起きた時、泣き叫び狼狽える生徒たちの中、彼だけが一人冷静だったのには驚いた。
彼は地震の直後から慌てふためく生徒たちを根気よくなだめて落ち着かせてくれた。
なのに、普段偉そうにしている生徒ほど役立たずだった。
普段、とても温厚だった彼が良い意味でキレたのにはスカッとした。
取り乱して他の科の生徒を踏みつけて逃げ出そうとした馬鹿な生徒を一喝し、皆の頭を冷やしたのだ。
「馬鹿者めらっ!それでも誇り高き騎士学科の生徒か!自分より弱い生徒を優先しろっ!自分達は強く優秀だと威張りちらしていたではないか!優秀で強い者は最後でいいはずだろう!」
彼はそう言い、我先に逃げようとしたクラスメート達を片っ端からしばき倒し後ろに回したのである。
「学士科の生徒の避難が先だ!騎士学科の生徒は魔法学科の生徒と協力しろ!」
「秩序を保て!普段の授業を思いだせ」
「一班から整列して要救護者がいないか確認しつつ、素早く外へっっ!」
わずかでも誇りのある者は、その言葉に我を取り戻し、ティムンの指示に従った。
その後、すぐにルミアーナ様による避難通知が空に映り、教師の出る幕がなかったほどに避難はスムーズだった。
あの時の皆の驚いた顔は見ものだった。
どんなに腹が立っても、さすがに教師が生徒に手をあげる訳にはいかない!正直助かった。
(騎士団とかに入ってしまえば別だけど)
いやぁ~!あの時は、ほんっとにスッキリした!
あの冷静かつ俊敏な判断!そして、その采配!惚れ惚れしたものである。
あの時の彼の対応は教師たちの間でも後々まで語り草になったものである。
もはや伝説と言っても過言ではない!
無論、ティムンが次期公爵なのも生徒たちには内緒だ。
何を隠そう彼は、あの月の石の主ルミアーナ様の義弟なのである。
しかし愚か者どもは、ティムンの腰の低さや柔和な感じから彼の身分を低いものと勝手に勘違いをしているようだ。
聡い者ならティムンが自らの采配でいずれ人の上に立つべき人間だと感じる筈なのだが愚者の勘違いに思わず苦笑してしまう。
特に分かっていない愚者は、我先に逃げようとした中途半端に気位の高い中位貴族のボンクラ子息たちだ。
彼らは、伯爵家や侯爵家の次男だったり三男だったりする訳なのだが…なげかわしい限りである。
ちなみに比較的にではあるが、跡継ぎたる長男長女らは貴族のなんたるかを諭されて育っているせいか幾分、思慮深いものが多いようだ。
まあ、それもこれも月の石の主のルミアーナ様が身分をかさにきるような者どもをひどく嫌うので、そのお陰でか、ルミアーナ様に憧れる貴族達にも、そういった考えが浸透してきていると言えるだろう。
賢い者は賢い者を見習うものだ。
卒業した後、彼の身分が分かったときの馬鹿な貴族のガキんちょどもの青くなる顔を見るのが楽しみでしょうがない!
魔法学科主任教諭のキューリエ・ハンス先生によって魔法結界で護られていた学園ではあったが、生徒を避難させた後、崩れ落ちてしまった。
キューリエは、「あれ以上長くは結界がもたなかっただろう。生徒の避難が早くて助かった」とティムンに感謝していた。
今は、”月の石の主”ルミアーナ様のご発案で、新たに立ち上げられた、ラフリィリル王立グリンヒル学園と併合されて、貴族も平民もなく一緒の教育を受けるようになった。
貴族の子供達は、最初こそ戸惑いをみせたものの精霊軍を召喚し、この世界を黒魔石から救って下さったルミアーナ様のご発案に異を唱えるものはいなかった。
現存する女神のお言葉は聖なるお告げに等しいものだったろう。
そして、学園の中では、平民、貴族、身分の上下関係なく、姓は伏せられ共に授業を受ける。
これは、代々、受け継がれてきた、もともとのラフィリル王立学園の頃からの校則と変わらないものだった。
まぁ、平民の子供が、学園に入ることは、まず無かったが…。
これはこれで才能ある人材の確保に一役買ったものの、新たな問題も無くはなかった。
昔からあったことだが在学中は、身分は全てふしてはいるものの生徒たちの間であらかじめ予測を立てているのだ。
付き合う相手が自分の身分とつり合うかどうか、自分よりも上か下か…。
聡い者はそんな事は気にせず自らを律し、それぞれの学問にはげむが、愚かな者は学園の志を無視してまでも身分や地位にこだわり、周りの人間を推し量るのだ。
そして、ティムンは公爵家の跡取り息子にも関わらず、そんな奴らに”多分低い身分の貴族”として認識されているようだ。
(もともとジャニカ皇国の皇子の小間使いをしていたこともあるらしい彼は、腰が低い。)
話し方は穏やかでやさしく控えめだ。
普段は余程の事がない限り声をあらげる事もない。
それは、自分が侮られ馬鹿にされたとしてもだ。
だが、ティムンは養子とはいえ国王にも認められた正式なラフィリアード家の跡取りなのだ。
座学でも実技でも彼に敵うものはいない。
それが馬鹿な貴族のボンボン達には癪にさわるのだろう。
愚か者たちめが!
彼、ティムンの卒業は、本当に本当に楽しみだ。
彼の身分を知った時の馬鹿者どもの後悔と懺悔!そしてお馬鹿の烙印!
在学中に馬鹿が治らない奴にはいいお仕置になるだろう!
多分、俺以外の先生方もそう思っているに違いない。




