209.そして、新たなる始まり---Fin
いよいよ最終回です!
それから九ヵ月…。
街の復興も他国が驚くほどに進み、町並みは以前よりもずっと整然としている。
暗かった裏通りも崩れ落ちたことにより、逆に綺麗な建物が建ち並ぶようになった。
街全体に、統一感があり清潔で綺麗だ。
天幕のあった丘の上から眺めると、それはまるで一枚の絵を思わせるような美しさである。
人々は、この自分達の街を誇らしく思った。
ここまで来るのに皆が頑張ったのだ!
まだまだ建設途中の建物もあるが、天幕暮らしをしているものはもういない。
それぞれ、新しく建て直した住居に移り住んでいる。
王城も、まだ建築途中ではあるが、仮の居住区は出来上がっており、完成するまでの期間をそこですごしている。
避難所の天幕暮らしでは、何かと大変な事もあったが、庶民のと王侯貴族とのふれあいは思わぬ功をも奏したのである。
まず、才能溢れる者には身分を問わず、その才能にみあった職を与えられるようになった。
貴族の中にも、そして平民にも優秀な者は沢山いるという認識ができたのである。
そして、特筆すべきは、この復興を機に、平民にも無料で通える学校が設立された事である。
この学校に、ティムンも編入し通うこととなった。
平民も貴族も一緒に学ぶのである。
しかも騎士学科や、魔法学科、学士学科に加え、建築学科や調理学科、商業学科が立ち上げられ、それぞれの望む学科へ進めるのである。
学校に上がるまでの基礎知識を学ぶ寺子屋的な無料塾も各教会、神殿等で無償で行われることになった。
家庭で学ぶのが難しい子供たちに、ボランティアの講師達が簡単な計算や文字の読み書きを教えるのである。
ちなみに、この講師は登録制である。
ルミアーナや友達の貴族令嬢方も登録し、週に三日は教えに行っている。
最近、ルミアーナに憧れる貴族令嬢達の間では、講師のボランティアとお菓子作りは一種のステイタスになりつつある。
そして、ルミアーナはそろそろ産み月に差し掛かかり、外出を控えるよう医師に言われ仕方なく部屋に籠ってしばらくして予定通り陣痛が始まった。
リュートが、勤務中のダルタスを連れに瞬間移動する。
初めての出産、しかも双子という事で大層時間もかかるかと思われたが、ルミアーナの陣痛が始まり、お産婆さんが来たあとルミアーナの「ふごぉぉっ!いったぁぁーい!」と言う叫び声が聞こえ、そこから二十分もせずに、まず一人目の女の子が生まれた。
驚くべき安産である。
「おぎゃーっ!」
そして、五分と空けずに二人目の男の子が生まれた。
「「おぎゃあ、おぎゃあっ」」
二人の赤ちゃんの元気な泣き声が部屋の外まで響き、ドアの外でダルタスと、リュートが、飛び上がって喜びあった。
「ふぅ~っ!痛かったー!」と、汗だくではあるがルミアーナはむちゃくちゃ元気だった。
出血も驚くほど少なく医術師や産婆も驚いた位である。
この勢いならあと二~三人産めるのではないかというほどの元気っぷりである。
直ぐに女性の医術師とお産婆さんによる処置が行われ、ベッドの周りもフォーリーや、メイド達によって綺麗にしつらえ直された。
そうして、ようやく、ダルタスや、リュートが、部屋に入ることを許された。
生まれたばかりの子供達は産湯につかったあと柔らかなおくるみにくるまれ、ルミアーナの側に寄り添うように寝かされている。
ダルタスはもちろん、リュートまで大感激である。
「「ち…ちっちゃい」」ダルタスとリュートが、思わず呟く。
もう、もう、手も足も指も爪も全部全部小さくて、むちゃくちゃ可愛い。
男の子は漆黒の髪色に深く碧い瞳。
女の子は、蜂蜜色の髪と琥珀色の瞳である。
どちらもとても綺麗で愛らしい。
「ルミアーナ、よく、頑張ってくれた!ありがとう」
ダルタスが、心からルミアーナに感謝の言葉を伝える。
「名前は、決めた?」
「もちろんだ」
お互い、女の子はダルタスが、男の子は、ルミアーナが名付けようと決めていた。
「じゃあ、娘の名前を教えて」と、ルミアーナが、言うとダルタスが、自信満々に、答えた。
「リミアだ!リミア・ラフィリアード」
「まあ、可愛い。素敵ね!」
「それで、我が家の長男の名前は?」
「ジーンよ!ジーン・ラフィリアード!」
「うむ!いいな!呼びやすくて、よい名前だ!」
周りにいる召し使い達は、見て見ぬフリをしながらも、微笑まし気にその様子をみている。
ご主人さま達は、お互いきゃっきゃうふふと褒め合っている。
どんだけお互いが好きなのか…。
まあ、仲が良くて結構ですけれど…とか、思ったとか思わなかったとか…。
***
ラフィリアード家の"ジーンとリミア!"
後に、このふたりの子らは、その持てる強大なる魔力から"ラフィリアード家の恐るべき子供達"と呼ばれる事となるのだが、それは、また別のお話である。
この二人の誕生は、直ぐ様、精霊である、リジーや、オリー、タスらから、実家のアークフィル公爵家はもちろん、ネルデアや、王家にも瞬時に伝えられた。
直ぐ様、空には花火が打ち上げられ、"月の石の主"の子であり、"始祖の魔法使いの生まれ変わり"と噂される子供らの誕生祭が、今日から1週間、国を挙げて行われる事となった。
アークフィル公爵夫妻とティムン、ルミアーナの身内だけは直ぐ様祝いに駆けつけ、ジーンとリミアに会いに来た。
皆が、もうこの二人にメロメロである。
王家の皆も今すぐにでも駆けつけたいところだが、さすがに、お産という大仕事を終えたばかりのルミアーナの体を案じて贈り物だけが届けられた。
生まれたばかりの赤ちゃんとお産を済ませたばかりのルミアーナには、あまり沢山の面会は良くないと早々に医師に追い出され、広間で歓談し喜びあうと帰っていった。
そして、ラフィリアード家は家人だけになり、ダルタスは、ルミアーナに寄り添い語りかける。
「ルミアーナ、お前がいて子供らがいて俺はこんなに幸せでいいんだろうか?」
「まあ、ダルタス様!それは、私の台詞です。」
「一生、大切にする。ずっと側にいてくれ」
「もちろんです。ダルタス様、子供達がいつか巣だっても、私たちはずっと一緒ですわ。置いていったりしたら、シム神殿の時みたいに追いかけていっちゃいますからね」とルミアーナが微笑んだ。
「一生、君には、頭が上がらないな」と、ダルタスも笑った。
「今日この日から、この子達の物語が始まるのね」
二人はすやすやと眠る双子のジーンとリミアをみて祈る。
どうか、愛しいこの子らも自分達のような幸せに巡り会えますようにと…。
聖なる夜は幸せの光を空に瞬かせながら優しく世界を包んで更けていく。
その祈りは聖なる光の雪を降らせ、人々の心に灯を与えた。
そして世界は限りなく優しいルミアーナの祈りに包まれたのだった。
ルミアーナは幸せに浸り心から思う。
全ての命に祝福あれ!と…。
Fin
長い間、お読み下さりありがとうございます。
一旦、ルミアーナ篇、終了致します。
これ以降は番外編のお話になります。




