207.精霊の帰還
人々は、光に包まれたあと喜びと希望に満ちていた。
精霊賢者は、降り立ちダルタスとルミアーナを魔法で地上に立たせると、その前に立ち二人の手をとった。
「おめでとう、子供らが生まれた時はまた、祝いに来る故、よろしくな。ああ、これ以上、長居はいくら、そなたらの子供らの魔力にが大きくとも、ルミアーナの負担になってはいけないからな…」とリーアが言いその手を離した。
「そんな気遣いをされるのであれば、何もこれほどの軍勢で来なくても…何か意図があったのですか?精霊軍の力をもってすれば、この国の黒魔石ごときは十名ほどの精鋭がおれば十分だったのでは?」とリュートが訪ねると精霊賢者リーアはにやりと口端をあげた。
「ふふん、まだまだじゃのう。リュートよ。黒魔石の邪気が祓われ魔物が消えたからと言って、この国の脅威は消えておらん。他国はこの国の災害をきっかけに、ここ始まりの国ラフィリルを手にしようと狙うだろう」
「…っ!」リュートは、はっとした。
そう、魔物だけが、脅威な訳ではない。
この災害で国力が、弱った所を他国が、狙わないとも限らないのだから。
「ふふん、これだけの精霊に守られし国を誰が狙うことができるか?」と、リーアがドヤ顔で言い放つ。
「「あ!」」と、リュートやダルタスは声を発する。
「で、では、それを他国の人間達に知らしめるために?」
「そうじゃ、一種のデモンストレーションというやつじゃの」と得意げに言った。
「ここは、この世界の始まりの国!デュローイ、メデルエオーサ率いる魔法使い達が興した我が盟友の国!精霊の加護を受けし国なのだと宣言したのじゃ」
リュートは、深く頷いた。
「た…確かに…この光とこの精霊軍の行進…見た者は勿論、熱く語るでしょう。この話は瞬く間に他国にも知れ渡るに違いありません…。他国の魔力をもつものは、実際にこの僥倖を見ているでしょうし…。自らの国の長に訴えるでしょうね…決して始まりの国ラフィリルに手をだしてはならぬ…と」
「そういう事じゃ」とリーアは、まるで小さな子をあやすようにポンポンとリュートの頭をなでて、大きなペガサスに乗った。
「では!またの?」と、精霊賢者リーアは、ダルタスとルミアーナに微笑んだ。
「「はい、ありがとうございます」」ルミアーナとダルタスが精霊賢者リーアと控える精霊軍に頭を下げた。
「精霊軍!帰還っ!」
リーアが片手をあげ、轟きわたるような声で全軍に指示する。
「「「「「はっ!」」」」」
精霊軍の兵士達が声をあげると、銅鑼の音とホルンのような音が鳴り響く。
空が再び平行に割れ、そこに二万の兵が次々に掛け声をかけて一糸乱れぬ隊列でゆっくりと精霊界と人間界との裂け目を越えて消えていく。
「「「「「う~!」」」」」
「「「「「「はぁっ!」」」」」」
勇猛な精霊軍の獅子達の掛け声が儀式のごとき荘厳さで、この世界に響き渡る。
二万もの兵は来た時よりも多くの時間をかけ、盛大な銅鑼の音と角笛の音を鳴り響かせながら、勇壮な掛け声の行進をまるで、この世界の人々に見せつけるように光を放ちながら帰途についた。
その荘厳な輝きと光は空高くこの世界のすべての国々の者達が仰ぎ見る事が出来た。
その光の河のような僥倖を目にしたものは信仰心を煽られ更に祈りを捧げたという。
そうして、精霊賢者が率いる精霊軍の行進を世界に見せつけるようにして帰っていったのだった。
この光景を見た後に、精霊を神のように崇めるこの世界で、ラフィリルを攻めようと考える国はもはや無いだろう…。
この”精霊賢者の行進”もまた、ルミアーナ伝説の一つとなり様々な物語となり各国に伝わるのだった。
ルミアーナとダルタスは、寄り添い合った。
「ルミアーナ、そなたを置いて行ってすまなかった。どれ程自分の浅慮を呪ったか分からない」
「もう、良いのです。お腹の子も私も、この国の人々も無事ですんだのですから」
二人は寄り添い合いお互いの無事を喜びあう。
そして、これから先、何があってもダルタスから離れまいと思うルミアーナであった。
そして、避難してきた人々は、避難所のそれぞれ振り分けられ寝床を得て食事を取り、ようやく人心地ついていた。
貴族と庶民のエリアに、区分された巨大な天幕は、雨風にも十分耐えうる立派なもので、さほど裕福ではなかった庶民達からしたら、今まで暮らしていた家よりも清潔で快適なくらいだった。
天幕の中の床には、すのこのような通気性の良い板がしかれ、その上に暖かい起毛の絨毯が敷かれている。
寝袋式の寝具はゆったりしたサイズで、人数分支給された他、家族単位や居住していた区域毎の天幕に割り振られた事もあり、親しい者たちで寄り添えた事もあり、人々はお互いの無事を喜びあう気持ちの余裕ができた。
子供達などは無邪気に、この天幕生活にワクワクしている。
いや、大人達も実は、けっこうワクワクしていた。
未曾有の大災害の筈なのだが、ダルタスやルミアーナ、人々の心は希望と幸せの予感に満ち溢れていた。
ルミアーナ自身は、結局、美羽の魂ががこの世界の自分と入れ換わった理由を考えてみたが、結局のところ大層な理由などないのだわと納得した。
結局、この世界を黒魔石から救ったのは、この国で最も尊ばれている精霊である。
そして、それを呼び出したのも、自分ではなく、まだ、生まれてもいない自分の子供たちである。
あえて、自分がこの世界に来た理由をあげるならば愛しいダルタスに出会うため、そして、世界を護る程の力を持って生まれるであろう子供たちの母になる為?だろうかとぼんやりと考える。
何にしても終わりよければ全てよし!なのである。
そして、また始まるのだ。
新たな家族のストーリーが!
これからも、お騒がせなルミアーナの周りには色んな事件が起きそうである。
完全なる復興までは、まだまだ沢山の問題がでてくる事だろう。
しかし、それもこれも含めてルミアーナは宣う。
「とっても楽しみね!前よりもっと素敵な街にするのよ!皆で幸せになりましょう」
そして、皆、心から『幸せの予感』に胸を踊らせ微笑むのだった。




