206.受胎告知
一際、大きなペガサスに乗る精霊賢者リーアが空中から地上とダルタスのいる穴の空いた地中を見下ろす。
皆がルミアーナの身を案じて、この国で最も尊ばれる存在、精霊のしかもその長たる精霊賢者リーアに対して挑むような眼差しをおくる。
そんなダルタスやリュート達をリーアは笑い飛ばした。
「ぶぁっはっはっはっ!」
「「な!何がおかしいのですか!」」
リュートと、ダルタスが、同時に叫ぶ!
「いや、いや、すまぬの。ちぃとばかり意地悪じゃったの?」と精霊賢者リーアが、謝罪の言葉を口にした。
「んもぅ、リーアってば相変わらずね?本当に仕方ないわね!リュートは、ともかく私達のお父様まで、苛めないでよ!」と、ルミアーナの中の女性らしき人格が精霊賢者リーアに話しかけた。
「え?お、お父様?」
ダルタスはぎょっとし、訳がわからないという顔をした。
「さよう、ダルタス・ラフィリアードよ!ルミアーナは、そなたの子を宿しておるのじゃ!」
「え!?」
「こ…子供?」とダルタスが言うとリーアは頷いた。
「「「「えぇぇぇぇー!」」」」と、ダルタスやリュート、その場にいた全ての者達が驚愕の声をあげた。
「安心するがよい!ルミアーナの内にある二つの人格はダルタスよ、そなたとルミアーナの子供として生まれる運命の絆で結ばれし魂!其方達も知っているであろう?始まりの魔法使い七人のうちの二人の魂じゃ」
「じ!じゃあ、賢者様や精霊軍を呼び寄せし魔力は…もしや!その、こ!子供の…」リュートが、へなへなとくずれおちながら吐いた。
「さよう、ルミアーナに宿りし子供達の魔力によるものじゃ!生まれる前から父や母を救うとは親孝行な事じゃの?」
『うふふ』『あはは』と、ルミアーナの中の二人が、笑う。
「わ、私とルミアーナの子供が…は、始まりの魔法使いの生まれ変わり?なのですか?」と、ダルタスが、戸惑うように精霊賢者リーアに言葉をかける。
「さよう!ああ、安心するがよい。生まれ変わりとは言っても生まれる瞬間に、この二人の魂の記憶はリセットされて、まっさらな無垢な状態で普通の赤子として生まれてくるのじゃ。始祖の魔法使いの記憶がある訳でも何でもないからの」
「そ、そうなのですか…」とダルタスは一先ず安心した。
どうやら、ルミアーナの体が乗っ取られるとか、そういう事では無いようである。
子供もちゃんと子供として生まれてくるらしい。
しかも、自分とルミアーナに極上の魂を持つ子供を授かったというのである。
それもどうやら男女の双子らしい!
「ダルタス・ラフィリアードよ、我、アウンヘルム・デジアデオ・ラターナリアム・クデオルム・デ・ルメーナゥム・○△※○・ミュウム・リーアが、精霊界を代表して、そなたとそなたの妻、そして生まれてくる子供達に祝福を贈ろう。」
精霊賢者の声はその光景を目の当たりにした全ての人々の心に響く声…思念?で高らかに告げた。
「わが旧友!人間でありながら精霊を異界から呼び寄せるほどの魔力を持つ、精霊界の長である私が認めし者!精霊すべての盟約の友の魂を宿す子供らの父母よ、我ら精霊の加護を!」
と、言うと、空中に浮かぶルミアーナと地上のダルタスに手を振りかざした。するとまばゆい光で包みこまれた二人に二万からの精霊が一斉に跪いた。
後に伝説となったこの光景は"精霊賢者の受胎告知"と呼ばれた。
そして、ルミアーナが自らの意識を取り戻した。
「ダルタス様っ!無事で良かった!」と、空中から一目散、大きく穴の空いた下にいるダルタスへとルミアーナはとびつく。
「あ!あぶないっ!ルミアーナ!」と、ダルタスは慌ててルミアーナの体を抱きとめた。
「ばか!無茶するな!そなたは、身籠っているんだぞ!」と、優しく抱き締める。
「うふふ、ごめんなさい。でも大丈夫よ。この子達は私に怪我のひとつもさせてはくれないから」とルミアーナがお腹に手をあて微笑んだ。
「さよう、始祖七人の魔法使いの中でも最強の二人の魂を宿したルミアーナを傷つけられる者も魔物もおるまい。それに、私の与えた”精霊の加護”は最強だ。怪我も病気も避けて通ると言うものじゃな。死にたくても老衰以外の死にかたは難しかろうて!ふあっふぁっふあっ!」と、リーアが長く白いひげをもてあそびながら笑った。
「は…ははは」
ダルタスはもう、このとんでもない状況に笑うしかなかった。




