204.抗う竜
ルミアーナが、竜を振り返り仰ぎ見る。
そして、地下にいるはずのダルタスを庇うように瓦礫を背にして立つ。
そして、ルミアーナに、剣を捧げしウルバ隊も、ルミアーナの周りを囲むように身構えた。
ルミアーナと竜の瞳はお互いをとらえた。
そして、ルミアーナは、竜の瞳がとても悲しそうな事に気づく。
よく見ると竜は苦しそうに眉を歪めている。
ルミアーナは気づいた。
竜が必死に黒魔石の邪気に逆らおうとしている事を…。
そうだわ!
そう言えば、このシム神殿跡に来るまでに竜は一度も攻撃を仕掛けてこなかった。
何度も何度も苦しそうな咆哮をあげ、それどころか、時折、空から落ちそうになる素振りすら見せたのである。
そもそも、全力で滑空する竜が、馬で走る自分達に追い付けないなどということはあり得ないのである。
ルミアーナは、確信した。
竜は黒魔石に抗おうとしている!
そして、今もなお、”月の石の主である自分”を殺そうとする黒魔石の邪気と戦っているのだろうと、思った。
すると、竜は鋭い爪をルミアーナに向けて下ろそうとしルミアーナの眼前で止めた。
竜の眼から涙が溢れだす。
「「「竜が泣いてる?」」」
「黒魔石の魔力に抗っているのね?」と、ルミアーナが呟く。
騎士達の恐怖が憐れみに変わると竜がもがき苦しみだした。
ダルタスが、地下にある黒魔石を砕く度に竜は気高く美しい心を取り戻そうとしているのだ。
黒魔石の力が弱まっている?
「ダルタス様だわ!ダルタス様や、正規軍の精鋭達がが黒魔石をこの下で、次々と砕いて行ってるのよ!」
「「「「「おおぉっ!」」」」」
「「「違いない!」」」
「そうよ!そうでもなければ、とうに、黒い炎を結界を張る前に何度も仕掛けていたはず!」リゼラがそう叫ぶと皆が同調した。
「「「おぉぉー!」」」
「「「っしゃあああ!」」」
騎士達が、勝機がある事を悟り歓喜の声をあげる!
しかし、黒魔石の呪縛はまだ完全には溶けない。
全ての黒魔石を一刻も早く砕きたくとも地中深く埋もれてしまった黒魔石もあるはずである。
まだ、全ての黒魔石は砕く事ができないのだろう。
黒い竜は、黒魔石の呪縛からルミアーナ達に襲いかかろうとする度に微かに残る自我からそれを拒む。
竜は悲痛な叫び声をあげつつ体を揺らし空中から落ちた。
ルミアーナが悲痛な叫びをあげる。
「だめっ!下にはダルタス様達がっっっ!」
…その時まで、地下にいるダルタス達は、月の石の精霊タスの言葉をたよりに一心不乱に黒魔石を掘り出しては砕いていた。
ダルタスは、とにかく地上にいるルミアーナ達を救いたかったのだ。
タスは、ルミアーナが、ダルタスを守ろうと地上で竜と対峙している事を告げた。
「まったく!リュートも、主の夫も主の側を離れ、結局、主を1人で危険に立ち向かわせるなど愚の骨頂だ!主の願いどおり一緒におれば少なくとも主を一人で闇に染まった黒い竜などと戦わせなくてもすんだろうに!」と、忌々しげにタスが言葉を吐いた。
「ぐぬぅ」と、ダルタスはうなる。
言われずとも、今更ながらひしひしと感じ、思っていることだからだ。
自分は何と愚かだったのか…。
守りたかった相手を危険な目に合わせ、しかもその相手が自分を守ろうと竜に立ち向かっているのだ。
だが、そんな事は後からいくらでも後悔しよう。
今はとにかく黒魔石を砕くのみのだと思うダルタスだった!
ひたすら黙々と黒魔石をみつけては砕く!
竜が、正気に戻れば”月の石の主”を襲ったりはしなくなるはずだ!と必死である。
そうして、堀り続けていくと今まで見たこともないような大きな黒魔石の一角が、現れた。
それは見えて部分でさえかなりの厚みで埋まっている部分はどれ程大きいのかと思われた。
その時である。
さらに凄い振動おきたのは…。
そう、竜が自らを縛る黒魔石の力に抗い、もがき苦しみながら空から落ちた事による振動である。
そしてダルタス達の頭上が崩れて落ちてきた。
「嫌あああああ!」
崩れ落ちてくる瓦礫や、土の隙間からルミアーナの悲痛な叫び声は、その瞬間ダルタスの耳にも届いた。




