201.ダルタス地中に埋まる
ダルタスがシム神殿跡になんとかたどり着くと、上空を舞う禍々しい黒魔竜が咆哮と共にダルタス達をめがけて火を吹いてきた。
とっさに、皆は瓦礫の影に隠れるが、その熱と風圧で瓦礫が崩れ、ダルタス達は地下深くに落とされた。
「「「「うわあぁぁぁ!」」」」
足下が崩れ、精鋭達のほとんどが地下に落ち、最悪なことに残っていた外壁の一部が蓋をするかのようにその穴を埋めてしまった。
不幸中の幸いと言うか唯一の救いは、かろうじて地下の支柱が健在で空間が保たれていた為、地底に閉じ込められた形にはなったが瓦礫に潰されることはなかった…と言うことだけだろう。
「何てことっ!」
水鏡に映ったそれをみたルミネが、外のルミアーナにそれを知らせる。
「何ですって!お母様、確かなの?」
「本当よ!ルミアーナ!ああ!どうしましょう!ダルタス将軍や精鋭部隊の半数以上の方々が地面に埋まってしまったわ!」
否応なくルミアーナは、美羽の記憶の中にある…自分を助けようと瓦礫に埋まってしまった父母の姿を思い出した。
しかし、もう、いちいち気を失ってなどいられない!
失いそうになる意識をぐっともちこたえてルミアーナは、精霊達の名を呼ぶ。
「リジー!オリー!」
「「はい!」」
「ダルタス様は?生きて…生きているわよね?」
「「それは、大丈夫です!」」
二人の返事にほっと胸を撫で下ろす。
「生きているならダルタス様と話はできるわよね?」
「勿論です!月の石をお使いください!」
ルミアーナは、ダルタスに、月の石を使って話しかける。
『ダルタス様!ダルタス様っ!』
地下に埋まったダルタスが、月の石からの呼び掛けに気づく。
頭の中にルミアーナの声が響く。
「!っ!ルミアーナか?」
『はい、ああ!良かった、生きていますね?無事ですか?怪我は?』
「無事だ!しかし、真っ暗で何も見えない!一緒に、埋まった部下達の様子さえわからない」
『月の石を出して握りしめてください!私が何とかしてみます!』
「な、何とかって、一体…」そう、言いながらも懐にしまっていた月の石を取り出す。
そして、ルミアーナは、ダルタスの持つ月の石に直接、話しかける。
『我が夫ダルタス様に預けし月の石の精霊よ!あなたに名前を授けます!姿を現し、明かりを灯し、我が夫を助けて!あなたの名前はタスよ!』
この際、名前が安直すぎるのは、目をつむってもらうしかなかろう!
さすがのルミアーナも、この緊急事態にリュートの時のように、のんびりお洒落で気の利いた名前など考えている余裕などないのである。
まあ、考えようによっては、最愛の夫の名前から二文字とった名前なのだから、それなりに愛情のこもった名前と言えなくもなかろう。
ルミアーナの言葉がダルタスの持つ月の石に届くや否や、石はまばゆい光に包まれ辺りを照らし、精霊は人形をとった。




