199.討伐隊
「落ち着け!」
ダルタス将軍の声が避難所に響いた。
皆がはっとして振り返る。
「これより、魔物の討伐隊を組む!正規軍の第一部隊は、私と共に魔物討伐に!残りのものは、この避難所の守りに備えよ!」
「「「「「はっ!」」」」」と、第一部隊の精鋭達が、すかさず馬に乗り配置につく。
「ダルタス様!私も一緒に!」
ルミアーナが、走りよる。
「ダメだ!」
むろん、ダルタスは、一蹴する。
「なぜっっ?」
「当たり前だ!一番守りたい相手を一番危険な所に行かせる男などいない!」
それはもちろん、もっともな言い分だったが、ルミアーナには通じない。
「側に居ても居なくても死ぬときは死ぬのよ!私は貴方の側でいるために騎士見習いになったの!」と、反論した。
「ダメなものは、ダメだ!お前は、ここで、残りの正規軍と騎士団に守られて俺の帰りを待っていろ!」
まったく譲らない態度でダルタスが言う。
「リュート!」
「なんだ?ダルタス」
「ルミアーナを!お前の主を守ってくれ!」
「ふ…言われずとも…」
「だめよ!リュート!私はダルタス様と!」
「主よ!主には罪もない竜や獣は殺せないだろう?ダルタスの足手まといに、なりたいのか?」とリュートが、冷静にいい放つと、ルミアーナは、言葉につまった。
そうなのだ。
今、魔物と化しているのは何の罪もない生き物達なのだ。
むしろ、その純粋さ高潔さ故に黒魔石に蝕まれたのだから…。
そんな、生き物達を相手に躊躇せず攻撃するなど平和な日本でスポーツ感覚で武道を嗜んできた記憶しかないルミアーナにできる筈もなかった。
大神殿で、魔物に成り果てていた動物も、黒魔石をダルタスが聖剣で砕き月の石ので浄化すると、それはそれは、可愛らしい小さな針ネズミのような動物に戻った。
「こ、殺さなくてもシム神殿で黒魔石を砕いて月の石で浄化すれば!」と、ルミアーナが言うとダルタスとリュートが、首を横にふった。
「むろん、黒魔石を砕き、出来ることなら心優しいと言う竜や獣達も救いたいとは思う。しかし、シム神殿の瓦礫の下にある黒魔石を掘り出す前に襲ってくる魔物は、倒さねばならない」
「気を失わせるとか…」と、ルミアーナは、言った瞬間に後悔した。
甘いことを言っていると自分ながら思ったのだ。
そんな甘い事を言っていたら、皆すぐに死んでしまうだろう。
これは…この世界は現実なのだから…。
「ルミアーナ、お前は優しい…だから、ついてきてはダメだ。魔物は、黒魔石に操られているのだから、意識など元々…無いに等しい。黒魔石を砕かぬ限り死ぬまで襲いかかってくるだろう。ましてや、お前は黒魔石にとっては天敵の”月の石の主”。間違いなく魔物はお前を殺すか支配しようとするだろう」
隣でリュートが静かに頷く。
主であるルミアーナ以外には、無関心なはずのリュートだが、なぜかダルタスとは気があっている。
”主の夫”と言うだけではなく根本的に気が合うのだろうか。
「俺はこの国の将軍だ。王家や民の命を最優先に考えなければならない。時には非情と思える判断もする!それが、善か悪かなど関係ない!俺は、この国を守る為ならば鬼にも悪魔になる!」
そう言ってダルタスは、馬にのる。
「リュート、我らが出たら結界を!」
「承知した」
「ダルタス様っっ」
「ルミアーナ…すまない」
ダルタスは、ルミアーナに、そう言い残し、部下たちを見る。
部下たちはダルタスの眼差しに静かに頷く。
「出発!」とダルタスが掛け声をかけると精鋭たちは
「「「「「おおっ!」」」」と
シム神殿のあった方角、魔物の溢れだす方へと走りさった。
ルミアーナが慌てて後を追おうとしたが、それをリュートやルーク王子らが必死で止めた。
「嫌よ!嫌っ!置いていかないで!」
ルミアーナは、周りもはばからず泣き崩れた。
美羽の記憶の中で、自分を助けて亡くなった両親の事が思い起こされ再びパニックになりかけて、リュートがルミアーナに手をかざす。
そして、ルミアーナは気を失いリュートの腕の中に崩れ落ちた。




