195.呼びかけ-2
それは、空に浮かぶ立体映像だった。
ふわりと無表情な精霊の姿が消えたかと思えば、そこには、女神にも見紛うような若く美しいお姫様が現れた。
いや、正確には”月の石の主”ルミアーナ・ラフィリアードが現れたのである。
人々は、いきなり現れた綺麗なお姫様に驚く。
光の中にたつルミアーナは、精霊にもひけをとらぬ美しさだった。
ルミアーナは、祈るように両手を組み皆に訴えた。
『皆さん、私はルミアーナ…ルミアーナ・ラフィリアードです。どうか私が今から言う事をよく聞いてほしいのです。』
「「「な、なんだ、なんだ?」」」
と皆が皆美しいお姫様を一目見ようと目を凝らす。
立体映像になったルミアーナは日の光にうっすらと透けて見えて、それこそ、この世の者ならざらぬ神々しさと美しさである。
人々は女神様が自分達を助けに来てくれたのだと歓喜した。
(それに引き換えダルタス達などは、必死に瓦礫の山を乗り越えてきた挙げ句、恐れれられるわ、隠れられるわで、何だか、めちゃくちゃ可哀想なかんじである。)
「「「女神様だ!女神様が私達を助けに来てくれた」」」
と、人々は歓喜した。
そして女神の声に耳をすます。
「皆さん!どうか落ち着いて下さい!」
ルミアーナは歓喜する民をなだめる様に、良く通る大きな声で一生懸命訴えた。
「今日、二度の地震が来ましたね?その二度の地震で建物は弱っています。今後もっと強い地震が来れば、大きな屋敷や教会ですら崩れてしまうかもしれません。今いる場所はとても危険なのです。」
人々に不安の声が上がる。
「「「そんなこと言われても」」」
「「「一体、じゃあ、どうすれば?」」」
ルミアーナは、必死に語りかけた。
『ラフィールの小高いなだらかな丘の上に皆さんが避難できる場所を用意しています。国王様が、用意して下さいました。どうかここに来てください!ここでは、皆さんを保護できる準備が整っています!』
そう言って、ルミアーナは自分の後ろに広がる沢山の天幕や炊き出しの鍋の様子を皆に見せた。
鍋からは美味しそうな湯気が立ち上っているのが見える。
「「「おおおっ!」」」
「「「すごい!ご飯まで」」」
「「「「「あそこなら安心なのね!」」」」
『皆さん、移動中にまた地震が来るかもしれません。私の愛する夫、この国の三将軍の一人、ダルタス将軍が、瓦礫をどかし、道を作りながらあなた方の元へたどり着いている筈です。どうか、夫、ダルタス将軍の指示に従い安全にこのラフィールの丘まで避難してきてください。私の夫は、誰よりも強く優しく、何からも皆さんを守ってくれます』と、花のほころぶ様な優しく穏やかな笑顔で言い放った。
「「「「おおおおお」」」」」
「「「「「三将軍の一人?」」」」
「ほんとだ!あの頬の傷!まさか、王都の守りの将軍が来て下さるなんて!」
「「「私ら庶民の為に??」」」
(((((まさか、噂の鬼将軍だとは!))))と、内心驚く者もいた。
また、ダルタスは必死だっただけなのだが、鬼気迫る顔で瓦礫をものともせず街中に突っ込んで来たこともあり
(((((((襲われる!)))))))と思った者がほとんどだった。
「「「「じゃあ、この女神様は、”噂の眠り姫”!?」」」」と、皆が驚き頷きあう。
ルミアーナ達の披露宴やパレードでは、すごい人混みでルミアーナの顔をかいまみることが出来たのはほんの、一握りの人間だけである。
人々は、この空に浮かぶルミアーナの巨大な映像で初めてしっかりと顔を見ることが出来たのである。
噂通り、いや、噂以上の美しさとその優しい言葉に人々は魅了された。
自らの夫を自分達を救う為に差し向けて下さったのだと!
「「「「「「本物の将軍だ!」」」」」
と、皆が一斉に驚く。
(((兵隊のふりをした盗賊じゃなかったんだ!)))
と、思ったのは、内緒である。
「「「「「王家の守りの将軍が私らを助けに来てくれたんだ!」」」」」人々は歓声をあげた!
(((((あんな、怖い顔してるけど)))))と思ったが、それは、さすがに誰も口にしなかった。
げんきんなもので、民達はダルタスがこの女神の夫で、この国の英雄とうたわれる”ダルタス将軍”だと分かると、わらわらと外に出て正規軍の皆に従い避難を始めたのであった。




