194.呼びかけ-1
ダルタスの避難誘導は困難を極めていた。
とにかく人々が、地震を恐れて建物の奥に隠れて出てこようとしないのだ。
どうやら、強面のダルタスや兵士たちにも恐れを抱いているようである。
「くそっ!建物の中は危険だと言っているのに」とダルタスが呻く。
「たぶん、民たちにとっては、地震と同じくらい、俺達軍人やら兵士やらが怖いんですよ」と、腹心の部下であるジョナが仕方なさそうに言う。
ダルタス達によって荷車も通れるような避難路は出来たものの、肝心の避難すべき民たちが建物から出てこないのである。
しかもすでに半壊している建屋の中に…である。
さすがに全壊している建屋からは、逃げているものの教会や学校、とにかく少しでも形の残っている建物の中で蹲って出てこない。
「「「ぎゃああああ~助けてぇぇぇ~」」」
「「「「「「いやぁあああ!」」」」」
「「子供に手をださないでぇぇぇ~」」
「「「殺される~!」」」
と、悲鳴をあげられ、その叫び声を聞いた他の民達が余計に隠れる。
無理やり引き出せば、その様子に更に怯えてますます隠れる。
ダルタス達は、まさかの悪循環にほとほと困り果てていた。
これが戦争なら、敵に恐れられるのはむしろ大歓迎だ。だが今は救助活動をしている筈なのに、まるで鬼悪魔のような言われ様にダルタスも兵士達もうんざりする。
(そうだった…ルミアーナ以外の女子供や、民はこんな反応だったのを忘れてた…)と、がっくりと項垂れるダルタスであった。
お、俺は何て役立たずなんだ。
このままでは、ルミアーナに合わせる顔などないではないかと焦る。
ルミアーナやリュートの話によると一刻を争う事態だとと言うのに…。
しかし、気持ちは焦るもののどうにもならず行き詰まり溜め息をつく。
「一体、どうすりゃいいんだ…俺は隠れた方が?」とガリガリと頭をかきむしる。
そんなこんなでダルタスや部下たちが肩を落としていたその時である。
空が、ぱぁっと光ったのである。
ダルタスや兵士達が空を見上げる。
すると、空から夢のように美しく鳴り響く音色と、美しい声が聞こえてきたのである。
そして、その美しい音色と声は建物の奥に隠れている人々にも聞こえていた。
***
空に虹色の粒子が舞い、響き合うような、それでいて弾けるような、まるでガラス細工の風鈴のような美しい音が鳴り響く。
その音と光に、地震を恐れ建物の陰や奥に隠れていた者達が恐る恐る顔をだす。
そして、人々の心に直接響くような声が届く。
精霊リュートの声である。
『ラフィリルの民よ!聞くが良い!我は月の石の精霊リュート、我が主の命により其方達に主の声を伝えよう!』
人々は地震に恐れおののきながらも、上空に広がる幻想的な光景と直接心に響く声に驚き空を見上げる。
『『『『『おおおっ』』』』』
その神々しい雰囲気に人々も兵士達も驚く。
(ちなみに、ダルタスも驚いてはいたが、リュートと仲良くなりすぎていて、有り難い感じはしなくなっている)
「「「精霊様だって!」」」
「月の石の!?」
「そう言えば、月の石の主が現れて月の石が復活したって教会の神父様が言ってた」
「私も聞いた事がある」
「「「神殿や教会に月の石が配られていたのを見たわ!」」」
「本物の精霊さま?」
「本物でなきゃ、こんなすごい事できないよ!」
「「「そうよね?」」」
「「「そうだよな!」」」
「主って!”月の石の主”さま?」
「「「だよね?」」」
「「「だよな???」」」
「「「「「すごいっっ!」」」」」
人々は先ほどからの恐怖を忘れたかのように、外に集まりだし空を仰ぐ。
兵士達も民も皆、空を仰ぎ見た。
そこには、冴えざえとした美しいリュートの姿が映し出されており、人々は、感嘆の声をあげた。
中には感動の涙を浮かべながら、拝んでいる者さえいる。
ダルタスだけが、(リュートめ!今度は何をやらかしてくれるんだ?何か良い手があるんだな?とにかく、何とかできるんなら、さっさとしてくれ!)と言わんばかりに両腕を組んで空を見上げるのだった。




