191.フラッシュバック
※今回、過去の記憶として、若干、自然災害による辛いシーンが回想であります。
私は夢を見ていた。
何となく、それは美羽だった頃の夢だなと思った。
それは、ルミアーナの中にある神崎美羽の記憶…封印していた、小さな小さな頃の記憶だった。
「いやっ!パパ!ママッ!」
泣き叫ぶ私…。
そのとき、私はまだ小さな子供で瓦礫に埋まった隙間から、わずかに出ている父母の手にすがって泣いていた。
父と母は地震による土砂崩れで埋まったのだ。
地震自体はそんなに大きなものではなかったが数日続いた長雨で山を背に立っていた美羽の家は土砂崩れに巻き込まれたのだ。
大人になった今なら、なんとなく理解できるが、その当時の自分はまだほんの小さな記憶も残るか残らないかというほどの子供で、自分の身に一体何が起きたのかさえ、理解できなかった。
今ならわかる。
家が崩れかけたとき父と母は私を持ち上げ、二人で窓から私を放り投げることで間一髪で私を救ったのだという事が…。
すごい地鳴りと衝撃がおさまると、そこには信じられない光景があった。
二人の手だけが土砂に埋まった窓の隙間から、かろうじて出ている…。
そんな感じだった。
パニック状態の私は、ほどなく消防団のおじさんたちに抱かれてその場を離された。
目が覚めた時には私は現実が受け止められなかったのだろう。
父母が死んだことも、私のために埋まったことも、すっかり何もかも忘れていたのだ。
そして私は、神崎家に引き取られた。
私が自分が養女だと知ったのは私立の中学受験の時に偶然、戸籍を見た時だった。
私がそのことを知ったと気づいた家族は皆が皆、本当に一所懸命、私の事がいかに大事な家族なのか切々と語ってくれたのを覚えている。
その時はちょっとばかり落ち込みもしたが家族が自分をどれほど大切に思ってくれているか分からないほどお馬鹿でもなかったので難なく乗り切ることが出来た。
ただ、本当の両親が、とってくれたあの命がけの行為を忘れていた自分が信じられない!
そしてそれを今さら何故、夢に見るのかも…。
いや!違う。
あれは生きる為に忘れていたのだろう。
あれは、あの頃の小さな自分には受け止めきれないほどの衝撃だったのだ。
涙がとめどなく溢れる。
衝撃的な映像が頭に浮かんだ。
私を助けようとする必死な父と母の顔。
そして放り出された事で生き延びた私。
土塊と崩れた木材の狭間!凍てつくような雨!窓枠の片りんを残したその場所から少しでも私を遠くにへと伸ばした両親の手だけが残る画像…。
それらが私を襲うかのように現れては消え、消えては現れた。
私の目から涙があふれる。
そして叫ぶ。
「パパ!ママ!」
忘れていてごめんなさい!
私だけ助かってごめんなさい!
助けられなくてごめんなさい。
当時三歳かそこらの自分に何かが出来よう筈も無かったが、そんな思いが胸を締め付けて涙が溢れた。
そして私は、すべてを思い出し目を覚ました。
…その衝撃は強く激しく魂の半身(日本にいる美羽)にまで響き渡るのではと思えるほどのものだった。
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Wikipedia参考↓
※フラッシュバック (flashback) とは、強いトラウマ体験(心的外傷)を受けた場合に、後に なってその記憶が、突然かつ非常に鮮明に思い出されたり、同様に夢に見たりする現象 。心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス障害の特徴的な症状のうち1つである




