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目覚めれば異世界!ところ変われば~【Kindle本で1巻発売中】  作者: 秋吉 美寿(あきよし みこと)
ルミアーナの逆襲?
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186.ざけんなよ!ルミアーナの逆襲-9

『主よ…この愚か者…望むなら骨も残さず”灰”にしても良いが…』とリュートがルミアーナの頭の中に話しかける。


『あわわわ…ま!まぁまぁ、落ち着いて…。それより、もしかして今のも全部観客席には映像で流れているの?』


『むろんだ。すごい盛り上がりようだぞ?格闘シーンから不倫疑惑詐称に至るまで全部、何か皆、らんらんとした目でみていたな。主に向かってあの愚かな女(ロレッタ)が、不貞うんぬん言い始めたあたりから特にご婦人方が目をギラギラと輝かせて見入っていたぞ?あれには正直我も驚いた』


『あ~、主婦とかそういうの好きだからね~。じゃあ、いちいち皆に説明しなくても私やツェン様が清廉潔白なのは、分かってるって事ね?』


『もちろんだ!(あるじ)よ!この私にぬかりがある筈もなかろう?くくくっ、一部始終、あの女の僅かな呟きに至るまで音声を拾っているからな…無論先程の無礼な言葉も全部な…フフン…さぞかしダルタスもあの女に怒っていることだろう』


『うぇ…リュート…あなたってば…。う~ん、ここまでやると”灰”になっちゃう方が私ならマシって思うかも…』


 なんせ、生中継だから編集するでなし…あんな勧善懲悪宜しくな感じで愚かで、おバカな悪役として世間にさらされたかと思ったら自分だったら死にたくなるな…と思う。


『おお?そうか?では、逆に、生かしておいてやるか…ふむ…ここまで勧善懲悪な見世物も珍しいかもしれぬな。逆に主は今、ちょっとしたヒロインだぞ』とリュートが真面目に言う。


 そう、今や、観客席では凄まじいルミアーナ新風が巻き起こっているのである。


「さすが、ダルタスの奥方だ!こんなに華奢で美しいのにあんなに強いなんて!」


「「「全くだ!」」」


「変わった奥方だとは思ったけど、最高の女騎士!いや女戦士じゃないか!」


「「「「最高だ!」」」」


「さっっすが、ダルタス将軍の奥方だ!最強の夫婦だぜ!」


「「「ルミアーナ様、すてきぃ~っ!」」」と黄色い歓声も沸き起こっている。


 反面、学生時代ダルタスを見下していた者達は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「くそ!ありえないだろ?何であいつばっかり…」


「う…うらやましすぎる…」と恨み言を吐くものもいれば


「ああっ!学生時代、あんな態度をとるんじゃなかった…将軍になったばかりか、あんなに素晴らしい奥方を娶るなんて…今さら奥様と親しくさせて頂きたいなんて言えやしないっっ」と、すっかりルミアーナファンになってしまったのに!と、山ほど後悔する女性達もいた。


 大体が、今さら、後悔しても後悔しなくても得てしてそういう者達は、ダルタスの記憶にもない奴らばかりなのだが…。

 ダルタスに嫌われていても仕方がないと思い当たる節のある者達は自意識過剰にも青くなるばかりだった。


 しかし、もともとダルタスを崇拝していた男達は、ダルタスの頬の傷などお構いなしのルミアーナにかなりの好印象を持ったが、ルミアーナのまるで舞うような美しい動きにさらに魅了された。


 そしてこの後、ひそかにルミアーナ様後援会”ルミ応援士隊”なるものが発足するのだった。

(この世界初の()()()ファンクラブの発足である)


 誇り高き女騎士達は同じ女としてルミアーナの強さに憧れさえ感じ、まるで男達がダルタスを崇拝するようにルミアーナに心奪われていった。


 しかも、これにドラマのような展開が加わっているのだから、心奪われない筈もない!

 もはや男女ともに観衆の心をがっつりと鷲掴みである!


 だが、自分がヒロインと聞いて「ぶほっ!」と噴き出してしまったルミアーナにロレッタもツェンもロレッタの部下たちも驚く。


 この状況で一体、何がおかしくて笑えるのか?と、リュートとの会話の聞こえない者たちは不思議でしょうがない。


「なっ、何?頭おかしくなっちゃったんじゃないの?この女!」とまたロレッタが金切り声をあげる。


 そうこうしているうちに観客席まで戻ってきた。


 リュートはさっと手をあげて空中にうかぶ大画面を観客席にいる者達だけに見えるように隠した。


 ロレッタ達からは見えない。

 観客達は、一斉にルミアーナやロレッタ達に目を向けた。


 ダルタスが、ルミアーナの所までやってくる。


「ダルタス様、残念ながら優勝できませんでしたわ。コースから外れてしまいましたもの!」とにこやかに報告すると、ダルタスはルミアーナの頭をぽんぽんと撫でて笑った。


「寄り道しなければルミアーナが一番だったろう?わかってるさ」


 二人の甘ったるい雰囲気に、ロレッタが、割って入る。


「騙されてはいけないわ!ダルタス!この女は、とんでもない淫乱よ!」

 と、ロレッタが、言い放った。


「何だと?」とダルタスが鋭い目でロレッタを睨み付けた。

 思わず「ひっ」となり黙るロレッタに、部下達が、加勢した。


「ロレッタ隊長の言う事は本当ですぜ!このお姫様は、ここにいるツェンと仲良く二人のりでコースを外れて逢い引きしてたんですから!」


「そうです!そうです!それに、ツェンだけじゃなくて、そこにいる男まで!」と一緒にいたリュートを指差した。


「はあ?」とダルタスが怪訝な顔をする。


「ダルタス!本当よ!信じて!目を覚まして!貴方、この女に騙されてるのよっ!」と、ロレッタが芝居ががった口調でダルタスにすがりつく。


 ルミアーナは、目が点になり、周りはにわかにざわつく。


『『『『『はぁーーーっ??』』』』』


 観客席にいる、ほぼ全ての者が思った。


『『『『『騙してるのはお前だろ?』』』』』


『『『ずっと見てたし!』』』と!


 観客席からは声なき怒りが溢れかえる!


 だが、ロレッタはそんな事には気づかない。

 どんどん墓穴を掘り続ける。


「ダルタス、私は貴方が可哀想で!こんな女に騙されて!旦那様の同窓会にきて、浮気を楽しむような女は貴方には相応しくないわ!私なら…」


 そこまで言って再びロレッタは、「ひぃっ」と、小さな悲鳴をあげた。


「誰に口を聞いている。我が妻を愚弄するとは命が惜しくはないようだな!」と、ダルタスが、まるで戦場の敵を見据えるかの様な殺気をロレッタに向けて放った。


「ひぃぃぃっ!」と、ロレッタだけでなくロレッタの部下達まで腰が抜けたように地べたにお尻を落とす。


「わ…わわ…私は、貴方の為を思って…」


「まだ、言うかっっ!」とダルタスが、大声を上げるとロレッタと部下達は震え上がった。


 観衆もダルタスの怒りに同調し声を出さぬまでも

『『『うんうん!よくぞ、言ってくれた!』』』と、言わんばかりに頷いている。


「まあ、まあ、ダルタス様、もういいわよ。別に彼女の命なんて要らないし!」とルミアーナがいう。

 自分が関わったせいで、人命を落とされては寝覚めが悪くなると言うものである。


「主よ!それでは、示しがつかぬ」とリュートが、冷ややかに口を挟んだ。


「し、示しっ…って、もう十分な気が…」

 と、ルミアーナの額にたらりと冷や汗が流れ落ちる。


 こんな衆人環視の中、稀にみる馬鹿っぷりをさらしたのだから、ロレッタのことが、さすがに可哀想になってくる。


「「甘いっ!」」


 と、ダルタスと、リュートが同時に叫ぶ。

 その勢いにようやくロレッタが、自分がやらかしてしまったのだと気づくがもう遅い。


「なっ!何よ何よ、私は悪くないわよ!」と泣き出す。


 これには、ルミアーナもぎょっとした。

 今度は泣き落とし?と!


 観衆達も声こそあげないが


『『『『うぁぁぁぁぁ』』』』と、思う。


『『『見苦しすぎる!』』』と…。


 そして、次の瞬間、リュートが溜め息をつき、さっと手を払う仕草をしたかと思うとロレッタと、部下達の前に小さな画像を写し出した。


 先程の馬の足に石の付いた綱を投げつけてルミアーナを落馬させようとした辺りから全てを早送りで映して見せた。


「お前たちの行いは、ここにいる全ての観客が見ておったわ!むろん、ダルタスもな!」と、リュートが言う。


「なっ!」と、ロレッタは、大きく目を見開き愕然とした。

 しかし、咄嗟に彼女はまた嘘をつく。


「わ!私は何も知らないわ!部下達が勝手にやったのよ!」


 その言葉に部下達がキレた。


「「はあ?」」


「なあに、言ってんだぁ?」


「そうだ、そうだ、隊長さんよ!あんた、言ったよな?」


「あの女、襲っちゃいなさいって!」


 その言葉に、さすがのルミアーナも、眉間にしわをよせて不快感をあらわにした。


 騎士になろうなどという者は男も女も高潔な志を持つものが多い。

 特に女性は操を大切に思うものが多いのだ。

 それを軽々しく自分の欲望の為に汚そうとしたロレッタに嫌悪感を覚えた。


 女性たちが眉を寄せ痛々しいものをみる目でロレッタをみる。


 ダルタスもリュートも絶対零度の冷ややかな眼差しでロレッタをにらむ。


 ダルタスにしてみれば、そんな可能性が口に上っただけで血が沸騰してしまうのではないかと思えるほどの怒りが込み上げる。


 観衆達も、もはや誰一人として同情する者はいない。


「この者らに、騎士たる資格はない。この国の三将軍の一人として宣言する。ツェン、トーマ、この者らを捕らえて牢に!」


「いやっ!」と叫ぶロレッタに誰も耳は貸さない。


「やめて!あたしは、嵌められたのよ!こんなの嘘よ!」と泣き出す始末である。


 当然、ツェンもトーマも今更、ロレッタの泣き落としなどに騙される筈もなく、味方だったはずの部下たちすら、もはやロレッタを見る目は冷たい。


 明らかに自業自得だった。

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