184.ざけんなよ!ルミアーナの逆襲-7
そして、観客席の皆はリュートの繰り広げるライブ映像を食い入るように観ていた。
「「「「「わぁあああ」」」」」」と歓声が上がる。
ツェンの後ろに乗ったルミアーナがツェンの肩に手をかけ馬上に立ち上がる。
逃げ惑う覆面男の馬に跳び移り、馬上から突き落とした。
一緒に馬から転げ落ち、ごろごろと転がる形になりルミアーナは直ぐ様、体勢を立て直すと男の胸ぐらを掴み顔を上げさせた。
「ぐあぁっ!このアマ!何て事しやがるっ!」男は暴れようとするが落ちた拍子に腰でも打ったのか足に力が入らない。
「それは、こっちのセリフよ!誰に頼まれたの?正直におっしゃい!」と首を締め上げる。
すると、木の影からまた別の覆面の男がルミアーナに剣をむけて襲いかかってきた。
咄嗟にツェンが剣を抜き、馬から飛び降り賊の前に立ちはだかり覆面男の剣を弾き飛ばした。
「ルミアーナ様!大丈夫ですかっ!」
「あらら、ツェン様、ありがとうございます。」と、余裕のにっこり。
「って……えーと?」
ツェンはルミアーナのあまりにも緊張感も緊迫感もない余裕の様子に戸惑った。
「あら、横からも来ますわよ?油断大敵!」と、胸ぐらを掴んでいた男をその場に打ち捨てて反対側から来た男にルミアーナが素早く跳びげりを入れた。
「ぐぇっ」と、横っ面に蹴りの入った男の覆面がずれた。
「……」
ツェンは、もはや言葉もでない…。
(な…何?この姫様…すっっっごい強いんですけど…)と、目の前の信じられない光景に唖然とした。
何しろテキパキと、倒した男たちを、どっから出したのか縄で縛り上げていく。
その手際の良さは、自分の所属する騎士団にスカウトしたいくらいである。
一方、観客席では、驚きのあまり、あちこちから雄叫びにも似た歓声が上がっていた!
「「「おぉー!」」」
「あっ!危ないっ!」
「「「「「えぇーっ!?」」」」」
「「「きゃー!」」」
「いっけーっ!跳びげり、決まったーっ!」
「「「!ルミアーナ様!素敵ーっ!」」」
「ツェン!呆けるなー!がんばれー!」
等々、まるでサッカー観戦のサポーターの様な熱狂ぶりで、リュートが繰り広げる生中継画像に、皆釘付けけである。
「おぉ、何だか盛り上がってるな、さすが、ルミアーナ!いい動きだ。」
ダルタスも面白そうに観戦している。
トーマもリリアもアンナもキャシーも唖然としている。
ようやくルミアーナが、相当な手練れであると認識したアンナとキャシーが、手をとりあって喜びの声をあげる。
「ちょっ!ルミアーナ様!すっ!凄いんですけど!」
「か、かっこいぃーっ」
その声に我にかえったリリアも叫ぶ。
「ル、ルミアーナ様、素敵!素敵すぎですわっっ!ああっ」と、リリアも感激のあまり、卒倒寸前である。
トーマに至っては、自分の心配がいかに無意味であったか知り、
「嘘だろう?」と、ようやく呟くのだった。
そして、いよいよ、クライマックスである。
ルミアーナ達を追い抜いて行った数人が帰ってきてゴールを切ったが、もはやゴールなど誰も見てはいない。
先陣きった数人の騎士達は、意味もわからず皆が見ている画面に目をやり、そこで繰り広がる格闘シーンに驚くと、彼らもまた画面に食い入るのだった。
もはや、乗馬大会は「ルミアーナ対覆面男達」のリアルタイム大上映会と成り果てていたが、その盛り上りたるや、これまでの乗馬大会を遥かに凌駕しており異論を唱える者は誰もいない!
大熱狂の坩堝である!
こんな面白いもの、この世界では全く無かったのだから、この異常な程の盛り上りは致し方がないと言えよう!
そして、くどいようだが敢えて言わせてもらおう!
当然ながら当事者のツェンも覆面達も諸悪の根元ロレッタも自分達の行いが全てつつぬけになっている事など知るよしもないのだった。




