178.ざけんなよ!ルミアーナの逆襲-1
宴もたけなわ、ルミアーナ達はまさに、話題の中心である。
「ダルタス将軍、かっこいいなぁ~。俺、実は学生の時から憧れてたんだよな。あの誰にも媚びないところとか周りの思惑とか全く気にしてないところとか!」
「あ、わかる!なんつぅうか男の美学だよな」
「そうそう!それ!”男”なんだよぉ~!」
「わかるなぁ~!か~っ!」
「しかも、あんな綺麗なお姫様をお嫁さんにしてさ!しかも、しかもだよ?あのお姫様のダルタス将軍を見る目がまた何とも優しいっていうか、愛を感じるっていうかさ、もう最高じゃね?」と、数人の男達が興奮冷めやらぬ勢いで熱く語り合っている。
実は何気に男子には隠れファンの多いダルタスだった。
まぁ、まっとうな騎士たちの反応は大体にしてこんな感じだった。
ダルタスの幸福な姿を見て自分達まで嬉しくなっているのだ。
そもそも、ダルタスは誰ともつるまなかったが、文武両道、体技、剣技、座学、どれを取っても素晴らしい成績だったし自分を悪く言う相手に対してでも、いつだって公正でダルタスの方が彼らの事を悪く言う事はなかったのだ。
そんな姿はまっとうな判断のできる者達からみたら最高にカッコよく”真の男”を感じさせられた。
トーマのようにダルタスに心酔している者は意外に多かったのである。
それが、これまで、あまり表だっていなかったのは単に男が男のファンだというのはなかなか口に出しては照れる事で大っぴらには言えかっただけのようである。
ただ、ダルタスの事を侮っていた一部の者達もいた。
今、この席で話題をさらっていることすら許せない。
それらの愚か者は自分より下だと思っていたダルタスの栄光が妬ましいらしい。
そんな、検討違いの大変残念なボンクラ貴族の令息令嬢も少数とはいえ、存在していた事は否めない。
そして、それらは少数でも実に有害だった。
学園での和を乱す全くもって迷惑な存在達だった。
だが、学園を取り仕切る大人たちは幸いな事に良識をもちあわせていた。
そんな彼らを国の主要機関には決して行かせはしなかった。
生徒達は、まず騎士学科を卒業した段階で学園からその人柄・能力を総合的に判断され国の騎士団の各部署に紹介配属される。
この最初の配属には貴族たちの圧力はかからない…と言うか、かけられない。
この国の『絶対の法律』と『戒律』で守られているのだ。
そしてそれぞれの場所で活躍して認められることにより昇格していくのである。
最初の段階で見切りをつけられている者も少なからずいる。
武術が秀でていても人格が至らない者。
冷静に全体をみることのできない者。
明らかに能力が足りない者。
そういう者達は、やはり騎士になっても主要部所、主要機関には行けず街はずれや辺境の『そういう者達』ばかりを集めている部署に放り込まれていた。
学園や騎士配属を司る機関も国の為になりそうもない者を優遇するほど馬鹿ではなかったという事だろうか…。
しかし、そういう場所に流されるような者達は、まさか自分達が騎士としては見切りをつけられた上での配属であることなど気づかない有様である。
「自分の家の身分が低いから、そんなところに回されたのだ」とか
「学校に多くの寄付をした家の子供はよいところに配属されているのだ」とか
「コネがなかったせいで…」などと、まことしやかに嘯くのである。
そして彼ら彼女らが一番始末に負えないのは本当にそうだと思い込んでいる所だろう。
自分を知らない彼らはすべてを『身分のせい』『親のせい』『世の中のせい』にするのである。
***
ダルタスが、トーマと話していると我も我もと数人の男達がダルタスに話しかけてきて、それなりに盛り上がっていた。
ルミアーナもにこやかに挨拶をして、とても良い雰囲気で歓談していたが相変わらず、ざらっとした視線は感じていた。
そして遠巻きにルミアーナ達を見る一部の者たちをルミアーナとリゼラはさりげなくチェックしていた。
入り口付近で何やらこそこそと話している。
やたら周りを気にして明らかに怪しい。
あれで騎士だなどと、ルミアーナからしたらちゃんちゃらおかしい。
あれでは、まるでこそ泥ではないかとリゼラも呆れる。
数人の者に何やら指示しているようにも見えるが、まさか部下だろうか?
同窓会に部下とか連れてくるか?いや?まさかな?いくら何でも非常識だしな…と思う。
しかも明らかに何か後ろ暗い事を話している雰囲気がダダ漏れなのである。
相手にとって不足は…ありまくりだが…。
…そう、これは愛しいダルタスにも内緒のルミアーナの…女の戦いである。
相手が例え『しょうもない相手』だとしても愛するダルタスをコケにしたものを放置はできないのだ。
リゼラから月の石を使っての報告が入る。
もはや月の石の通信機能はルミアーナにとっての”スマホがわりよろしく”である。
『ルミアーナ様、あの者たち何やら企んでいる様子ですわ。あからさま過ぎて、笑っちゃいますけれど…こっちから仕掛ける訳にも行きませんし、ここは、リュート様にもご協力を頂いては?』
と、すっかり月の石の通信機能を使い慣れたリゼラがルミアーナの頭の中に話しかける。
声を発しなくていい所などスマホ以上に便利なアイテムと化している。
隠密行動には本当に便利である。
リュートに名前を与えてからというもの、リュートは比較的ルミアーナの家族や側近には好意的である。
随分と人間界に馴染んできたのか表情も豊かになってきたようにも感じられる。
基本、精霊たちは主以外とは例え王族であろうとも気安く喋ることなどない。
よほど気が向くか気に入るかしないと有り得ないのである。
すっかり、リュートは精霊界の者の中では”変わり者”の部類になったと言えよう。
実体を持てるようになってから、こちらで使える魔力もかなり大きいようで月の石の通信も前よりもずっと鮮明に聞こえるようにしてくれた。
リゼラたちからもルミアーナからも何時でもどこでも頭の中にくっきりはっきり聞こえるのである。
『そうね、リュート、聞こえる?何かうまい具合に彼女たちの様子を探れないかしら?』
『主よ!問うまでもない。主が我の依代である月の石を持っている限り、我には何時でも主の声が聞こえている。また面白いことを始めたな?して、何が知りたい?』
『そうね、とりあえず今、彼女達が企んでいること?…かしらね。明らかに挙動不審…私たち…特に私を見る目が悪意に満ちてるのを感じない?』
『確かに…幼く愚かで黒く醜い感情が、あの者にはあるな。主に害を為す者は我が許さぬ』
『ああ、待って待って!リュートは手助けだけでお願い…。リュートが私を守りたいように私もダルタス様を守りたいの…そう、この私が!私の手でケリをつけたいのよ!』
『ふむ…なるほど…面白い…面白いぞ主…我もダルタスのことは”主の夫”というだけでなく気に入っている。そんなダルタスをコケにしたあの者、ダルタス本人が許しても我も納得できるものではない故な…』
『あら、リュートもリゼラから聞いたダルタス様の昔話、聞いていたのね?』
『むろんだ。主の聞いている話は我も聞いているからな』
そのリュートの言葉にちょっと、ん?それってプライバシーは?と一瞬、思ったが、まあ、相手は人間ではない訳だし…と、スルーすることにした。
(相変わらず、こんな所はざっくりと男らしい?ルミアーナである)
『…うん、まぁ、話が早くていいわ!そういう事だから…』
『承知した…』
ルミアーナの月の石がほんの一瞬だけぽうっと光るとその光はロレッタ達のいる扉の向こうに消えた。
さて…鬼が出るか蛇が出るか…。
彼女たちがいまだに、ダルタス様にちょっかいを出すつもりなら、そんな気が二度とおきないように徹底的にやらせてもらいますからね…。
そう思うルミアーナだった。




