166.因果応報
二人が気持ちを確かめあい心から笑い合う様に側にいたルーク王子やリュートも思わず笑顔になった。
「そ…そんな…」とクンテが力なくつぶやく。
「さぁ、主よ、そして主の夫たるダルタス殿、この愚か者の処分はどう致しましょう?」とリュートがひざまづいた。
これにルーク王子は大いに驚いた。
月の石の精霊がひざまづくのはこの世に主、只一人のはず、国王にすらひざまづかぬというのに、ルミアーナと寄り添っているとはいえ、ダルタスにまで跪いたのである。
『驚くことはない、ルークよ、ダルタス殿は主の主人である。主を幸せに出来るのはダルタス殿だけ…と、なれば敬いも致そうというものである』と、ルークの頭の中に語り掛け、ほほ笑んだ。
ルークは静かに微笑み返しリュートに頭を垂れた。
「処分って…まさか、本当に死刑とかはしないわよね?」とルミアーナが言うと、ダルタスが忌々し気にいう。
「ルミアーナ、こんな奴、死刑で当然だ!お前をこんな目にあわせて!」
「で…でも、私は死んだわけではないし…ダルタス様がこんな顔でも良いって言うのなら私はもう…」
「甘い!甘いぞ!そうやって、甘やかすからこういう奴が増長するんだ」とダルタスが言うとルークもリュートもうんうんと頷いている。
「や…でも、このおかげでダルタス様のお気持ちも知ることができたし…もういいかなって」
「な、なんとルミアーナ様、貴女という方は心まで美しい…」とクンテの目に涙が浮かぶ…。
「反省してるわよね?」とルミアーナが言う。
「もちろんです。ルミアーナ様には本当に申し訳なかったと…」
「ほう、それはどの程度の反省なのだ?」とまたリュートが凍てつくような凍える声で尋ねた。
「ひっ…そ、それはもう、ルミアーナ様の痣、代われるものなら代わりたいくらいで…」と言うやいなやリュートはにぃっと精霊とは思えぬような黒い笑みを見せた。
「よくぞ申した!クンテ・ダートよ。その方の願い叶えて遣わそう!」とリュートはその手を天に向けてかざし何やら呪文めいた言葉を吐いた。
「生きとし生けるものを育みし世界を支えし精霊!我が同胞よ我が言霊を持って、その御力、その御業かの者にみせしめ我が手により主に憑きし穢れをあるべき場所に移さん!」一瞬だけルミアーナがひやっと冷たい手に触れられたように感じた直後、クンテが叫んだ。
「うぁあああ!あ!熱い!熱いぃぃ!」
クンテは顔を手で覆い呻いた。
「おおっ」とルークとダルタスがルミアーナをみていた。
「ああっ」とルミアーナも声をあげた。
なんとクンテにルミアーナと全く同じ痣が…と、いうよりルミアーナの痣がそっくりそのままクンテに移ったのだ。
「え?え?どういう事?クンテにも痣が出来たの?」という。
リュートはさっとどこからか鏡を取り出しルミアーナに見せた。
それは、染み一つないもとの美しい白い肌のルミアーナの顔だった。
「あら、まぁ」とルミアーナは気の抜けた声をだした。
そしてクンテにもリュートは鏡を見せてやるとクンテは絶望的な声をあげた。
「うわぁああああ!なんだ、これは!」と叫んだ。
「其方の願い、叶えてやったぞ、これでルミアーナ姫の痣は取り払われた。其方が持ち込んだ穢れは其方の身を以て償うが良い」と言い放った。
「嫌だ!嫌だぁあああ!私の…私の顔がぁあああ!」と叫んだ!
「も!元に!元に戻してくれ!頼む!」
「なんと、其方は姫の痣、代われるものなら代わりたいと言ったではないか?」とリュートが言うとクンテは半狂乱になって叫んだ。
「嫌だ嫌だ嫌だ!私の美しい顔が!」と狼狽している。
さすがにそのみっともない様子にルミアーナも同情する気持ちが失せる。
「貴方ねぇ、そんなに嫌なことをダルタス様にしようとしていたのよ?あたったのが私でなくダルタス様だったら貴方は私に顔をぼこぼこにされていたわよ!」
「嫌だ!ダルタスは、もともと醜かったが私は違う!私は…」と言いかけたところでルミアーナの正拳突きがクンテの顔にクリーンヒットした。
そして倒れたクンテにルミアーナは言った。
「自分にされて嫌な事は人にもしちゃあいけないのよ!」と…。




