157.夜会-3
この夜会で一番身分の高いと思われる王太子が一曲目のダンスを終えた後、他の紳士淑女たちもそれぞれの相手と手を取りあいダンスを始めた。
妻になりたての私とダルタス様も一緒にフロアの中心に踊りでた。
わっと周りからどよめきが起こった。
どうも私とダルタス様はアクルス王太子やルーク王子達より注目されているらしい。
まぁ、もともと眠り姫だの鬼将軍だのと噂されているのはフォーリーやリゼラから聞いて知っていたがこれではまるで珍獣扱いではないだろうか?
もはや、他の招待客の皆さまが観客で自分たちがサーカスに出ている珍獣かピエロ、良くて動物園のパンダの気分である。
結婚式の時は嬉しくて嬉しくて、そんな事感じる瞬間すらなかったけれど、もしも自分が美羽の姿だったとしてもダルタス様は自分を好きになってくれたかしら?
そんな事をちょっとだけ思ってしまった。
まぁ、今までも全く考えなかったと言えば嘘になる。
けれど、今は自分がルミアーナで記憶もまだ曖昧な部分も多いが自分自身がルミアーナであると感じられる程度には混ざってきている。
今さら自分があっちの世界の美羽に戻れる訳でもなければ美羽がルミアーナに戻れる訳でもないんだから考えても仕方はない。
そもそも二人はもとは一つの魂でお互いが、本人であることに間違いはないのだから。
そう思っていたのだけれど…。
仕方ない事は考えても仕方ないので考えないようにしていたんだけど…。
この強くて優しくて超絶カッコいい(注※そう思っているのはルミアーナだけだが)ダルタス様は私がここまで美しくなくても好きになってくれたのだろうか?
前の私くらいでも好きになってくれたかしら?
(注※美羽は不細工ではない、むしろ美人だが中身が男らしすぎてモテなかっただけである!)
踊りながらそんな事を考えてちらっとダルタスの顔を見上げる。
「どうした?考え事か?何でも言うのだぞ?お前は思いこむととんでもない方向に進むからな」と、ちょっとだけ、しかめっ面をした。
(事、恋愛面では頓珍漢なダルタスにしては珍しく鋭かった)
「む、失礼な…そんなことは…」と、思ったが思い返したら思いこみで婚約破棄したり家出したりしてたわ…と思いだした。
「そんなことは…ありました。ごめんなさい」
「ははは、素直だな」
はうっ!ダルタス様の笑顔!心臓に悪いわっ!素敵すぎっ!素敵すぎます!
結婚して妻になってもまだドキドキがとまりませんっ!
「ダルタス様は私がもし…」
そこまで言って口をつぐんだ。
自分がもし今の顔でなくても好きかどうかなんて愚問だ。
見た目だって少なからず重要だからこそおしゃれだってするのだから…。
「どうした?」
「な、何でもないですわ。少し疲れたのかも…」
「そうか。では少し休もう」
ダルタス様はひょいと私をお姫様だっこしてフロアの中央から離れて設置されたテーブルの席までスタスタと連れていってくれた。
こ、これは、ちょっと…いや、大分、照れます。
この時にもどよめきと、さらに女性たちからは軽い悲鳴が聞こえた。
さっきまでの、ちょっとした憂鬱な考えも払拭される。
きっかけが、この美しい顔だったとしても、今、私のこの中身も好きでいてくれるならいいのだ。
中身…に自信は全くないが…。
武闘おたくだったり、こっちでの常識がとっちらかっていたり…。
そんなとこも、全部好きだと言ってくれたもの…。
仮に、ダルタス様が私の見た目だけが好きだったとしても私は全部好きだもの…。
強いところも優しいところも顔の傷を気にたりしてるちょっと繊細なところも…。
そう、本当にそう思っていたのだ。
だから、その時は夢にも思っていなかった。
この後に、それを推し量るような事件がおきるとは…。
そんなつもりもなかったのに…なかった筈なのに、まさか愛しいダルタス様を試すようなことになるとは…。




