156.夜会-2
ルミアーナの美しさに驚愕した紳士淑女達は言葉を失い、かの有名な"眠り姫"をみる。
中には結婚式や披露宴でルミアーナを見たものもいたが間近で改めて垣間見たその美しさに熱い溜め息をもらす。
一方、ルミアーナは周りの驚愕の空気などお構いなしに浮き浮きと上機嫌である。
今日の装いは母とフォーリーそしておばあさまが競うようにして選んで下さった渾身の一品物のドレスである。
あくまでも清楚なイメージの白を基調にしながらも袖や裾には凝ったレース編みがほどこされ、ウェスト部分から裾にかけてシルクの下地の上に薄く淡いレースの生地が重ねられていて、それが、ふわふわと波打つ。
やわらかに輝く淡い金髪に透き通るような肌。
瞳は空を映す泉のごとき煌めきを宿している。
初めての夜会に喜びをかくせぬその様は真に天使か女神かはたまた精霊か…。
肩の辺りまでようやく伸びた髪を編み込み真珠をちりばめている。
この国では髪の短い女性は少ないが、ルミアーナにはとてもよく似合っていた。
とても人妻には見えない少女のように儚げで優し気な見た目のルミアーナに皆、まるで美しい宝石でも見せられたかのように「ほうっ」と感嘆のため息をついた。
こういう周りの反応もルミアーナ自身、なんとなくは感じている。
そしてルミアーナは知っている。
客観的にみて…あくまでも客観的に見ても自分が、あり得ないくらい綺麗なことを!
そう、だって目覚める前はぶさいくではないにしろ、日本人顔で過ごしてきた美羽の記憶が濃いルミアーナである。
目覚めて初めて鏡をみた時の驚きと喜びは忘れようもない。
最初は、なんて素敵な夢かしらと思ったがまさかの現実だった。
けれどルミアーナは、もとは謙虚な日本人の意識も持っているので、さすがに自分で自分の事を美人だと思っている事は内緒である。
決して態度には出さないルミアーナである。
「ダルタス様、私、ダルタス様と踊りたいです」
「そうだな、しかし今日のゲストで一番身分の高いのは王太子であるアクルスだからな。アクルスが誰かと一曲目を踊った後なら踊れるぞ」
「まぁ、そうなのですね?私ってば何にも知らなくって…」
「ルミアーナは夜会など初めてなのだから気にする事はない。おいアクルス、さっさと踊ってこい!ルミアーナはダンスがしたいんだぞ」
普段は、従兄弟ではあるが次期国王として王太子アクルスをたてているダルタスだったが、アクルスがルミアーナに無体を働いて以来、ルミアーナが絡むとアクルスに対してついつい言葉使いと態度が悪くなるダルタスだった。
「おお!では、ぜひ私と最初の一曲目を…」とアクルス王太子がルミアーナに言うやいなや、
「私、夫以外とは踊る気はございませんの」ときょとんとした表情でルミアーナが瞬殺する。
ぶほっとルーク王子が噴き出す。
(笑い)涙をこらえるルークを横目に、
「くっ…じ…冗談だ」と王太子アクルスがいう。
「あら、それは失礼いたしましたわ。では、どうぞ、どなたかと踊ってきてくださいませ」と屈託のない笑顔で王太子をせかした。
王太子は致し方なくではあるが、ロッドリア侯爵の令嬢ポーリンをダンスの相手に選んだ。
今回の夜会主催の侯爵令嬢なので、一番、無難だと思っての事である。




