150.ルミアーナと月の石-序章
ラフィルの王都にある大神殿は一時、邪気に捕らわれ危機に瀕していたが、この国の第二王子ルークと将軍ダルタスの活躍と、ルミアーナの月の石の力により救われた。
そもそも邪気に覆われていたのは、三百年余の昔より現存していた月の石の浄化の力が衰えていたせいでもある。
主を失ってから何百年もの間、この世界を浄化し続けていた月の石の力も限界にきていたのである。
それに反して邪気を取り込む黒魔石は成長し、魔物を育てた。
黒魔石は悪しき意思の塊で弱い心の人間を操り、強い心の人間を取り込もうとする。
その為、黒魔石は見つかり次第、魔法力をもつ神官達の手によって神殿に預けられ清めの儀式をされる。
しかし、その儀式はここ百年ラフィリルの王都の大神殿でしかできなかった。
それは、最後の月の石がこの大神殿にのみにあったからだ。
だが、主をもたない石の力は弱まる一方であった。
そして大神殿に集められた力を増した黒魔石は弱った月の石では浄化されきれずに、どんどんと力を蓄え、大神殿を蝕んで行ったのだった。
そんなある日、月の石は力ある神官達に神託ともいえる”御言葉”を伝え、毒に倒れたルミアーナ姫を救うように伝えた。
『新しき主の誕生がこのラフィリルを救う最後の希望である』と…
だからこそ大神殿の神殿長、デュラムン老師は、自分や神官達が魔に捕らわれ、魔物に取り込まれようともルミアーナに月の石を託し、その命を救うために月の石の力すべてを注ぐことに決め、アークフィル公爵にわたしたのだった。
そして、月の石を失った大神殿は邪気と魔に覆われ黒魔石の力がはびこる魔の温床となってしまっていたのだった。
しかし、月の石は一年をかけルミアーナの命を救った。
異世界に存在したルミアーナの魂のかたわれとの魂の交換を行ったのだ。
死にゆく魂同士の交換…これによってルミアーナは救われると共に月の精霊の主あるじとなる力を得たのだった。
月の石の主、強く逞しいルミアーナの誕生である。
魔法石に精霊の力が宿り、新しい主の為に結晶化して月の石となって生まれ変わった。
(とにかくルミアーナが怒ったり泣いたりする度に主を慰めようとして石は生まれたのである。)
それはもう、ぼろぼろと際限なく、呆れるくらいに生まれた。
大量に生まれた月の石達は国中の神殿に納められ、この国の浄化の為、奉納されていた。
いまや、国中がルミアーナの月の石の守護の元、邪気は身をひそめ、ラフィリルはこの世界で一番、清浄で平和で良い意味で大変、呑気な国になっていた。




