148.騎士学科で
そして最後は騎士学科である。
騎士学科での面談を受け持ったのは、いかにも筋肉隆々でマッスルな感じのローザ・ザンガ先生である。
体は2メートル近くあるだろうか…兄上様より大きそうである。
ローザ先生は、公爵である父上様と、すごく綺麗な母上様に緊張しているようだった。
恐そうな割に純情そうな先生である。
(ちょっとだけダルタス兄上様に似たタイプかも?)
「あ~こほん!ご子息のティムン君はこの歳のわりに体力もありますし足も速く機敏であることが体力測定でもわかります。資質は問題ございません」と先生が淡々と言った。
「ほう…そうですか」と父上様が冷静に受け応える。
「ですが、あくまでも資質です。例えどんなに資質に恵まれようとも鍛錬を怠れば直ぐに追い越されるのが武術の道です。ティムン君自身が騎士になりたい!がんばりたいという努力する気持ちを持ち続けることが一番大切になります」
「なるほど、おっしゃることはごもっともですわ」と母上様も真剣に聞いている。
「なるほど!先生は資質より努力する気持ちが一番大事だとおっしゃりたいのですね?」
「左様でございます。ですから、ここでは身分も関係ございません。生徒は皆、家の名前を伏せてファーストネームだけで過ごします。ああ、公爵様は騎士学科を出られていたのでご存じですな?」
「ああ、そうだ。私も騎士学科を卒業しているからな。王侯貴族ですら家の名など関係ない実力と人柄が物を言うのが騎士学科の良いところだ!」
「ご理解頂けてありがたいです。…ですので親の七光り等ありえないし、親が望むからと入って来ても覚悟のない子供には務まらないのがこの騎士学科での修練です。ですから我ら騎士学科を指導する立場の者は皆、どんなに資質がある御子さまでも無理にはお誘い致しません。」
「うむ、私の頃と変わらない理念だな!」
「はい。公爵様のご入学の頃と同じく、本人に騎士となる覚悟と希望を持つ者のみに入学を許可致します。またご本人やご家族で身分の上下をこの学校生活の中でも翳されたい方々には入学はお断りいたしております。そんなものを気にしていては修練になりませんから」
「いや、すばらしい!それでこそ、素晴らしい騎士も生まれようというものだ」
「この国の守り手の三将軍も皆様も最初はこの騎士学科の門戸をくぐりました。おお、そういえば、公爵様のご令嬢は、かの鬼将軍ダルタス様に嫁がれたとか?」
「おお、そうなのだ!我が尊敬し崇拝するダルタス将軍に娘を嫁がせられたことは本当によかった!娘もそれはそれは幸せそうでな!」と父上様は嬉しそうに語った。
うん、僕もルミアーナ姉さまは兄上ダルタス様と結婚できて本当によかったと思う。
ついつい、うんうんと頷いてしまう。
だって本当に二人ともお互いが大好きでたまらないって感じで、子供の僕から見てもほほえましいっていうか、何だかとってもイイ感じなんだもの。
「ええ、本当に!ダルタス様はとても娘を大事にしてくださって」と母上様もにこやかにいう。
「左様でございましたか、いや、世間の噂など真にあてになりませんな?おかしいと思ったのです。ダルタス様はそのお顔の傷などで婦女子には誤解されやすいですが、誠実なお人柄であることは私も存じておりましたから、眠り姫を無理やり妻にしたなどと言う噂には疑念を抱いておりました」
「なんと、そんな噂が?とんでもない事だ」
「ほんと!ルミアーナは最初っからダルタス様に夢中ですのにね」と母上様がくすくすと笑う。
その笑顔はさすが母娘!
ルミアーナ姉さまそっくりで、でも、もっと大人の女神さまみたいで、凄く綺麗で優しそうである。
ローザ先生も、うっかり、ぽ~っと見とれてしまっていた。
そんな先生に父上様が気づいて「こほん」と、咳ばらいをひとつした。
「はっ!申し訳ございません、ついぼうっとしてしまいました」とローザ先生が慌てて謝った。
「いや、それでは息子の資質は問題ないという事ですな?我が家の方針としては身分問わずの教育方針も大賛成である。あとはティムンの…。息子次第と言う事でよろしいか?」
父上は真面目な顔でローザ先生に念を押した。
あくまでも僕の気持ちを大事にしてくれるつもりのようだ。
「左様でございます。ご本人のご覚悟さえあれば、我が騎士学科はティムン君を大歓迎いたします」
「では、息子と相談して後日、お返事申し上げる」
「お待ちしております」
「それでは」と父上様が軽い会釈をして僕たちはその場を立ち去った。
さぁ、家ではルミアーナ姉さまが今日の結果報告を待ちかねている筈である。




