表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目覚めれば異世界!ところ変われば~【Kindle本で1巻発売中】  作者: 秋吉 美寿(あきよし みこと)
ところ変われば次期公爵?
143/228

142.ティムンのこれから-1

 ダルタスとルミアーナは、正式な結婚式も無事に終えて幸せいっぱいだったが、ダルタスの方は駆け落ち中に溜まりに溜まりまくった仕事を片付けなければならなくなり新婚でありながら、しばらくはまとまった休みなく仕事漬けになりそうである。


「新婚旅行にすら行けなくてすまない」とダルタスは謝ったが、ルミアーナは明るく笑い飛ばした。


「あら、ダルタス様、全然大丈夫よ!数日とはいえ、(駆け落ちした)隣の国での丸太小屋生活も楽しかったし、普通の新婚旅行よりよほど思い出に残る旅になったわ!お仕事がんばって!私は実家に行ってティムンの学校の事とか相談してくるから」


「そうか、ちょっとくらい寂しがってほしい気もするが…まぁ、お前も忙しいんなら、かえって良かったのか…」


「ふふふっ!午後の訓練の時間にはティムンと一緒に見学にいってもいいかしら?近衛騎士団ウルバ隊の方にも顔をだしたいし!」


「大歓迎だ!じゃあ、必死で仕事を片付けなきゃだな」とダルタスは笑った。

 ダルタスはルミアーナと結婚してからよく笑うようになった。

 

 昔の知り合いや部下がが見たら、さぞかし驚くことだろう。


「良かった、じゃあ、後でね?いってらっしゃい!私もお婆(ドリーゼ)様に朝のご挨拶だけしたら出るわね」とダルタスのほっぺにキスして見送り、ルミアーナは実家に向かうのだった。


 ***


 ラフィリルの学校の制度は、一般的には、富裕層や貴族に対するものだが、専攻する学科によってさまざまである。


 基本的に読み書きなどは最低限十歳までに各家庭で習得してからの入学である。


 家人から教わったり、余裕のある家庭では家庭教師などから学ぶことがほとんどである。


 学士学科ではいわゆる歴史や地理、語学や化学といったようなお勉強をする。

 日本でいうところの普通科のような感じである。


 魔法学科などは特殊で、もともとの素養が必須である。

 許容値以上の素養が早く見つかった子供はその時点で神殿預かりとなり、入学までの何年かをすごすことになる。

 その場合、七~八才からの早期入学の制度がとられる事が多い。

 魔法力の強い子供はその力を制御できるようになるまでは実家に帰ることすら出来ず神殿から通う事になる。

 これは、王族ですら従わなければならない決まり事である。


 それ故に生まれつき豊富な魔法力の素養が見られたルーク王子も幼児期から神殿預かりとなり、王城で暮らすようになったのは学校を卒業した十五歳の春頃からだった。


 これは、身に余る魔力が暴走したり邪気に取り付かれ利用されるのを防ぐための措置である。


 そして騎士学科では剣技、弓技、馬術、体技等を鍛え、兵法を学ぶ。


 どの学科も一番最初の一年間は基礎学習から始まるが、専攻授業がありそれぞれの特性を生かしていくことを目指す。


「さて、大体、学校の説明は、こんな感じだ。どれにする?」と、父となったアークフィル公爵が、ティムンに聞いた。


「あら?お父様、お父様の跡継ぎならば騎士学科に行くのでは?」とルミアーナが、疑問におもって聞いた。


「いや?公爵家さえ継いでくれるのなら別に騎士でなくてもよかろう。本人の希望が一番だしな。ただ血筋は残さなければならないので、できれば私の親族の娘たちの誰かと婚約してほしいと言うのはあるがな…」


「えええっ?もう婚約者?ティムンはまだ十歳よ?」


「いやいや、お前だって小さい頃から王太子の妃候補だったし、珍しい事じゃないぞ?お前、本当に記憶がいろんなところで抜けたままなんだな?可哀想に…」と父が眉をひそめる。


「いえ、お父様、大丈夫です。今、とっても幸せですから…でもティムンはそれでいいの?」と改めてティムンに向き合う。


「あ、え~と…貴族間の結婚のほとんどが親が決めたものになることは、僕もわかってはいますが…僕はむしろ、僕なんかと婚約させられるご令嬢が、お気の毒です。そもそも僕に公爵家の跡継ぎなんて…召使として置いて頂ければそれだけで幸せだ今でも本当におもって…」


「まぁだ、そんな事をいってるのか!」とティムンが言葉を言い終える前にアークフィル公爵が口を挟んだ。


「お前は、もう既に私の息子でルミアーナの弟だ!ほら!これを見ろ!」と三枚の書状を開いた。


 そこには三枚それぞれにジャニカ皇国、皇王からとラフィリル国、国王の署名と印の入った養子縁組の内容が記されていた。


「まぁ!お父様、相変わらず仕事がはやいですわね!」とルミアーナが絶賛する。


「そうよ!お父様はこういう事はなんでも早いのよ!ルミアーナのお見合いの時もそうだったでしょう?」と母ルミネが誇らしげに言う。


 そうだった!とルミアーナは思い返した。

 あの時も、その日のうちに王城に早馬を走らせて国王陛下の承諾をもぎ取ったのである。

 娘と妻からの賛辞に気を良くした父アークフィル公は、ティムンの頭をぐりぐり撫でていう。


「この書類はジャニカ皇国、ラフィリル王国をまたいでの正式な書類だ!我が家で一枚、ラフィリアード家で一枚、そしてもう一枚はティムン本人が持つものだ。この養子縁組は、この三者のうちの一人でも異を唱えたのならば解消出来ない神聖なものである!」


 「まぁ、幸い私の兄弟の娘たち、つまりルミアーナやお前と従妹になる娘たちだが十三歳が一番上で下は七歳までで三人もいるからな…お互い好きになれそうな相手を選ぶと良い」と三人の絵姿を見せてくれた。


「どうだ?ルミアーナほどではないものの、中々可愛らしいだろう?」


「す…好きにって…僕、そんなの分かりません」


「まぁまぁ、お父様、さすがにまだ十歳の初恋すらまだの少年に未来の花嫁を自分で決めろ!なんて難しいわ!」


「そうよ、あなた。それだったらいっその事、私達親が決めたほうがまだましじゃなくて?」


「でも、血筋を残すのってそんなに大事?」と、ルミアーナが訪ねる。


「それは、そうだ!血族を残していけば、お前の様な月の石の主がいずれまた何百年後かに現れ、世界を浄化に導く月の石もその時生まれるだろうて」


「な、なるほど、血を残すって全ては始祖からの血族を切らさないためだったのね。そう言えば、ルーク王子も王家は特にそれを気をつけているって言ってたような…」


「そういう事だ。王家と公爵家はあくまでも近親婚にはならないようにだが、特にそこを重視している。とにかく途切れさせないことが重要なのだ。」


「そうだわ!あなた、そんなに無理に今から婚約者を決めなくてもルミアーナ達に娘が生まれたらその子をティムンのお嫁さんにしたら良いのではなくて?」


「えええっ!」とティムンとルミアーナも真っ赤になって驚く。


「ああ、それはいい!それはいいな!」


「そういうことなら、今から婚約者を決めてしまうのは、やめておこう」


「とりあえず、ティムン、お前はルミアーナの!ひいては、わたしアークフィル公爵の眼鏡にかなったのだ!観念せよ!」


「それですよ!それが不思議でしょうがないんです!なんで僕なんですか?僕なんて、たまたま魔物から助けられただけの人間なのに…そんなのおかしいでしょう?」


 ティムンの当然ともいえるその質問にアークフィル公爵はにやっと笑った。


「おまえな、ルミアーナはともかく私が、お前を公爵家跡継ぎと認めたのは保護したいとか可愛いとか、それだけじゃないぞ?」


「は?」とティムンは訳がわからないという表情をした。


「魔物が喰らおうとするのは、とびきり()()()()の人間だけだ。中途半端な人間は操って利用しようとするだけだからな。極上の魂は喰らって身の内に取り込んでしまおうとするんだ。つまりお前の魂は神殿の祭司たちにも劣らない高貴なものだという事だ」


「まぁ、そうだったの?」とルミアーナが感心する。


「そうよ、ルミアーナっては本ばかり読んでいたのに、そんな事も知らずにティムンを引きとると言ったの?」と母に呆れられる。


「そっか、いやに、すんなり認めてもらえるなぁ~?とは思っていたのよね」てへっと笑ってごまかすルミアーナである。


「まぁ、ルミアーナってば」と、ほほほ、うふふと笑い合う母娘である。


「しかも魔物に飲み混まれていたというのに、魂が消滅していなかったというではないか?つまり魂の強さも立証済みという事だ。いくらルミアーナが月の石で浄化したといっても魂が消滅した後なら浄化もできなかっただろうしな!フォーリーからお前の伝言でティムンの事を聞いた瞬間から、我がアークフィル家で養子にしようと思っていたわ!わはははは」と公爵は豪快に笑いとばした。


「なるほど!さすが、お父様!尊敬ですわ!」とルミアーナが相槌をうちティムンはあとずさる。


「ティムン、魔物は側にいたジャニカ皇国の皇子ではなくお前を喰らったのだろう?」

「そ、それは、僕がアルフォンゾ様を庇おうと前に立ったから…」と遠慮がちにティムンがいうと


「前にいたって邪魔なら殺して排除するだけだ。魔物は極上の者以外は口にしない。我が国の大神殿で魔物に取り込まれたのが神殿長や、選ばれし高位の神官達だけだった事からもわかる。つまり、お前は皇国の皇子よりも美しく気高い魂を持っていたという事だ!」


「そ…そんな、買い被りです。アルフォンゾ様よりもなんて、恐れ多い…」と、うつむく。


「おまけに、わずか十歳にして謙虚さまで併せ持つとは、ますます喜ばしい!」


「本当に!ルミアーナはよくもまぁ、こんな良い子を連れ帰ったものです」とルミネも満足そうな微笑みでティムンを引き寄せ頭をなでる。


「まぁ、お母様ずるいですわ!私もティムンを可愛がりたい」とルミアーナまでティムンの頭をわさわさとなでまわす。


「か!堪忍してくださぁ~い!」とティムンは真っ赤になりながら母と姉から逃れて公爵の陰に隠れた。


「まぁ、ルミネとルミアーナは単に可愛いからみたいだが、とにかく私はお前には並々ならぬ大貴族たる資質があると確信している。自分が信じられんのならこの父を信じろ。お前が嫌がってももう、お前は私の息子なのだ」と胸をたたいた。


「そうよ、そして私が母よ」とルミネが言う。


「そうよ、そして私がお姉さまなんだからね」とルミアーナがウィンクした。


 テイムンは感極まって暫く言葉を失いうつむいたが、覚悟をきめたように顔をあげた。


「僕…僕、がんばります。父上や母上、そして姉さまに恥をかかせないように!」その瞳はうっすらと涙でうるみ、でもキッと前を見据えて力強く言い切った。


「おう!がんばれ!」と父、アークフィル公爵もティムンの頭をなでた。


「じゃあ、とにかく学校での専攻学科選びね!」


「でも、僕。自分が何に向いているのかってまだ良く分からなくて…」


「そうか、そうだなぁ…魔物に狙われるって事は実は魔力の素養もあるかもしれないし、一度ルーク王子にもみてもらって相談してみてはどうかと思うんだが…ダルタス将軍の意見も聞きたいしな…」


「それなら、ちょうど午後からダルタス様の訓練の時に差し入れを持ってお城に行こうと思っていたから、ついでにルーク王子のとこにもよってみようかしら?お父様もいく?」


「うむ、そうだな。大事な跡取り息子のことだしな。よし、行こう」


 そしてアークフィル公爵とルミアーナ、ティムンの三人は、その日の午後、王城へ向かう事となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ