125.ルミアーナ、美羽に伝える
「まったくねぇ、あっちの家族はほんっとに過保護なんだから」と、ラフィリルのルミアーナは呟いた。
その優しさを懐かしくも思い胸はきゅっと締め付けられるものの焦れる気持ちの方が勝ってしまう。
傷つくも何も、美羽が養女なのは事実だし隠してもしょうがないと思う。
しかも!家族は美羽と仁がくっつけば良いとまで思っているのに!
とっとと、本当のこと言っちゃえば済むのに!何をぐずぐずしているのだとルミアーナはやきもきした。
仁にしても美羽の事、嫁にしたいほどの『好き』ならハッキリ言えばいい!
美羽は養女で『自分とは血が繋がっていない』と!
美羽が傷つくのが怖いのか、それを言って嫌われてしまうのが怖いのかどっちなんだ!と文句のひとつも言いたくなる。
他人事ではない!一つの魂を分かつ美羽のことだからこそ敢えて思う。
美羽も兄も、しょうもないところで立ち止まってるんじゃないわよ!と!
国王陛下に結婚を反対された時、自分をさらいに来たダルタス様を見習ってほしいものだわ!と思う。
家族にも心配をかけただろう。
自分の側近たちにも死ぬほど心配させたし迷惑もかけたとは思う。
ダルタス様だって、駆け落ちなんてさせて私に申し訳ないと悩んだこともあったようだった。
それでも、手に入れたいと望んでくれたのだ!
家族も国も名誉も地位もなげうって私をたとえ一時、傷つけたとしても必ず自分が幸せにして見せるとそう思ってくれる気持ちが、その行動!その眼差し!その言葉から伝わった。
兄よ!しっかりせんかいっっ!とルミアーナは思った。
(同じ魂とはいえ入れ替わってなかったら自分が兄と?とか考えたら『ないわぁ~』とか思うが、そう考えると入れ替わった事すら運命と言えるのではないかと思ってしまう)
自分が神崎美羽だった時の事を振り返ってみると自分が養女だという事を知らされた時、正直言って全く落ち込まなかったかと言えば嘘になる。
けれど、家族が自分の事を本当に愛しんでくれていることに気づかない程、無神経でも馬鹿でもなかった。
本当に大好きな家族だった。
今だって大好きだ。
血の繋がりなんか無くても本当の家族だった!
今、自分がホームシックにならずに済んでいるのは、今のラフィリルのルミアーナの記憶も既に自分自身のものになっているからだろう。
今の家族も、本当の家族なのである。
美羽はまだルミアーナだった頃の記憶がほとんどで特に兄の仁の記憶が曖昧なのだ。
それは兄の仁に恋してしまったということに怯えているせいだろう。
兄であることを認めたくないが故に、兄であった頃の記憶を無意識に拒否しているのだ。
その記憶の中にこそ、望む答えはあるのに。
ルミアーナは既にほとんどもとのルミアーナの記憶とも溶け合い、子供の時の記憶まですっかりルミアーナである。
かといって眠りにつくまでの十六年間の記憶が無くなった訳ではない。
真に融合したという感じなのである。
もともと一つの魂だったのだから当然の事だと月の石の精霊は言った。
むしろ今現在の美羽の状態が不自然なのだと…。
そしてルミアーナは月の石を通じて美羽にこの事を伝えようと決心するのだった。




