113.ルミアーナ、ラフィリルから日本の美羽と交信する-03美羽からの相談
翌日、ルミアーナ達が宿を出て三人で楽しく家路を旅していた頃、異世界…日本でいた美羽は兄の仁の迎えで亮子の家から自宅に戻っていた。
美羽のほうは、まだ相談したいことがあったので夜一人きりになれる時間を待っていた。
帰ってすぐにお風呂に入り夕食を食べるなり
「ごめんなさい。ちょっと、疲れたから今日はすぐに休みますね?」と家族に言うと早々に部屋に戻った。
家族は心配したが「大丈夫だから」と美羽がほほ笑むのでそれ以上は触れられずにいたものの家族だって美羽が何か悩んでいるっぽいことくらいは気づいていた。
やっぱり、色々、記憶が戻らないせいで辛いこともあるのかもしれないと思いながらどうしてあげたら一番良いのかわからず戸惑っている…そんな感じである。
美羽は部屋に入るなり勾玉をポケットから取り出した。
月の石である。
勾玉の形に生まれた月の石に革ひもを通して首に下げる。
たぶんこの形はルミアーナと二人で創り出した時に美羽がこの形でイメージした為だろう。
お守りにと以前、兄の陣からもらった携帯ストラップがこの勾玉と同じ形だったからである。
ちゃっかり紐を通す穴まで開いていたのは、ちょっと笑えた。
色も仁がくれた水色の勾玉とおそろいである。
無意識にそれを思い描いてしまったようである。
ルミアーナの方は?と言えば、取りあえず昨日の夜、美羽と話せた事で少なくとも入れ替わった事自体では不幸になったりしてない事を確認できたので幾分気も楽になっていたのでティムンやダルタスと家路への旅路を楽しみながら進んでいた。
そして、そろそろ王都につこうかと言う手前にまで来た時に美羽からの声が聞こえた。
『ルミアーナ?今、大丈夫?』
「あっ!美羽!?」と、ルミアーナが叫んだ。
突然、ルミアーナが叫んでダルタスが驚いて振り向く。
ミウとは、ルミアーナが、騎士見習いの時の通り名ではないか?なんで自分の通り名を叫ぶのか不思議に思った。
「あ?ミウ?ミウは見習い騎士のお前のことだろう?」とダルタスが変な顔をした。
「あ、ダルタス様、ち、違うの、え~と月の石が話しかけてきて…。ちょっとだけ休憩いいかしら?え~と”月の石”と交信したい事があって…」
「?ん?ああ、別にいいぞ、じゃあ、馬から降りて、そこの木陰で話すといい。俺とティムンは、あっちの小川で馬を休ませていよう、ティムン、お前もいいか?」
「僕も別に大丈夫ですよ?ちょうど、水も汲みたかったし」とティムンも言ってくれた。
二人とも本当にルミアーナに甘い。
甘々である。
「ありがとう。ダルタス様、ティムン!」とお礼を言って馬を飛び降りてダルタスに手綱を渡すと木陰に走って腰かけた。
ルミアーナは、慌てて石を取りだし異世界(日本)の美羽に話しかける。
『おまたせっ!さあ、大丈夫よ!何でも話して』
『ありがとう。今…大丈夫だったの?少し間があったけど…』
『ああ、大丈夫よ?実は色々あって隣の国まで駆け落ちしちゃってたんだけど、結婚も許されて帰るところだったのよね?』
『えええっ?駆け落ちって?』
『あ!そっか、ごめんなさい。言ってなかったね!私、ダルタス・アークフィル将軍と結婚したんだよね!エヘヘ』と、照れながら報告した。
『えええっ!?ダルタス将軍って、あのダルタス将軍?お父様が尊敬崇拝してるとおっしゃってた?』
『あ!そうそう!そうなのよ。お父様ってばダルタス様のこと滅茶苦茶、崇拝しまくっちゃってるもんね?』
『う…嘘でしょう?』美羽が信じられない!という風に呟く。
『え?なんで』
『だって、あんな怖そうな方…あ、あなた、まさかお父様の命令で嫌々?…っって訳はないわよね?駆け落ちしたっていう位だから好きあってはいるのよね?でも、ダルタス将軍だったらお父様が反対なさる筈はないし…はっ…お母さま?反対したのはお母さまかしら?』と、驚きと興奮で自分の悩み事など、一瞬にして何処かに行ったように、ルミアーナに尋ねる。
『いやいやいや、じつは、話せば長いことながら…』
と、美羽の悩みを聞くはずが、ルミアーナは、まず延々とダルタスとのなれそめから今までのあれこれを話すことになった。
話が飛びまくるが気の合った女子同士の語らいなど得てしてそんなものである。(これ、ほんとに!)
普通に話したら三時間くらいはかかりそうなものだが頭の中で話しているせいなのか、異世界との時の流れが違うせいのかはわからないが、ふとダルタス達に目をやっても全然動いていないように見えた。
あれ?まさか、時間止まってる?と、ルミアーナは思った。
昨晩も何時間もしゃべったように感じたのに実際には時間はほとんどたっていなかった。
どうやら異世界と交信している間の時間は止まっているか、限りなくゆっくりなようである。
ひとしきり、ラフィリル王国でのルミアーナの話を話し終えると美羽は、驚きながらも好き合っての結婚ならば本当に良かったと祝福してくれた。
『でも、私がルミアーナのままだったら、きっとダルタス将軍とは結婚などしなかったでしょうね』
『えええ~?なんで?あんなに素敵なのにぃ~?』
『まぁ、それは、好みは色々というか…』と、美羽が口ごもる。
『じゃあ、美羽はどんな人が好みなのよ?』
『わ、私は…』といった瞬間、美羽の頭の中に兄、仁の顔が浮かんだ。
『え?お兄ちゃん?』とルミアーナが、驚いた。
はっとして美羽が頭をふる。
『わ、わたし…わたし…』と、みるみるうちに目からぽろぽろと涙があふれた。
『美羽…あなた…嘘でしょう?』と、今度はルミアーナが呟いた。




