112.ルミアーナ、ラフィリルから日本の美羽と交信する-02
『さて、さっきからだまってるけど、月の石の精霊!聞いてる?このご神体までこなくては話せないのは、面倒だわ?そもそも、あんまり出入りしてご神体なんかに触ってるのをみられたら、美羽が怒られちゃう!どうにかならないの?』と美羽が言うと月の石は答えた。
『主がまた月の石をここで創り出して美羽に渡せばよい』と事もなげに言った。
ルミアーナはぽかんと口を開ける。
『なんだ!そんな簡単なことなら、神殿やネルデア邸に落ちてるやつを美羽に届けてくれたらよかったんじゃないの?』と月の石の精霊にいうと月の石はすうっと人型をとり、ルミアーナに振り返った。
『主よ!無茶を言うものではない。そもそも美羽との交信するにはこちらの月の石と接触できて初めて可能になるのだから』とルミアーナをしかった。
『あ、そうか…う…ご、ごめんなさい』
『わかれば、よろしい』と精霊が言った。
自分の事を主と呼ぶわりには偉そうな精霊である。
まあ、偉いのだろうけれど…。
『じゃあ、とにかく月の石を作りたいのだけど、どうすれば良いの?』
『美羽にも協力してもらうと良い!そもそも魂が二つに分かれても生きていけるほどの光を宿した魂が入れ替わったのだから、手を携えて、その"御力"が一つに重なりあえば特上の”月の石”が生まれよう』と、精霊がいった。
言われるままにルミアーナと美羽は手を重ね祈った。
新しい月の石の誕生を!
ルミアーナと美羽をつなぐ架け橋となる月の石の誕生を!
二人は祈った。
二人の重ねた手の平の中にまばゆい光と重みが生まれた。
『『あ!』』とその石を見ると美しい勾玉の形をした美しい水色の石が生まれていた。
『可愛い!これはいいね。首飾りか何かにして持っておくといいよ』と美羽にわたす。
『ありがとう…ルミアーナ…』くすっと、美羽がわらう。
おぉぅ、なんだろう、中身が違うだけで本当に以前のがさつだった私が、お姫様に見えるから不思議だと、またまた思ってしまい、また美羽に吹きだされる。
だって本当に、そう思うんだから仕方ないよね?
『いえ、何だか、今ではすっかり、自分が美羽で、貴女がルミアーナなんだなって…そう思って…でも…』と、ふっと美羽が悩ましげな顔をした。
『どうしたの?』
『あ、いいえ、また…この二人で作り出した月の石があれば、いつでも話すことが出来るのですよね?』
『うむ、二人はもともと同じ魂だから、他の者からの通信のように気づかないと言うことはなかろう。むしろ、どうでも良いことまでリンクするかもしれないが…』
『あ、という事は今、まだまばらな記憶も徐々にお互いの記憶を埋められたりなんか、するのかしら?まぁ、私の方は最近は随分、子供の頃の記憶まで湧いてきててそんなに困ってないんだけどね?』
『それは、多分石を持たぬ時よりは早いだろう…別に急ぐこともないだろう?お互い記憶がないという事で回りもそれを受け入れているのだから…必要な事は聞きあえばよかろう?』と精霊が答える。
『そうね、そうする』とルミアーナが答えた。
『そうですね、それそろ母屋の方に戻らなければ亮子ちゃんが探しに来るだろうし…また…相談に乗ってくださいますか?』
『何を他人行儀な!私達は、二人でひとつの魂の自分自身なのよ!いつでも頼ってよ!私が分かることなら何でも伝えるわ!』
『ありがとう。昨日から亮子ちゃんちに泊まっていたんだけれど、そろそろ…お兄ちゃんが迎えに来るの…また、帰ってから…一人になってから話しかけるわね?』
『わかった!美羽が何か悩んでるのは感じてた!無理には聞かないからいつでも言って!』
二人はそう言いあって瞳をとじた。
精霊が人型の光(立体影像のようなの)から月の石に戻り、其々の世界にもどった。
ルミアーナが、再び目を開くとそこは、ジャニカ皇国から関所を越えてラフィリルの王都に向かう途中の宿の一室である。
窓際から外を見るとまだ夜空である。
長い長い時間語りあっていたように思うのに、まだ5分もたっていなかったようである。
星の位置もさほどかわっていなかった。
ルミアーナと、美羽、二人が繋がっている時間の流れは別次元にあるのだろうか?と、ルミアーナは、思った。
でもよかった。
亮子ちゃん、昔からすごいせっかちだから何時間も美羽ががどっか行ってたら警察に捜索願いだしちゃいかねないもんなあ…としみじみ亮子の性格を思い返して懐かしく思った。
とりあえず、美羽と話せたのはよかった。
自分なんぞと入れかわってしまい申し訳なく思ったが、お互い入れかわった器に喜びこそすれ、不満はなかったようである。
それがわかっただけでも、本当に良かったと胸を撫で下ろした。
ただ、美羽が、何か兄の仁の事で悩んでいるようなのは感じとってしまった。
あの美しくも優しく、そして冷たい兄が今の美羽にとってどう映っているのか…。
そんな風に思った。
(そう、ルミアーナ…以前の美羽は仁が自分の同級生に対して冷たかった事で誤解したままだったのである)
そして兄は今の美羽を、どう捉えているのか?
気にはなるが、とりあえず連絡が取り合えるようになり安心したら急に眠気が降りてきてごそごそと、ティムンとダルタスの眠る大きめのベッドに潜り込んだ。
とりあえず、また明日である。




