109.仁の戸惑い-02
後で誤解だとは、分かったもののうちの道場に小さいころから通ってきていた幼馴染の”拓也なんかのことを好きだった挙句に泣かされて事故にあった”と聞いて拓也のことを殺してやろうかと思ったくらいである。
後から、全くの誤解だとわかり、殺さなくて良かったと親父と二人でやばかったなと胸をなでおろしたものである。
母と静は同じように怒りながらも、意外と冷静で『殺人はやめとけ!』と止めてくれたことに後から親父と心から感謝した。
しかし…今日のあれは何だ?
あの美羽の耳まで真っ赤になったあの表情!それを隠そうと両手で顔を覆うあの仕草!
病院で目覚めてからの美羽はまさしく人が変わったようである。
いや、何というか、美羽のもつ”オーラ”というか”気”というかは、まさしく美羽だとわかるのだが…
うん、記憶がとぎれとぎれのせいなんだろうが…。
俺の事を時々知らない男でも見るように恥じらったり、おびえたりしているように見える。
今日のは…自惚れじゃなければまるで、恋する乙女のように見えた…。
え?モテない男の妄想?ちっちっちっ!
決してそんなのではあり得ないのである!
自慢じゃないが俺は母ゆずり?の見た目のせいで、かなりモテていたので嫌になるほど告白やら手紙やらを望みもしないのに貰ったりしていた。
中には真剣に思ってくれる子もいた訳だがそういう子には誠実にお断りをしてきた。
これまでに、好きになれるかもしれない?と思った女性もいて何人かとはお付き合いしてみたこともあったが、ここだけの話、家族より大切に思えるような相手には出会えず出会いと別れを繰り返し、今に至る。
今日の美羽は、まるで好きな男の前でどうして良いのか分からなくて困惑している乙女のように見えた。
って、誰に???まさか俺に?
…いや、ないな?ないない!
一時期ではあるが、あれだけ俺に近寄るなオーラを発していた美羽が…。
いや、でも美羽はその時の記憶すらないのか???
…っつうか、まさか、兄っていう感覚すらないのか?まさかの、そこからか???
自分の立ち位置が一体どこにあるかすら分からず戸惑う仁だった。
一度、美羽にどこまでの記憶があってどこまでがないのか確かめたほうがいいのだろうか?
でも医者からはあまり焦らせてはいけないといわれてもいるし…と悩むのだった。




