107.戸惑いの輝夜姫-2
美羽の様子を見て亮子が美羽を気遣うように言った。
「美羽?ほんとに今日泊まっていけば?明日は土曜で休みなんだし、着替えなら私のを貸してあげるわ!女子同士のおしゃべりもたまには良いものよ?」と美羽を自分に引き寄せた。
「仁兄ぃ?いいわよね?」有無を言わせぬ勢いで仁に言うと、仁は少しだけ戸惑うように美羽をみた。
「あ?あ、ああ…。美羽はどうなんだ?その…」
「わたし…亮子ちゃんが…いいなら、本当に迷惑じゃなければ…今日は、亮子ちゃんちに泊まりたい…」と、うつむいたまま美羽は答えた。
美羽は耳まで真っ赤で下を向いていても声もたどたどしくて、ただならぬ雰囲気は仁にも伝わる。
何かに、戸惑い悩んでいるのだろうと。
「…美羽…」
仁は、振り返り、亮子と視線を合わせると亮子も目で答える。
『たのむぞ?』
『まかせて』
と、言ったような目線である。
「さあ、そうと決まれば私の部屋へ行きましょう?仁兄ぃは、また明日、夕方にでも迎えに来てくれたら良いから!」と、亮子は早々に仁を帰らせた。
「美羽は、部屋で待ってて!母さんに晩御飯、美羽の分も頼んでくるから」と、亮子は美羽を部屋に案内した後、少しだけ部屋をでた。
「亮子ちゃん。ごめんなさい…ありがとう…」と、美羽が呟いた。
ひとり、亮子の部屋でベッドに腰掛けて、美羽は思った。
私、何をしてるんだろう?急に来ただけでも、叔父さん叔母さんにもご迷惑だと思っていたのに。
わたし、お兄ちゃんのこと?
美羽は戸惑いながらも自分の気持ちが兄に対すべきものではない事に気づき、どうしてよいか分からなくなった。
どうしよう…どうしたら?
ああ、私はなんてこと…
多分、事故のショックで記憶をなくして、前世の記憶ばかりが強いせいで?
まるで、お兄ちゃんの事を他人のように感じてしまっているのかしら?
しっかりしなくちゃ!
実の兄に…こんな気持ち…おかしいし、気持ち悪い!
そう、お兄ちゃんに気持ち悪いって思われるに違いない…この気持ちは隠さないと!
美羽はそう思った。
美羽の記憶はいまだに曖昧で前世の公爵令嬢だった記憶ばかりがまるで昨日の事のように思いだせる。
今はもう美羽と呼ばれることにもすっかり慣れたが、仁の事は”お兄ちゃん”と呼んではいるが…自分に兄などいない…私は一人っ子だった。
ついそう思ってしまうのは前世の記憶の中にある自分自身…ルミアーナに兄弟がいなかったせいであろう…。
ああ、私どうしたらいいの?
ああ!誰かたすけて!
そんな風に思った時である…。
また、先ほどみかけたキラキラとした光が漂うのが見えた。
これは?
美羽はその光に誘われるように亮子の部屋を出た。




