01. まだあなたを許したわけではなくってよ
「こんなところを待ち合わせ場所に選んで、ご迷惑だったかしら?」
荒波が打ち寄せる高い崖の上に、向かい合うように立つ2人の少女がいた。あたりは暗闇に包まれていて、お互いの姿もうっすらとしか見えない。吹きすさぶ風は、2人の長い髪を荒々しくなびかせている。
「構いませんわ。わたくしの方こそ、御忙しい所に御時間を取って頂いて、申し訳御座いません」
1人がにっこりと笑顔を作る。演技のようなその表情には、気持ちが全くこもっていない。その笑顔を軽蔑するように睨み付ける、もう一方の少女。
「…ワタクシ、まだあなたを許したわけではなくってよ」
強風に混じり始めた雨が、2人の服にいびつな水玉模様のしみをつくる。
「…其れも構いません。貴女様がわたくしの事をどの様に御思いであろうと、其れは貴女様の御勝手で御座います」
作り物の笑顔のまま、崖を背にしているもう1人の少女に歩み寄る。
「ですから此れからわたくしが貴女様にさせて頂く事も、只のわたくしの自己満足。どうか此の御勝手を御許し下さい…」
彼女は瞳を鋭く輝かせ、獲物を狙う肉食獣のように素早く動いた。
「や…やめて!一体何を…!こんな事……どうして…」
稲光と共に雨が急に激しくなる。声は途切れる。
やがて、崖の上に立っているのは1人の少女だけになった。




