04. どーしてこーなっちゃうかなー…
舞台は体育祭の当日に戻る。
「…次の競技はー、競技場にてー、借り物競争ー、特別会場にてー、障害物走ー、です。出場者の方はー…」
「どーしてこーなっちゃうかなー…」
沙夜や蘭子のいる競技場からは離れた障害物走特別会場。ジャージ姿で準備運動をする衿花を、きいなは呆れた顔で見ていた。
「御出場を御予定されていた方が御前日になって御辞退されましたので、障害物走様の走者様が足りなくなってしまったそうですわ」
「あんたが辞退させたんじゃない……大体、だからって、エリがやる事ないでしょ!それでエリが怪我したら結局同じでしょーが!一体何のために悪者になってまで、お嬢様の障害物走をやめさせたのか…」
きいなと同じように、衿花を取り囲む他のクラスメイトたちも一様に心配そうな顔をしていた。
「平良さん、どうか今からでも辞退されたほうがいいわ…。この学園の障害物走は異常ですのよ、とてもお怪我なんてものでは済みませんわ…」
「そうよ!…ああ、2年前の事を思い出しただけでも恐ろしいわ…。どうして平良さんがこんなことに…平良さんだってこの障害物走は廃止するべきだとおっしゃってたじゃありませんか…」
少し離れた場所から、いじわるそうな顔をして両腕を組んでいる別のクラスメイトも言う。
「私は別に貴女がどうなろうと構わないのですけれど、実行委員の話では、今年の障害物走のためにベトナム戦争の元ゲリラ部隊を呼び寄せたらしいわ……悪い事は言わないから今回は辞退なさいな……。こ、これは別に貴女の事が心配だとかそういう事ではなくってよ!…まったく!私がどうして貴女なんかの心配を…」
「わたくしの事でしたらどうか御構い無く。皆様、御声援宜しく御願い致しますわね…」
衿花は周囲のクラスメイト達にへたくそな笑顔を送る。そしてきいなに顔を近づけてささやいた。
「わたくしの御役でしたら多少の怪我、傷跡が有っても成立しますし、最悪の場合、台本様の変更も、代役様を立てて頂く事も出来ます。ただ、鳳様の場合はそうは参りません。だってあの方は主役ですのよ…」
きいなは苦虫を噛み潰したような顔をして、障害物走のスタート位置に向かう衿花の背中を見つめながら立ち尽くしていた。
競技がスタートすると、障害物走特別会場には無数の悲鳴がこだました。観客席にいたある者はその惨劇を見ていられずに手で顔を覆い、またある者はあまりの衝撃に気を失ってしまった。その時だけはそこはお嬢様学園などではなく、ただの戦場だったのだ。




